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愛は縛り、祈りは呪い | SEPT『FATALISM ≠ Re:Another story』考察&感想

(ネタバレ有!また、本編を観ていないとわからない内容だと思いますので、観ていない方は回れ右をオススメします…)


ものすごく唐突だが、私は「純粋な感情ほど禍々しく強大になり、何者をも凌駕する力となる」系の話が大好きだ。(本当に何)

具体的に言えば、まどマギ、呪術廻戦0などがそれにあたると考えており、今回観劇した『FATALISM ≠ Re:Another story』(以下、フェイタ)もそのうちの一つだと感じている。


あらすじ

陽の国、緋の国、蒼の国。
国力がほぼ同じである3つの隣国は、年に一度「奉納祭」と呼ばれる祭りを開催し、各国の巫女と舞手が奉納を納めることにより、均衡を保っていた。

主人公はそんな陽の国の巫女である、雛菊。
普段は閉じ込められていて、側近の夢百合だけが友人だった。

雛菊と、緋の国の舞手・藍備(あいび)、蒼の国の舞手・蓮は幼馴染で
年に一度だけ三人が会える奉納祭を心待ちにしていた。

しかし、雛菊に想いを寄せる蓮は、雛菊と藍備が恋仲なのではないかと勘違いし、奉納祭を壊そうと計画。雛菊と藍備を手にかけようとする。
さらに三国に争いを起こそうとする勢力に利用され乗っ取られてしまい、蓮もろとも4人は命を落としてしまう。

雛菊は、追い詰められ身を投げるとき、この世に自らの願いを祈り託す。
「どうか、私たちを運命の轍から解き放ってください。そしてどうか、もう一度会えるように…」

雛菊が次に目を覚ました時、そこは絵空(えうろ)が支配する亜空間だった。
絵空は雛菊の最期の願いに興味を持ち、別時空の同じ存在である自分たちが、どんな結末を迎えるのか見届けることで、運命を変えてくるよう雛菊に言い渡す。

雛菊が連れていかれた世界で見たもの、それは、2023年の世界でバンドのマネージャーとして生きる夢百合と同質の存在(百合愛)と、2123年の世界でAIから逃亡し、世界を救おうと奔走している藍備と同質の存在(ツタバ)の姿だった。

世界を巡り、雛菊は何を思うのか。
そして運命を乗り越えた先で、雛菊たちは衝撃の事実を知る___________


祈る者、繋ぐ者、裏切る者、託す者

⚪️祈る者=雛菊/莉乃・陽織/エイナ
🔴繋ぐ者=藍備/莉央・陽暮/ツタバ
🔵裏切る者=蓮/佐輔・知樹/シン
🟡託す者=夢百合/百合愛/テン

それぞれが別時空の同じ存在だということは、相関図で同じ色の線で結ばれていることからもわかる。

【祈る者】
雛菊および彼女と同質の存在。
文字通り、死の間際に祈りのような一言を言い残すため、また、自らが生きる世界が変わるよう願って生きているため、そう呼ぶこととする。

・莉乃/陽織が死ぬシーンの最初の場位置と、エイナが歌って出てくる場位置が同じ
・運命が変わる前、雛菊/莉乃・陽織/エイナの死ぬ場位置が同じ

この二点はこじつけや「舞台装置上致し方ない」というメタ的な話でもなく、周囲の人間の立ち位置まで同じなので、明らかに意図して作られたものである。

・「流されるまま生きてきた」という共通点
雛菊「運命を受け入れることしかできなかった」
莉乃/陽織「歌う理由なんて何でもよかった」
(エイナは直接言及はないが「戦って生きることしかしてこなかった」=生き抜くため自分を優先してはこなかった、というところから)
ここからも雛菊=莉乃・陽織=エイナがわかりますね

【繋ぐ者】
藍備および彼と同質の存在。
明るく楽観的で博愛に溢れる熱血漢。
四人の仲に亀裂が入っても四人の間をなんとかとり持とうとするところから。

【裏切る者】
蓮および彼と同質の存在。
現状を打破したいという強い正義感を持つが、やり方が急進的/力に屈する形のため、結果として裏切り行為となってしまう。

【託す者】
夢百合および彼女と同質の存在。
最も共通点を見つけにくかったキャラクターたちだが…
夢百合は雛菊に夢を叶えてほしいと望んでいた。百合愛はマネージャーとして、莉乃・陽織の夢を応援していた。テンは難しいところではあるが、仲間を守るため身を投げ出したりと、献身的なところ、残った仲間へ思いを託そうとするあたりから、共通点は「叶えたい思いはあるが、それを他人に託す」ことかと考える。

そして、それぞれの特徴は、そのままねじれの起因、おのれが何度も死のループを繰り返す所以、大罪と化す。


人間の長短は紙一重だ。
裏切る者は、よく言い換えれば、理想が高く自己実現のための行動力も高い者だ。それが悪い方向にはたらいてしまった。

という感じで、各々の世界で、各々の特徴が全て裏目に出る。
例えば、繋ぐ者:ツタバは、人類を救おうと奮闘するが、そのせいで家族のように想っていたシンを結果的に裏切り者に変えてしまい、失ってしまう。
託す者:百合愛は、自分の意思を出すことが苦手で他人に任せすぎてしまい、莉乃・陽織の命を失ってしまう。

後述するが、”祈る”という行いもまた、等しくそうである。



人間 vs AI 人間が間違うのは感情のせいなのか?

3つの世界に共通することは、感情と音楽だ。

この物語を貫くメインテーマは、「人の心か、技術か」という対立構造である。

・佐輔たちはAIに音楽を作らせ、未来では音楽でAIに人の心を取り戻させるプログラムが存在した、という矛盾

・普段は閉じ込められ、感情を押し殺して生きることを強要される象徴たち

佐輔たちのAI技術は「生の音楽データを取り込み、それから生まれる感情もデータベースに取り込む計画」だった。

2023年時点でもう、AIに感情を持たせる計画は始まっていた、堕印の言葉通り「ねじれは人間だけが原因だけではなく、人間の想いを託された無機物にまで宿る」(=佐輔たちが開発した機械のこと)のであった。

つまり、佐輔たちが作ったAI装置が、ツタバたちの未来ではAIの抑制プログラムの起動装置として残され、それがねじれの一因ともなっていた

酔っ払い会社員のシーンにも「俺の仕事は人工知能とAIに譲ってやったんですー!」とか、AIには真心がないとかいうセリフがあって、人間とAIの対立構造、感情とは何か?の問いかけが随所に散りばめられていた。



2人の神

絵空(えうろ)と亜歩露(あぽろ)とは一体何なのか?名前の由来はそれぞれ「エウロぺ(エウロパ)」「アポローン」というギリシャ神話に登場する神だと予測される。

・エウロペ
 ゼウスの愛人。間に3人の子をもうけた(=三羽鴉?)。「ヨーロッパ」の語源である。

・アポローン
 光明の神、芸術の神、予言の神。
 小アジアに起源をもつ。
 
亜歩露のセリフ中にはこうある
「私は君たち人間から生まれた」
音楽に執着している。
また、世界のため、世界を創り変えた絵空とは違い、己の欲求や美学を追求している。
→絵空と対をなす、「原初のエゴ」のような存在なのだろうか



この物語においての”マイク”とは何か

マイクが一番フォーカスされたのは、2123年の世界、対AIアンチプログラムの最後のピースとしてだろう。

しかし、実はここ以外にもマイクは登場し、物語を紡ぐ物言わぬ語り部となっている。

藍備の世界線で、シンがエイナにマイク渡すところの後、夢百合の世界線で、佐輔が莉乃にマイク渡すところがきたから「あ〜〜〜〜そこもか〜〜!!!」と思って涙でた、裏切る者から祈る者へのマイクのたすき………

実は”裏切る者”(シン・佐輔)から”祈る者”(エイナ・莉乃)へとマイクが渡される描写が二度もあるのだ。

シンは自らがAI側に寝返ることを条件に、エイナたちが探し求めていたマイクをAIたちから手に入れた。

AI技術が発展した2123年においても、エイナの歌声はAIへの強力な対抗手段だった。
結局"マイクだけ"ではダメだったのである。
対AIアンチプログラムには"歌い手"が必要だった。

2023年では、一度はAIによる音楽生成技術に膝を折った佐輔が、もう一度マイクを手にステージに立つ。

つまりマイクとは"人間の勝利"
人間がAIに打ち勝つ希望として物語中に存在していたのである。



祈り、願い、呪い

雛菊は身を投げる直前
「願わくばこの負の連鎖を断ち切り、運命の轍から解き放ってください。そしてどうかもう一度また会えるように」
と祈る。

結論から言ってしまうと、これが"祈り"ならば良かったが、実際は皆を運命の轍に縛り付ける"呪い"なのである。
何度も何度も同じ運命を辿り、同じ祈りを繰り返したことで焼き増しされた想いは、"共に生きる"というとんでもない執着、執念、無垢なエゴ、呪いと化したのである。
愛は縛り、祈りは呪い。
捉え方次第で紙一重なのだ。



まとめ

この物語は、人vsAI、感情vs技術が大きな全体の流れとして存在していた。

2023年の音楽に希望を見いだせなくなった世界と、2123年の音楽だけが唯一の希望の世界の対立構造

一度滅んだ世界を絵空様が好きなように再構築したのが雛菊たちの世界で、しかし結局人間は同じように再び争いあって自ら滅びようとしている。

変わらず皆と生きたいと願うが、自らが皆が繰り返し死ぬ元凶であると知らされてしまった雛菊は問われる。
「これで最後だ。君の言葉を聞いてあげる。」
結局最後は争い合う運命にある、人間に対する神からの挑発である。ただ「もう一度生きたい」と言うだけでは、元には戻してもらえない。何の改善もされず、再び滅びへの道を歩み始めるからだ。

雛菊の出した答えは「もう一度舞いたい」

舞う=奉納の儀は平和の象徴だ。
"もう一度舞う"
まさに戦争の対抗となる唯一のアンチテーゼであり、パーフェクトアンサーであった。

「音楽は人の心を動かす」
それが、『FATALISM ≠ Re:Another story』からのメッセージだ。
争い合う運命を断ち切るのは強い感情と、そのトリガーとなる音楽である。

それは劇中だけでなく、観ている私たちにも作用している。
音楽が鳴っていると、なんでもないシーンでも心が動かされたのではないだろうか。
音楽で心を動かされたのはキャラクターたちだけではない。ステージを超えて観客の我々もフェイタの物語の一員、むしろ我々こそ争い合う運命を改めるべきこの物語の主人公なのだ。



感想

以下、観劇直後に殴り書きした、私のとりとめもない超個人的な感想を羅列しておく。

・谷水力さんうんんんま、発声

・ロイヤルな生まれの浦野秀太さんが演る、終末世界スラム育ちのツタバ、こってり濃厚

・手足が長く、ゆるやかな踊りが映える浦野秀太さん、ミュージカル風味の踊り踊らせたら天才だということに気づいて死んでる、絶対に帝劇で踊って

・秀太、結果が好転したあと、巫女に会うシーン、本当に泣いてた?すごくうわずってた……こっちまで泣くかと思ったよ……

・絵空様に仕える三人組、うまいしおもろいし大好き!!ずっと見てたい 

・楽器を集めて音楽を奏でると、AIが元に戻るプログラム、改心した佐輔が作っていたらいいなとちょっと思ってしまった。 

・佐輔さん、付き合って〜〜!!!!!

・なぜオープニングで泣けるのか?それは藍備と2123年のメンバー、夢百合と2023年のメンバーたちの絡みがあることに気づくからである

・わかっていてもシンがエイナにマイクを渡すシーンで泣いてしまう

・シンがAIだと知ってなお救おうとする底なしの愛と光加減に浦野秀太さんが重なって心が洗われた

・藍備もツタバも、家族、未来、自由とかをキーワードにするから、浦野秀太さんがダブってあ〜〜そうだよねになったし、いつだってOWVを繋ぎ4人とファンを照らしているのは浦野秀太さんだって再確認した、キャスティングありがとうとしか言えない

・人間の進化のためには争いが必要なのだよ!を、争いからは何にも生まれない!のツタバのセリフが打ち消してるアンサーだったの凄いな、これ何回か観ないと気づかない

・全ての元凶の巫女、裏切り者の蓮、意図せず破滅を運んでくる夢百合の中で、みんなを繋ぎ、信じ、大切なもの全てに愛を注ぐ藍備だけが一点の曇りもない圧倒的な光でした(号泣)

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