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隣りの物語 ~「ケアと物語【1】~

ケアの隣りにはいつでも物語がある。
「ケアと物語」を思う時、私は西加奈子さんの言葉を思い出す。

西さんは癌の告知を受けた後、たくさんの検診に臨むことになった。

それからは、怒涛の検診ラッシュだった。MRI、PET検査、針生検。担当してくれた看護士は、皆カジュアルだった。それに何故か、腕に大きなタトゥーをしている人が多かった。PET検査の時の看護師は、「待ってる間Spotify 聞く?」と聞いて来た。/「私ので良かったら!」/いや、ええよ、と断った。あなたは優しいのね、と言うと、彼女は何故か爆笑した。

西加奈子『くもをさがす』河出書房新社、pp.35-36

癌の当事者となり、検診ラッシュに動揺する西さんにとって、「待っている間 Spotify 聞く?」という看護師さんの質問はまさに「ケアの言葉」だったのではないだろうか。看護師の彼女にとってそれは、あるいは気遣いですら無かったかも知れない。それは爆笑したことからも想像できる。現場でのローカルなルーティーンに過ぎなかったかも知れない。けれど、看護師さんは西さんにそう言葉をかける瞬間、看護師の枠を踏み越えていた。役割を越えてその人が伝わることを私は「ケア」だと言いたい。

ケアの隣りにはいつでも物語がある。
それは名前を持った顔のある一人がもう一人と交差する瞬間であり、出来事だ。本連載では、ある日ある場所ある人々の間で生まれた「ケアと物語」について辿っていきたい。

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