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映画『丘の上の本屋さん』を見た
Amazonプライムで映画『丘の上の本屋さん』を見た。僕は大好きになった。なんたって本の映画なんだもの。好きに決まってる。
舞台はイタリア。小さな古本屋を営むリベロの店には、色々な客がやってくる。ある日プエルトリコ人の少年エシエンが店の前で立ち止まる。エシエンはマンガを読みたいが買うお金がない。そんな少年エシエンに、リベロは読んだら返すように言って本を貸してやる。
ものすごい速さで次々とマンガを読み終わるエシエンに、リベロは「もうマンガは卒業だ」と言って本を貸し始める。夢中で本を読んでは返しに訪れるエシエン。ただ本の貸し借りをするだけではなく、読んだ本の感想を語り合う二人は、次第に親しくなっていく、というお話。
まずもう舞台が美しい。あまりお金がかかってないのか同じカットの映像が使い回しされるものの、風光明媚なイタリアの古い街並みはそれだけで美しい。タイトルやスタッフロールに使われているフォントも、おそらくイタリアのフォントだと思われる。一見「Bodoni」に見えるが、「G」「a」などの文字が独特で、Bodoniより少し色っぽい。
そしてリベロがエシエンに貸し出す本のセンス。『イソップ童話』が2500年以上に書かれた、そこらの童話とは次元が違うってご存知でした? 『星の王子さま』貸すとか王道かよ、と思いつつ外せないよな、サン・テグジュペリ。彼は『星の王子さま』を書いた翌年に飛行機の墜落事故に遭って、行方不明になった。僕は彼は死んだんじゃなくて、彼の書いた王子さまのいた星(最後に星の王子さまが帰った先)に行ったんだと思ってる。そこで彼は王子さまに会って、話をして、1日に43回の夕焼けを二人で見たんだ。
リベロが幼いエシエンに『白鯨』を貸し出して吹いた。いや、いきなりレベル上げすぎでは? でもすぐに分かった。この映画には『白鯨』が必要なんだ。エシエンは読み終わったあと、「『白鯨』は何を意味していると思う?」と聞かれて「復讐」と答えるけど、僕の答えは違う。この映画が楽しめるかどうかは、この、出てくる本をどれだけ知ってるかに左右される。『白い牙』という本だけが分からなくて調べたら、ジャック・ロンドンという作家の本らしい。今度読んでみる。
リベロの親友で隣のカフェで働くニコラ(マジでイタリアらしいイケメン。惚れた。チャラいようで、お前最高に人を愛する紳士なんだな。お前はキアラと幸せになっていい。リベロの一番の親友である理由分かる)、ゴミ処理場で働きながら一攫千金を狙うボーヤン(やってることは悪どいし、教授にも嫌われてるが、お前が本を捨てる人が許せないイイ奴だってのが俺は分かるよ)、働き先の奥さんに困ってるキアラ(頼む、ニコラを幸せにしてやってくれ)、毎週何十年も前のラテン語辞書を売って生活を繋ぐ教授(いきなりセネカを口ずさんだ瞬間から、俺はあなたが最高に好きだよ)などなど。リベロを愛し、本を愛し、文化を重んじる彼らは本当に愛おしい。
店の「発禁書」に置かれた本も興味深い。カント(『純粋理性批判』)、ガリレオ・ガリレイ(『天文対話』)、マキャヴェリ(『君主論』)、ボッカチオ(『デカメロン』)、パゾリーニ(映画『ソドムの市』とかの映画監督。店に置かれてるのは小説『生命ある若者』)とか色々置かれてるんだけど、俺の目で捉えられたのはそこまで(一瞬しか映らないし、タイトルがイタリア語だしw)。なんで発禁書なの? って思ったけど、発禁書指定されたことのある本たち、ってことっぽい。でも『デカメロン』は発禁指定された話を聞いたことないけど? 『デカメロン』読んでみたかったんよな。あと映画『ソドムの市』は高校生の時から観たいと思いつつ、やっぱ怖くて観れてない。いつか観るぞ?
ともあれ、本とは何か、をよく考えさせられる。デジタル書籍も便利でいいんだろうけど、僕はあまり好きじゃない。教授の言うとおり「紙に触れる感触が好きなんだ。香りを愛してやまないんだ」って僕も思うし、デジタル書籍は人に貸し出せない。本は、人に貸し出して初めてその価値を発揮すると僕は考えている。同じ本を読んで、感想を語り合うのが、僕はとても好きなんだ。今は自分の本を手放す気持ちはないけど、いつか誰かに本を譲れる自分になれたらな、と思っている。
映画の結末も、絶句した。この映画はユニセフに捧げられた映画なのだけど(冒頭に出てくる)、なるほど、と思った。各種映画サブスクで観れるみたいだし、時間も85分と短め。イタリアに小旅行に行く気持ちで、よかったらご覧になってください。