特許事務という仕事~外国編~

外国出願は、国内代理人と各国の現地代理人がタッグを組んで権利化に向けて尽力する。何か手続きする際は、クライアント→国内代理人→現地代理人という順で指示が出され、実際の手続きは現地代理人が行う。特許庁から通知が発行された場合はその逆で、コミュニケーションに時間がかかるのが特徴。

なお、管理ソフトを使って出願番号や出願日等の情報や各種通知の応答期限を管理する業務は国内担当と同様。毎度提出書類をクライアントに納品し手数料を請求するという処理も同じ。

外国特許事務の特徴 (国内担当との比較)
►勉強は必須(制度+英語の読み書き)
►外国の祝日や時差を見越した対応
►連休前後は物凄く立て込む
►時には弁理士より制度に詳しい事務先生として強力なサポーターに

外国(内外とも言う)担当は、前日の退勤後に各国の代理人から送られてきたemailを確認することから一日が始まる。日本の祝日も外国は通常営業なので、連休明けはとんでもない量のemailが溜まっており想像すると休み中も憂鬱になる。逆に外国の連休(中国の旧正月やクリスマス等)前は、連休中や連休明け直ぐに期限を迎える手続きに備えてクライアントに意思確認をしたり必要書類を整えたりし、期限を落とさないよう前倒しで準備する。なお、外国での提出物は国内代理人の指示を元に現地代理人がその国の言語へ翻訳して提出するので、特に英語圏以外の国は平日であっても翻訳時間を考慮して逆算して対応する。

外国からの連絡は当然英語で来るし、こちらからの指示や問合せも英語で行う。私の場合、デスクの上の書類は4割が日本語(主に所内で使うもの)、4割が英語、残りの2割がその他(中国語、タイ語、スペイン語等あらゆる言語)だったと思う。残念ながら現地代理人のemailの添付ミス、提出物の不備、請求額がおかしいことは珍しくなく、庁通知にも記載不備があるため、事務で一通りチェックしてからクライアントへ納品する。例えば提出物の記載内容がこちらの指示と違っていた場合は、修正した書類の提出を指示したり事情を問合せたりして、問題ないと言える状態になってからクライアントへ報告する。各国の基本的な手続きの流れは理解しているので、発行されるべき書類が来ていない(特許庁が忘れることもある)ときに先手を打って問合せることもある。

応答書面のドラフトと提出指示レターは弁理士が作成するが、弁理士であっても外国の手続きに詳しいとは限らない。同じような手続きでも、あの国では料金を納付しなければならないとか、委任状が要るとか、翻訳費用が多額になるとか事務の経験則によるサポートは手続きの安全な遂行に不可欠だと思う(費用については事前にクライアントと情報共有しておかないとクレームに繋がるし、必要書類が足りなければ致命傷になってしまう)。弁理士は自分の専門分野の発明しか担当できないけど事務はその制限がないので、どんどん経験を積んで強力なサポーターになれる…かもしれない。

各国の制度の理解、正確なデータ入力は当然ながら、クライアント-弁理士-現地代理人のスムーズな連携のためコミュニケーションを取り、手続きのスペシャリストとして知識と経験則を駆使して弁理士と共に権利化までの手続きを遂行していくのが外国特許事務の主な任務だと思う。

特許事務所は一般的な会社と違い、“自社の商品”というのがない。扱うのはクライアントの出願や権利そのものなのでその分緊張感もあるけど、制度の知識が付けば転職は難しくない。手に職とまで言える仕事かは自信がないけど、場所を変えても長く働ける専門事務の一つです。