捏造
数年前のことです。
某人気俳優のアイコンを使っているお兄さんにDMで話しかけられました。
「言葉の雰囲気が好き」で声をかけてくださったそうです。
そのお兄さんこそ、言葉が素敵で話の扱いもお上手でした。当時はお返事を渇望しており、アプリのアイコンに赤いバッジが光るだけで喜びに満ち溢れてしまうのでした。
実際にお会いしたら、なんとアイコンの人気俳優とそっくり。顔もスタイルも声も似ていて、何なら人気俳優ご本人よりも、私の目には素敵に映っていたのでした。
しかしお兄さんとの連絡頻度は徐々に減っていき、1年ほど前に完全に連絡を取らなくなりました。一方、反比例するように今度は人気俳優を推していくようになりました。
ドラマ・映画・雑誌・日々の情報収集はもちろんのこと、舞台も観に行って、香りもお兄さんと同じであることがわかりました。
ますますお兄さんとの境界がわからなくなります。
そして今日、映画の試写会で久々にお兄さんに会えるはずでした。
でも、仕事の都合で会えませんでした。
仕事を恨みつつ、せめて画面越しにでもひと目会いたい!とお兄さんを切望します。
いつものようにお兄さんの名前を検索します。
検索結果に写し出されたのは、お兄さんとは似ても似つかない人気俳優の姿。
そこにいたのはお兄さんではない、誰か。
センターパートの髪と整えられた髭が、全然私の好みではない。よく見たら顔も全然違う。スタイルも声も喋り方も。
そういえばお兄さんって、どんな人だっけ。
自分の捏造で形成された記憶のもやを、一つ一つ取り払い、最後に彼らの共通点はなくなった。
同時に、お兄さんの輪郭がどんどんぼやけて小さくなって、消えた。
私はどうやら、綺麗な視界を取り戻せたみたいだ。
本当に好きな人を見つめることができるようになった私、おめでとう。
自分が信じる人を大切に、見たこと感じたことを大切にしようね。
あとすこし、やっぱり、
お兄さんの存在だけは真実でありますように。
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