ハイ ・ ライト

1.独白

「はい、全てお話します。お話しますとも。
その前に煙草を吸ってもいいでしょうか。ありがとうございます。いえ、まだほんの1,2年です。
さて、どこから話しましょう。そうですね、彼女と出会ったのは2年程むかしのことでした。ええ、おっしゃる通り彼女の影響です。珍しくもないでしょう?
私は彼女を愛していましたし、彼女も私を愛してくれていました。それだけが私たちにとって信じられるもので、それだけが私たちを繋ぎ留めていました。そうするしか無かったのだと言い換えても良いかもしれません。
いえ、同情などしないでください。確かに私たちは世間一般から見ればごくごく小さな、無邪気に踏み潰される虫のようなものだったのかもしれませんが、虫にだって幸せはあるのです。慎ましやかに、誠実に……まあいささか穏やかとは言いがたい生活ではありましたが、ともかく不幸ではありませんでした。
そう、私たちは童話の主人公のようでした。そしてそうであればどんなによかったことでしょう。青い鳥を探しに行ったり、悪い魔女に囚われるようなことがあれば。しかし、残念なことに私たちには変わらない生活しかありませんでしたので、その生活が変わっていくとしたら私たちからなのでした。
実際、ぜんぜん違う人間だったのです。好きなもの、嫌いなもの、暮らしの決まりから仕事の時間まで。はい、喧嘩は絶えませんでした。
だから……死がふたりを分かつまでとはよく言ったものですが、私はこの愛を終わらせようとし、成し遂げました。とても簡単でした。慎重に準備をしましたから。でもまさか!
── いえ、すみません。もう1本いいでしょうか。
ぜんぜん違う私たちでも、一緒に過ごす時間が増えるとやはりどこかしら似てくるのか、彼女も同じことを考えていたのですね。とても驚いています。
彼女は確かに死んでいましたから。
だからどうして彼女が私を殺すことができたのか、教えてくださいますか」

【続く】

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