#9 さるうさぎの生きる道
島上家との戦い
すがすがしく晴れた空。風がふわりと吹き、いつもの沙留卯(さるうさ)なら、とても良い気分で思いきり遊ぶところだが、今日に限っては違った。あまりにすがすがしく、雲ひとつなく、猿やうさぎの声ももう全く無い静かな街が、沙留卯にはとても怖く、不気味に思えたのだった。
「キー」と奇妙な音を立てて、扉が開いた。
「仕えの者から聞いたのですけども、あなた達が山中様ですね。」
女のうさぎが言うと、こちらの返事も聞かないうちに、
「こんなところでお話するなんて、我が家の名誉にかかわる。中でお話しようではないか」
と、主らしき男のうさぎが言った。
「はい、お言葉に甘えて。」
とお母さんが言うと、家の中に入った。さすがお金持ち、と思わず言ってしまうほど、家は高価なものばかりおいてあり、広さも沙留卯の家の10倍はあった。
すると、一番奥の部屋に入った。
「それでは私(わたくし)はここまでとさせてもらいます。」
と仕えの者が言うと、そのうさぎは部屋を出ていった。
「うちになんの用かね?」
「今回の事件、私達、何も知らないんです。おまけに、その事件のことが書いてある新聞も、うちには届いていなかったんです。」
「それは分かった。しかし、なぜ私のところに来たんだ。こちらは、被害を受けた方なのだぞ。」
「分かっています。でも私たち、何も分からないんです。だから、島上様にお会いしたら、何か分かるかと…。」
お母さんがそう言うと、女のうさぎは一瞬顔をしかめた。そして、まるでそれを隠すように、
「そういえば、まだ自己紹介をしていませんでしたね。」
と言い、男のうさぎは、
「そうだったのぉ。わしとしたことが。それでは改めて、私は島上兎造(うさぞう)と申します。」
と言い、
「私は妻の島上兎美(うさみ)と申します。」
と女のうさぎは言った。お母さんは
「よろしくお願いいたします。私は、山中美絵(みえ)と申し、こちらは長女の沙留卯です。」
と言った。すると、女のうさぎが急に泣き出した。
「どうした、大丈夫か?」
「ええ。ただ、この頃は不幸続きでね。私のたった1人の妹はどっかに行ってしまったし、宇幸姫(うさひめ)は誘拐されてしまったし…。」
「ん~…………もう我慢できん。」
「やめてくださいよ。」
「いや、私の子供をどこにやった!さっさと言え。」
無論、こっちも知らないのですから、沙留卯たちは、ただ、そこにいるだけだった。
「知らないのか?言わないのか?まあいい、今回は許してやる。その代わり、さっさと出てけ。裏切り者め。」
お母さんは自分を引っぱって、その家を出ていった。
家を出ると、またあのうさぎがいた。
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