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ケーブダイバー: 洞窟潜水を読む

ケーブダイバーを主役とした小説を作る過程で、邦書の洞窟潜水本は大してないだろうと高を括りつつ資料感覚で集めて読んでいたら、読書としてガチでハマってしまった。

水深18mまでのオープンウォーター(OW)、そしてディープダイビングできるアドバンスからインストラクターまで、一般的なCカード(ライセンス的なもの)は、基本的に水深35〜40mよりも深く潜ることが禁じられている。それより深くは比べ物にならないほど死が近いテクニカルダイビングの領域で、さらにより危険なケーブダイビングという領域がある。



シェック・エクスリー

Sheck Exley

どこの業界にもカリスマがいて、Sheck Exley(1949-94, シェック・エクスリー, エクスレー/エスクレイ)がケーブダイビングの神だ。Wikipediaを見ると著作が4冊しかなく、うち3冊を入手。未所有の「Mapping Underwater Caves. National Association for Cave Diving.」は1973年。
「Basic Cave Diving: A Blueprint for Survival」 1979
これは、フロリダで多発した事故死への懸念をきっかけに、洞窟潜水安全の為に刊行された歴史的書物。テクニカルダイビング10の推奨事項など。
「Caverns Measureless to Man」 1994
「The Taming of the Slough: A Comprehensive History of Peacock Springs」 2004

Sheck Exley

TamingはPeacock Springs本。画像左はMeasurelessに掲載されている水中洞窟マップのリスト、親切な。画像右は、同じくMeasurelessの2章で語られる、若きシェック・エクスリー(Googleレンズ訳)。読んでいて、フロリダだから流行れたのかなと思う。エクスリー関連の本、訳されてほしい。ポスト-マイヨールにウンベルト・ペリッツアーリがいるが、ポスト-エクスリーにはヌーノ・ゴメス(1951生)がいるらしい。エクスリー潜水死後テックダイブのムードは縦から横への挑戦に切り替わったとジル・ハイナースが綴っていたが、その1994年からヌーノの記録更新が始まっている。

ロバート・F・バージェス「挑戦者たち -未知なる水中洞窟に挑む-」 '1976

挑戦者たち

原題 The Cave Divers。19世紀から現代迄、ケーブダイバーによる水中洞窟ごとの各事例をスリリングな筆致で記していくバイブル級の本。毎章、様相が見えてきた辺りで地図が出てくる絶妙感。エクスリーに痺れる。〈これはまったく精神のゲームなのだ。...今生きていることさえ奇跡に近い。だが、それは偶然や単なる運だけで起こった奇跡ではない〉有名なケーブダイブのスポットに加え、ジャック=イヴ・クストーからウェス・スカイルズ、ウィリアム・ストーンも出てくる邦訳、さらに、関節炎に悩むウッディ・ジャスパーが水の中では自由だと見出しサイドマウンティングを始める話も素晴らしい。
1. モンテスパン(仏) カストレ
2. ウーキーホール(英) バルコーム/シェパード
3. ヴォルクリューズ(仏) クストー/デュマ
4. バウアー(米) リンドバーグ
5. チチェンイツァ(墨) トンプソン,ノーマン・スコット
6. セノート・シュラカー(墨) マーデン 「マヤ遺跡探訪」参考 
7-10.
ワタラ(米) サルスマン, ストーン/スカイルズ/エクスリー
11. ウアウトラ(墨) ストーン/バーバラ
12. ブルーホール(バハマ) ベンジャミン
13-15. リトルソルト/ウォームミネラルスプリングス(米) ロイヤル/クラーク, (ゴッギン博士)/クローゼン/コックレル, バージェス*/エクスリー
16-17. ポンセデレオン/ウォームミネラル/モリソン/ジニースプリングス/ミステリーシンク(米)/ラグナビーチ(米)カシス(仏) リンボー他,仏救出隊にクストー,事故
18-19. ブルーバードスプリング(米) ウッディ・ジャスパー(サイドマウンティング発案者)/スカイルズ
20. アカリテ(西) ジェラード/オルロフスキー
21. マナティースプリングス(米)/マンテ/ザカトン(墨) シェック・エクスリー小伝, デローチ/ストーン/ボーデン/ハーゼンメーヤー
22. 各セノート(墨)

ロバート・F・バージェス「海底の秘宝 -夢と富をつかんだ6人-」 '1988

海底の秘宝

「挑戦者たち」の同著。読書中。
アーサー・マッキー・ジュニア
キップ・ワグナー
バリー・クリフォード
ロバート・マークス
バート・D・ウェバー・ジュニア
メルヴィン・フィッシャー

バーニー・チョードゥリー「The Last Dive 沈黙の海へ還る」 '2000

沈黙の海へ還る

沈船U不明とチャタートン、ケーブダイバーのラウス一家、沈船事故における著者チョードゥリーの高圧室治療(チェンバー)描写、エクスリーについてやアクアコープス誌のマイケル・メンデューノなど、フロリダ近辺のテックダイブ事情。情熱と悲劇と、飽くなきダイバーの渦。

フェルドマンの死によって、多くのダイバーは...やりがいのある魅力的なミッションとみなすようになった。


雄やな。最初の方に、有名な看板も出てくる〈このケイブには、命をかけるほどのものは何もありません!〉痺れる一文。

ひとりは、スティーブ・バーマンという名で、もの静かな男だが、ひとたび洞窟に入るや水棲生物に早変わりし、苦もなくすいすい動き回った。生徒を観察するときは、微動だにせず水中に浮かんでいる。水があまりに透明なので、クリスの目には、精霊が空中を舞っているかのように映った。

いろんな意味で必読本。

ジル・ハイナース「イントゥ・ザ・プラネット -ありえないほど美しく、とてつもなく恐ろしい水中洞窟への旅-」 '2019

イントゥ・ザ・プラネット

女性ダイバーのジル・ハイナースが最深や最長へ泳ぐ。バディとの関係や減圧症、南極(死と隣り合わせ)のアイスダイブ、仲間達の死、フロリダのコミュニティ。なぜ潜るのかの考察。一時代を潜りきったダイバーの記録。冒頭、ウェス・スカイルズが2001年に氷山の下に閉じ込められる話から始まり、おまえ何やってんだよ、とテンションがアがる。最も深く~の章(1995)は「挑戦者たち」11章で描かれたストーンによる次のウアウトラ調査への同行の話だった。著者ジル・ハイナースがOWからケーブ資格をとっていく過程の描写もあり面白い。シェック・エクスリーは著者に出会うことなく世界から退場し、メンドゥーノがちらほら登場。テック黎明期後のエクスリーが神の第一世代の次、アクアコープスというテンション高い第二世代のダイバーかとピントが合う。冒頭に繋がるアイスアイランド2001年の章で、南極到着過程すら地獄な感じを読んでいたらアプスレイ・チェリー=ガラード「世界最悪の旅 スコット南極探検隊」やベア・ウースマ「北極探検隊の謎を追って」を読みたくなってくる。

ナショナルジオグラフィック(NationalGeographic)

米国で1888年創刊、ナショナル ジオグラフィック協会が発行する硬派な月刊誌で、日本版は1994年から。ケーブダイビングの米国展開においてナショジオを無視することができないほど繫りが深い。

2010.8

日本語版2010.8『水中洞窟 隠された「過去」』バハマのブルーホールに挑む。ブライアン・ケークックがガイドするブロード隊の調査記録(写真はスカイルズ)。鍾乳石と石筍の森を泳ぐ写真が美しい。ナショジオは毎号5つの特集記事で構成されている。

2002.2

日本語版2002.2 ジル・ハイナースが南極海底に挑んだ際のストーン/スカイルズの記事を目当てで入手。付録のマップが保存版レベル。南極大陸は2つの島だったのか。他に、感染症と闘う、エトナ山大噴火、グレートソルト湖、パキスタン等などの~スタン、と良記事揃い。

1995.9

日本語版1995.9「挑戦者たち」11章のウアウトラ洞窟1475mの探索が、ストーンのテキストで読める(写真は例に漏れずスカイルズ)。MAPや循環式呼吸装置の図解も。ケイビング寄りの内容。

究極の洞窟

「ナショジオが行ってみた究極の洞窟」世界最大規模が連続する感動的な写真集。収録されている水中洞窟写真が普通に見えてしまう。メキシコにある結晶洞窟の凄さ(TheGrapevineTV)。

舘石昭「死の淵を潜る」 ‘1979

死の淵を潜る

オーストラリアの水中洞窟シャフト/ナラボープレーンを潜るエピソードを含んだ一冊。他、サメ関係や、画家志望から水中カメラマン/映像作家になった顛末など。雑誌「マリンダイビング」創刊者で、別のページで他の著作も記したい。この人の文章は〈我〉がクリーンで、不思議と飽きない魅力があって好きだ。

櫻井進嗣「未踏の大洞窟へ -秋芳洞探検物語-」 '1999

未踏の大洞窟へ

チームによる探索ダイブが主のケイビング系(ケイブダイバー)だが、角幡唯介「極夜行」や栗秋正寿「山の旅人」などに似た単独行は、途中で描かれるディギング派エクストリームな英国ケーブダイバーらとの対比を見出せる(ディギング派について語られたテキストを知りたい)。土地の事業計画への反対運動まで起こし、日本洞窟潜水史だけでなく秋芳洞視点でも必読書。

トレヴァー・ノートン「ダイバー列伝」 '1999

ダイバー列伝

主に、スキューバ以前の海底英雄達が紹介される。減圧症の解明者ホールデンを始め、理解の為に水中衝撃波を受け出血麻痺で救出されたり、監督自らサメを倒したり、送気式球体で1364m沈んだり、セルフ人体実験者が目立つ。クストー相棒デュマも登場。ジョン・スコット・ホールデン(1860-1936)による減圧症解明の過程を丁寧に追っていて凄い。
ジョン・ガイ・ギルパトリック
アンリ・M・エドワーズ
ロイ・ウォルド・マイナー
チャールズ・ウィリアム・ビーブ
ジョン・オールウィン・キッチング
ジョン・スコット・ホールデン
J・B・S・ホールデン
ホーレス・キャメロン・ライト
ルイ・M=A・ブータン
ジョン・アーネスト・ウィリアムソン
ハンス・H・R・ハース
フレデリック・デュマ
ピーター・スロックモートン

映像関係

発見したケーブダイビング系を記していく。

クストー+ルイ・マル「沈黙の世界」 ‘1956

クストーによる歴史的映像。沈船ダイブだけでも見る価値がある。ダイバー映像は当然多々あるが、基本は海洋を船で渡る男達のドキュメンタリー。「沈黙の海へ還る」でクストーの水中洞窟番組を笑いながら批判してるシーンを思いだした(クストーのチームは、ケイブ保護の基本原則を、ことごとく踏みにじっていた)。その番組が見たい。途中でゲイムービーを見ている気分に(上画像)。

Elena Konstantinou「Beyond Blue: Mankind's Deepest Dive - 318.25 m (1044 feet) -」 '2006

ヌーノ・ゴメスが紅海で 318.25メートルまでスキューバダイビングで潜った2005年の世界記録を捉えているドキュメンタリー映画。監督エレナ・コンスタンティノもテックダイバー。予告編(トレイラー)。未見。

Juan Reina「TAKAISIN PINTAAN」'2016

ホアン・レイナ監督、水中ケーブでの仲間の遺体回収を扱ったドキュメンタリー映画「洞窟探検ダイビング」 。未見。

アレックス・パーキンソン+リチャード・ダ・コスタ監督「Last Breath 最後の一息」 '2019

北海水深100mの飽和潜水事故を再現するドキュメンタリー。ニアマクロな潜水はダイバー(に限らず)個人の責任範囲を越えたところでも事故が起こるので怖いなと。見ていて、なぜかスマパンが聴きたくなる。

トム・ウォーラー監督「THE CAVE ザ・ケイブ レスキューダイバー決死の18日間」 ‘2019

バンコク出身のイギリス人Tom Waller。2018年タイのタムルアン洞窟での13人救出という実話を元にしたドキュメンタリータッチの映画。ケーブダイバーで俳優もこなした出演者ジム・ウォーニーの普段の潜り方が気になる。スマートさが興味深い。現場仕事感がリアルで良い。サッカー少年救出までの18日間というサブタイトルに変わっている。

後記

この投稿の項目は、該当本を読み次第追加していく。また、黎明期からテクニカル辺りの日本人の著作本や、テックダイバーからフリーダイバーなどの邦訳本なども、別のページを作って読書記としてまとめたい。

年代は原書の刊行日を記している。

ツイッターで投稿した読書感想をベースにページを作っている。他の読書サイトよりも、タグやセルフRTなどで投稿を紐付けやすいからだが、それでもざっと眺めにくいので、ここでまとめた。

_underline, 2023. 3


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