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チャイニーズのテイクアウト
25年前、初めて1人で住んだニューヨーク郊外のMonseyという街。ここは正統派ユダヤ人が住んでいる町でした。街にはオーソドックスと呼ばれる黒い服を着て、もみあげを伸ばしたユダヤ人が歩いていました。
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学校に通いやすいという理由で、この町のアパートに住むことになった私は、彼らのことは気の止めず普通に学生生活を送っていました。ただ、この街に住む東洋人は私を含め数名だったはずです。町のスーパーマーケットや銀行に行くと住民からはかなりジロジロと見られました。
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私の住むアパート「Valley View Garden」から歩いていけるところにあったテイクアウトのチャイニーズ。週に1回はここでテイクアウトをしていました。ここはカウンターだけの店でテイクアウト専門です。
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当時こういった個人経営のテイクアウト専門のチャイニーズ・レストランは全米のどの町にもありました。どの店もメニューは似ていて、「Beef with Broccori」「Mongorian Beef」などの人気メニューや「なんとかデライト」みたいな店のお勧めがあり、ローメン、フライド・ライスなどがあります。日本にはないエッグ・ロールも人気でした。そして値段がとても安いのです。お金に余裕のない学生は、このチャイニーズでお腹を満たしていました。今考えると、こういった店はどちらかというと貧困層が利用していたのだと思います。利益も上がらないので、店はどこもとても簡素でした。
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当時、その店には、私と同じくらいの年齢の可愛い中国人の女性が働いてました。注文以外は話したことはありませんが、その女性は、化粧もせず無口で淡々とオーダーを聞き、料理が作られると紙でできた四角い箱を紙袋に詰め「Thank you」と中国訛りの英語で言ってくれるのです。おそらく彼女は英語は話せず、中国から来てここで働いているのだと思われました。学校に行っている感じもなく、いつ行ってもレジに立っていたのです。チャイニーズに行くたびに私は彼女の境遇を考えてしまいました。決して裕福ではないけれど、特に辛そうでもない。そして収入はそれほどいいとは思えない。店のコックさんやたまに見かけるスタッフは彼女の家族なのだろうか…
私は安くて美味しいので、この店にはよく通っていたのですが、彼女は私の顔を覚えているのかどうかはわかりませんでした。アメリカの片田舎で同世代の東洋人が頻繁に通っているのに、何年間も会話はありませんでした。いつ行ってもオーダーを聞き、「Thank you」と言われるのです。
そして、私はマンハッタンにある大学に転校し、あのチャイニーズの女性とは話すことなく、この地を離れてしまいました。
そして時間はコロナ前の2019年に飛びます。仕事で訪れたニューヨーク。休日にレンタカーで懐かしのMonseyに向かいました。
学生の頃の懐かしいあのチャイニーズは、同じ外観でまだ経営していました。
早速、店に入るとカウンターの脇にボロボロのテーブルと椅子が4脚置かれていました。一応、イート・インが可能になっているのです。
店員は奥に男性のコックとレジに中年の女性がいました。
早速、ランチでいつも食べてたBeef with BroccoliとFried Riceを頼んだら、当時と全く同じ味!一気に25年前にトリップしたのです。
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店員のおばさんに昔話をしたら、この店は当時と経営者が同じでレシピも変えていないそうです。
このおばさんが あの女性なのか?
それは聞かないことにしました。