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【ダウン症ベビーとの別れ⑥】羊水検査結果

羊水検査の結果を聞くため、夫と2人で病院へ向かう。電車の中でお互いの緊張が伝わる。早く病院に着きすぎたので、近くのカフェへ行くことにした。他愛無い会話を試みるが、自然と沈黙の時間が増える。


カフェを出る10分前に自分達の考えを言葉にして共有した。羊水検査が陽性の場合と陰性の場合、どのような選択をするのか。胎児ドックでNTを指摘されてから、もう1か月くらい経っていた。毎日2人で嫌になるくらい情報収集し、考え、相談し続けた。それでもお互いに今後の選択について言葉にするのは避けていたような気がする。自分達の”答え”を最終確認してから病院へ向かった。


病院に着き、待合室で待つ。いつもより緊張している。待ち時間が長く感じる。15分程したころに名前を呼ばれ、診察室に入る。検査結果が書かれた紙を渡される。

「21トリソミー、ダウン症です。」

頭の中が真っ白になって、先生の説明が全く入ってこない。検査結果に書かれた内容が頭に入ってこない。結果はシンプルなのに全く理解ができない。夫は気分が悪くなり途中退出。私は自分を保つのに必死だった。



衝撃が大きすぎると、感情や思考が追いつかなくて頭が真っ白になることを初めて知った。涙も出さず冷静な自分に驚いた。

私達夫婦の”答え”は決まっていた。今は何も考えることができないので「中絶します」と医師に伝える事で精一杯だった。「とにかく早く中絶手術がしたい」と伝えた。愛おしい我が子を身近に感じる事に耐えられなかった。現実から目を背けたかった。




この私の冷静な態度は、医師にとって不快だったようだ。
「我が子との思い出を1日でも長く作るために、中絶できるぎりぎりの21週に手術を希望する母親もいる。我が子の胎動を感じながらお別れをするのだ。結果がでるまでの間に夫婦で話し合って中絶という”答え”を決めていたのかもしれないが、あなたの子供は確実に今、お腹の中で生きている。もっと、お腹の子供との思い出を大切にしてほしい。」




産科医として中絶手術はなによりも辛く、NIPTなどの出生前診断を推奨しない医師が多いという話を聞いたことがある。まったくの同感である。多くの命を救いたいと医師になる人が多いので、納得できる。

しかし、妊娠~出産までの短い期間を担当する産科医とは違い、親は我が子の一生に関わるのだ。医師ならば、感情を表に出せない患者の心を汲み取り、寄り添う必要があるのではないか?どれほど待望の妊娠であったか知っているのか?好き好んで中絶する夫婦がいるのか?頭が真っ白の中、言いたい事は山ほどあったが、これから中絶手術を担当してもらう事になるため、何も反論せずに涙を流した。


中絶手術日は1週間後になった。手術の流れの説明を聞く。
その後、復活した夫と合流し、入院手続き、出産後の火葬手続きなどの説明を聞き、帰宅した。


もう仕事が手がつかない状態になった私は上司に「死産のため入院する」と伝え、翌日から休みをもらった。倫理的な問題をはらんでいるので「ダウン症だったので中絶します」とは言えなかった。「もともと心臓が悪く、死産になった」とだけ伝えた。


待望の我が子を中絶するという行為に頭がおかしくなりそうだった。この衝撃的で複雑な感情を自分で整理できる自信がなかった。朝起きる度に「夢じゃなかった」と落胆した。親や兄弟に相談しても誰も経験したことがなく「大変だね」と悲しみに寄り添ってくれるだけだった。私は悲しみに寄り添ってもらう事よりも、感情の整理の仕方を求めていた。


入院日まで図書館へ通い、死産に関する書籍をひたすら探して読むことにした。しかし死産に関する書籍は驚くほど少なく、「死」に関する本や江原啓之のスピリチュアル本にまで手を伸ばした。ジャンルは何でも良いので、とにかく自分の気持ちを落ち着かせる言葉を探し続けた。

その中で「死産の悲しみの一つは、胎児との思い出が極端に少ないこと」ということを知った。世に残るものはエコー写真しかない。担当医師にも言われた「我が子との思い出」。胎児ドックでNTを指摘されてから、お腹の写真をとったり、我が子の妊娠の喜びを記録する事が極端に減っていたことに気づいた。

週末、私達は水族館へ出かけた。お腹の赤ちゃんと家族3人で初めてのおでかけ。少し大きくなったお腹に手をあてて記念写真をとったり、お土産コーナーでお揃いのキーホルダーを買った。1つは棺桶に入れ、もう1つは私が大切に持っておこうと決めた。

(中絶手術前に我が子との思い出を作るなんて考えもしなかった。しかし、死産から1年以上経った現在もお揃いのキーホルダーは大切に持っていて、命日の墓参りには必ず持っていく存在だ。当時の私にとって医師の言葉はとても辛く怒りしか湧いてこなかったが、今はとても感謝しています。ありがとうございました。)


お揃いのジンベイザメのキーホルダー



中絶手術の入院日までの1週間、私達は現実を少しずつ受け入れながら、我が子との大切な日々を過ごした。


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