三度笠をかぶってイラン・イスラム共和国に行った話 〜その1 テヘラン入国編〜
2015年の初夏に、木枯らし紋次郎か風来のシレンみたいな三度笠をかぶってイランに旅行に行ったのだった。海外旅行に行けない今、当時を振り返ってnoteに書いてみることにする。(旧blogねこぽっどからの転載・追記)
イランに行くというと、馴染みがない周りの人から“イラクに近いでしょ、危なくない?” “そもそも普通に入国できるの?”“何があるの?ヨーロッパのほうが面白いんじゃない?”と言われたものである。
しかし、私が実際に訪れたイランは、親切かつ誇り高き人々が住む、美しく素晴らしい国であった。そこで、この記事を読んで一人でもイランに興味を持ち、願わくばイランを訪れんとする人がいたら幸いと思い(今は難しいけどね……)、イラン旅行記を書くこととした。
イラン入国までの道のり
イランを目指した私達(日本人の好事家を集めた3人連れであった)は、GWの羽田に集合し、チケットを取っていたターキッシュエアラインズに乗り込んだ。行きの経路は、航空券が安かった
羽田→関空→トルコ イスタンブール→イラン エマームホメイニー国際空港
の経路とした。私は全荷物をバックパックの機内預け入れにしたけど、もし預け入れの荷物がある場合は、羽田で一度チェックインすれば、途中のトランジットの際には荷物を預けたままでいいらしい。便利。
これは何かというと、見ての通りの三度笠である!
当時のイラン旅では、私は前に草津温泉で購入し、たま~に日本でかぶって遊んでいた三度笠を持参していった。バックパックの後ろに三度笠を括り付けて羽田を行く私。実に怪しかったと思う。三度笠を持っていった理由は下記の4つとあと気分。
1.もともと変な帽子とかかぶりもの系が好き(東方諏訪子のケロ帽とか)
2.木枯し紋次郎や風来のシレンも好き
3.イランは親日との国との噂を聞く。なんか日本ぽいものを持っていけばウケるかもしれない
4.暑く日影がない遺跡類を観光するときに、手ぶらで便利かもしれない
関空からイスタンブールまでは、時差を入れずに12時間の旅であった。
これが航空券のチケット。エマームホメイニー空港の名前に期待が高まる!
トルコのイスタンブールはトランジットでの滞在のみ。トルコはイスラム教の信者が多い国であるが、政体としては世俗主義、政教分離をとっているらしい。トルコのイスタンブール空港に降りると、スカーフのように顔を覆い隠すヒジャブをかぶる女性が談笑しながら歩いていた。
トルコのトイレの水難事故と、入国までの飛行機
トルコではトイレでびしょ濡れになる事故が起きた。↓がトルコのトイレ。
当初私は、左側の壁についているノブをひねれば水が流れるのかと思った。そこで思いっきりひねったら、便器についている蛇口の先みたいなところから勢い良く噴水が吹き出して、ズボンがびしょ濡れになってしまった。
この蛇口から出る水は、ちょうど腰かけて水を出せば水がお尻に当たるくらいの位置になる。たぶん電気がいらないウォシュレットのようなものなんだろう。
トイレでびしょ濡れになったズボンを乾かし、トルコアイスを食べたりソファーで寝たり適当に時間をつぶしているうちに、いよいよイラン行きの飛行機の出発の時間がやってきた。テヘラン行きのターキッシュエアラインの飛行機の機内食は美味しい。
テヘランが近づいてくると、飛行機の機内からは、土が露出した灰色の大地にどことなくシムシティのような同じ形の住宅が見えてきた。見たこともない光景にワクワクしてくる。
Arrival VISA発券とイラン入国審査
イマームホメイニー空港についた。空港用の大きなバス(ドイツのCOBUS社)でターミナルへと向かう。
ターミナルではトイレに入った。先ほどからトイレの話ばかりで恐縮であるが、ターミナルのトイレでは、小便器がなく全部個室であった。ちなみに結局滞在中は、観光客が多かったレストラン一か所を除いて、男性の小便器はイランではほとんど見たことがない。イランの便器はトルコ式(金隠しがない和式)に、用を足した後に洗うホースがついているタイプで、ホースからはお湯も出る事が多い。なんで小便器がないんだろう?と思って帰国後に調べたところ、下記のサイトに
“イスラムの教えで男性も小用はしゃがんで行い、水で清める”
“イスラム教では排泄の姿を人に見られることを戒めている”というのがあるらしい。納得!
滞在時の私は、事前VISA取得するのが面倒だったので、誰でも取得できると噂のArrival VISAを取ることにした。これを取るのはかなり緊張した。空港中にカウンターがあり、適当にフォーム(はっきり覚えていないけど名前、パスポート番号、住所、滞在先、航空機の名前とかを書いた気がする)を埋めて出した。
待っている間は、もしここでビザが出なかったら強制送還になるのか、そしたらトルコ観光でもするか…と内心ドキドキしていたところ、入国のイランの方に英語で声をかけられた。
“君たちは日本人かな?その帽子はかっこいいね!
ちょっと貸してくれ、あと君のスマホで写真を撮ってくれよ!!”
イエーイ
ビザが出た後は入国審査である。入国審査では、
"Are You Japanese? Tokyo? Nice city!!"
"おしん!おしんは知ってるか?有名だよな!"
"パスポートを確認するからこっちを見てね、下向いちゃダメ!恥ずかしがらずに目を合わせて!(笑)"
と気さくに話しかけてくれながら、列をゆっくり進んでいった。
話は前後するが、空港の荷物受取場では、滞在中何度も目にするお二方の肖像画が飾られていた。なお、イマームホメイニー国際空港では写真を撮り忘れたので、上記は帰国時のメヘラバード国際空港の写真を載せている。豊かなひげを蓄えた鋭い目つきなのがイラン革命の祖、初代イラン最高指導者のホメイニ師、眼鏡をかけているのが二代目イラン最高指導者ハーメネイ師である。
ある意味これも偶像崇拝に当たるのではないか、イスラムは偶像崇拝に厳しいのではないか?と心配してしまうが、偶像崇拝に関してはシーア派はスンニ派に比べると寛容らしい。
たのしいイランの空港
出国後のロビーでは、空港職員の方々がヒャッハー!!と楽しそうに笑いつつ、おたがいに競争しながら走ってカートを戻していた。小学生の掃除の時間を思い出すような楽しそうな笑い声である。いつまでも子供の心を忘れない大人はカッコイイ。一体、日本にはこれだけ楽しく働いている人がいるだろうか。
そんな彼らを興味深く眺めていると、イラン人のお一人がそばに寄ってきた。
“笠貸してくれよ!”
まだ空港を出ただけだけど、陽気で親しみやすい感じのイランの人々に、早くもこの旅行が素晴らしいものになる気がしていた。
空港では米ドルをイラン・レアルに両替した。
数字が多くてびっくりするが、最高額の500000レアル ≒2000円札 ≒100人民元(2015年のレート)と覚えればまぁ間違いはない。
地下鉄での移動とテヘラン市内の見物
テヘランについたのは昼過ぎ。夜の飛行機でメヘラバード空港からシーラーズに移動する予定である。少し時間が余ったので、まずはタクシーで市内を目指してみた。
タクシーの椅子に腰かけて待っているおじさん。のどかー。
タクシーの名前にtbtってある。どこかで聞いたような?
タクシーの運転手さんにも三度笠は大人気だった。タクシーの運転手さんにはテヘラン市内に行きたいことを伝え、車は動き出した。
タクシーの中からは戦車が見えた。前のイランイラク戦争と関係があるのだろうか。
また、写真にはないが、タクシーの中からは、高速道路の路肩でピクニックをしている人々が見えた。イラン人はピクニックが好き、という話は聞いたことがあったが、高速道路の路肩のような場所でも行っているとは思わなかった。この野外で家族、友達と談笑しながらピクニックをしている人々も、イランで旅行中たくさん見た風景であった。テントを持ち込んだり、火をつけて水タバコをふかしたりとなかなか本格的に楽しんでいたようだ。
ちなみにイランは晴れの日が多いらしく、私の滞在中にはほとんど雨はなかった。気温は28度-30度と暑いが、湿度は非常に低くからっとしている。手を洗った後や汗をかいた後などは、まるで日本でアルコール入りのさっぱりするシートを使ったような勢いで手が乾いていく。実にピクニック向きの天候な気がする。
タクシーの途中で市内に通じる地下鉄の駅があり、ここで降りて一度地下鉄に乗ってみることにした。その地域の普通の人々の雰囲気がよくわかるので、旅行先で現地の公共交通に乗るのは楽しいものだ。
地下鉄は最近路線が伸びているようで、駅は豪華な装飾がなされている。そしてゴミはほとんど落ちていない、日本と変わらない綺麗さである。
地下鉄の改札の方からは“日本人か? 写真を撮ってくれよ!!”と声をかけてくれて、ポーズをキメてくれた。笑顔がステキ!
喉が渇いたので売店で適当に買ったこれ(DELSTAR、ノンアルコールビール、フルーツの味がする。他にISTAKというのもある)が、のど越しが良くかつ甘すぎない感じで実に美味しかった!!イランではメジャーな飲み物らしい。滞在中は良く買って飲んでいた。日本でも普通に売れる味だと思う。もし日本であれば、お仕事中とかでも飲めちゃうからたまらないね~。
これが地下鉄の時刻表。数字は全部ペルシア語。ペルシア語の数字は、位取りなどはアラビア数字と同じなのでただ置き換えればよい。車のナンバープレートとかも全部ペルシア語の数字である。
数字として、アラビア数字を常用しない国は珍しいと思う。考えてみればアラビア数字は名前の通りアラブ発祥である。頑なにアラビア数字をあまり使わない理由としては、イラン文化への誇りとアラブへの対抗意識のような物があるのかもしれない。イランはかつてアラブに征服されても自国の文化を失わないどころか、逆に自国の洗練された文化をアラブにも広めていった。日本ではイランもイラクも名前が似ていて、ややもすれば同一視されている感じもしてしまう。
地下鉄の車両が来て乗り込む。地下鉄は北京とかの地下鉄に似た中国産っぽい感じの今風のインバータ車。第三軌条式で標準軌っぽかった。
地下鉄には女性専用車両があった。イランの地下鉄の女性専用車両は日本の女性専用車両と同じシステムで、女性は両方に乗ってもよいが、男性はそこに入ってはいけないというシステム。よって、普通の車両では普通に男女が混在している。
イスラム革命以降、市内バスは男女別で、入り口と出口がそれぞれ別になって分けられていると聞いており、全部の乗り物が厳格に分けられているのかと思ったら別にそうではないようだった。また、街中では男性の後ろに女性が乗っているスクーター、バイクもよく見た。ここらへん、欧米からのイメージとイランの実情に差を感じた。地下鉄の中では、"Are you Japanese? What do you think about Iran, especially in technology?"とか日本では何してるの?とか話しかけられた。”イランは古代より繊細な技術がある国だと思う”という話をしたら喜ばれた。
駅を降りたところにあるおもしろいリンゴの広告。余談だが、2015年当時のイランではスマホとしてはiPhoneはあまり見ない。その代り韓国メーカーや中国メーカーが人気だ。日本メーカーだと結構(2015年当時は)Xperiaも人気で、街中ではZ3 Dualの広告を見た。むしろ日本以上にXperiaを持ってる人が多いような気がする。今はどうなのかは謎である。
降りてなんとなく撮ったテヘラン市内の写真。
また、地下鉄に乗る前や降りた後のテヘランの街中では男女(たぶん夫婦)が、あの指を絡ませる恋人つなぎの形で手をつないで歩いている光景が何人か見られた。イランは男女交際について、少しでも公衆の面前でイチャイチャすると革命防衛隊に見つかって怒られるイメージがあったけどそうでもないようだ。
テヘランではここではSIMを買った。たまたま声をかけていただいた、英語がわかる女性の方にSIMをどこで買えるか聞いたところ、
SIMを露店で買う->標準サイズのシムしかなかったので、MicroSIMサイズにパンチできるお店を探してもらう->そのお店で初期設定をお願いする
まで全部一緒についてきていただいた。見ず知らずの旅行客に声をかけてそこまでしてくれる親切さに感謝である。丁重にお礼を言って別れた。なお、先程の時刻表と同じく、イランのSIMカードは、全て数字もペルシア語で書かれていた。通信方式はGSMであった(2015年当時)
空路テヘランからシーラーズへ
そろそろ飛行機の時間になったので、タクシーでメヘラバード国際空港に向かう。市内中心からすいてておよそ30分ほどだった。運転手さんには道中で“素晴らしい笠だな!売ってくれないか?”と頼まれたが、まだ傘を手放すのは惜しいのでごめんなさいした。
車内から革命記念のタワーが見える。かっこいい!
メヘラバード空港についた。ここから飛行機でシーラーズを目指す。国内線の乗り方は日本と同じ。特に難しいところはない。飛行機登場時の荷物チェックは男女で別になるくらいだろうか。便の名前がQBというのが某魔法少女のマスコットを思い出して恐怖した。
空港でサンドイッチを食べた。結構がっつりある。飲み物はコカ・コーラ(私が好きなZEROも)やペプシ・コーラもあり、肉と合うような炭酸系が人気のようだ。このそれなりに西側のものが入っている様子を見ていると、本当に経済制裁されている国なのだろうか?と少し思った。
行きの機材はエンブラエル。制裁の関係で最新のエアバスやボーイング機はなかなか入らず、古い機材を騙し騙し使ってるらしい。飛行機内でも機内食が出たのだが、知らずに食べた先ほどのサンドイッチでお腹がすでにいっぱいになってしまっていた。
機材はエンブラエル。ここでも機内食が出たのだが、知らずに食べた先ほどのサンドイッチでお腹がすでにいっぱいになってしまっていた。
シーラーズ到着
飛行機を降りるとそこはザンド朝ペルシアの首都であった町、シーラーズ。空港前に噴水があり、夜はライトアップされており綺麗だった。
途中で声をかけてきた人が5ドルくらいでタクシーに乗せてくれるという。私は一番よく行く外国の中国では絶対そういう話には乗らずに、正規のタクシーを拾うが、こちらはちゃんとした感じだったので乗ってみた。結果当たり、へんなタクシーではなかった。
無事空港から20分ほどで、シーラーズのホテル”Park Hotel”についた。エレベーターが外壁だけで動いているのが直接見えるクラシックなタイプ。部屋は清潔感があり、Wifiも使える。アメニティも一通りある。私が旅行先で困るのはシャンプーや石鹸が泡立たないことであるが、Made in Iranのシャンプーは非常に質が良く泡立ち、香りも良かった。さすが香水で有名な国だ。今日は移動で疲れたのでおやすみした。また明日。(つづく)