ファージvs免疫 〜ファージの安全性〜

ファージは、うまく使われれば悪い細菌を退治してくれる人類の味方になります。

しかし人体は、外界から入ってきた異物に対して、例え害がなくても抗戦的になってしまう節があります。(アレルギーもその一例です。)

免疫細胞が元気になって異物をやっつけたり、身体から排除したりしてしまうのです。

せっかく投与したファージ薬が身体からすぐに排出されてしまったら、投与した意味がありません。

それだけならまだしも、抗戦的になった免疫細胞はたまに自暴自棄になり、自分(人間)の身体を傷つけてしまうこともあります。

新しい薬を開発するときは必ず安全面の懸念について検討がなされるようですが、とりわけファージの場合は普通の薬に比べて遥かに大きいため、免疫を抗戦的にしてしまうリスクも高いのです。

ファージ療法の社会実装が現実的になって来た今、ファージに対する免疫反応が安全なものであるかを検討する必要が高まっています。

そこで本記事では、以下のレビューをまとめていきます:

https://journals.aai.org/jimmunol/article/200/9/3037/106918/Contribution-of-the-Immune-Response-to-Phage


ファージは免疫細胞を元気にする


ファージに対する免疫反応は、自然免疫、獲得免疫ともに確認されています。

レビューにはその反応について色々と考察がなされていますが、ざっくり「まだよくわからないけど、微生物に対する一般的な免疫反応っぽい」とまとめてしまっていいと思います。

IgG抗体も作られる場合があります。IgG抗体が作られるということは、ワクチンの作用機序と同じで、次回以降、同じか似たようなファージが体内に入った場合に、素早く排除され得ることを意味します。

これは予想通りというか、仕方のないことだと思います。逆に、免疫反応が全く起こらなかったら、投与後のファージが、不要になった後も人体からなかなか排除されなかったりして、そちらの方がリスクが高いかもしれません。

ただし、免疫反応の程度については、ファージの種類や、投与方法によって大きく異なるそうです。

そこでレビューの後半では、「過去に行われた臨床研究においてどうだったか」についても検討がなされています。

臨床研究における具体例

まず前提として、実はファージ療法を一度も受けたことのない、人でも、すでにファージに対して抗体を持っている人というのが、健常者の中でも一定程度います。

これは、人類が常にファージにさらされているためです。
人間は誰しも口の中や皮膚上、そしてお腹の中に、常にたくさんのファージを持っているためです。たまに血液中にもいるらしいです。

1987年に行われた臨床研究の参加者57人中13人(23%)も例に漏れず、元々血液に検知可能な程度の、ファージに対する抗体を持っていました。

このうち2人(全体の4%)は、血液を80倍に薄めてもまだ検知されるという、かなり高濃度で抗体を持っていました。

これほどファージ投与前から免疫が準備万端だとさすがにファージは太刀打ちできないらしく、この2名ではファージ療法による満足な結果は得られなかったそうです。

一方、抗体を低濃度で持つ残りの11人では、抗体の存在がファージ療法の結果に悪さすることはありませんでした。

また、ファージ投与前にファージに対する抗体が確認されなかった44人(77%)のうち17人(全体の30%)では、ファージ投与後に抗体が検出されるようになってしまいましたが、こちらに関しても、抗体の存在がファージ療法の結果に悪さすることはなかったそうです。

これらのことをまとめると、「ファージに対する抗体を元々たくさん持っている人にはファージ療法は効かなかったけれど、それ以外の大体の人では抗体の存在は結果に影響しない」と言えそうです。

ただし、小規模なこの臨床研究から、他の場合も同じ結果になるとは断定できません。

マウス実験でも

レビューから離れて、別の研究についても見てみました。2023年に投稿された、マウス実験の結果です。

この研究では、薬剤耐性菌に対するファージのカクテルをマウスに7日間連続的に注射しましたが、本当に少し免疫が元気になった以外は特に免疫に変化は出なかったそうです。


まとめ

今回のレビューによると、ファージ療法における免疫反応が大きな副作用としてヒトに悪さした例はありませんでした。

一方、抗体が作られやすくなることは確かなので、これらが本当に安全なのかは、更なる検討が必要だと思います。

また、元々高濃度でファージに対する抗体を持っている人には効かないことが多そうなので、そういう人は事前のスクリーニングでファージ療法の対象外にすることで、無駄なファージの投与を防げます。

安全と言われるファージですが、より安全に、効率的にファージ療法を施すために、個人的に免疫反応の研究もしてみたいと考えています。



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