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「小さく暮らす」を設計する

上棟式が終わり、改めて建物の規模感が私たちの適量であると感じました。

オンラインが増えた今、郊外で広く余裕を持って暮らすことが正解にも思えましたが、大きなものをもつことに対する「荷の重さ」が気になりました。
広めの土地に小さく建てることで、家の使い方は工夫するし、何を大切にしたいかが明確になる。余分でなく余白をつくり「小さく暮らす」方が空間がより豊かになるのではないか。

今回は「農村と郊外のあいだに小さく暮らす」をコンセプトに、無理なく暮らすために設計した過程をつづります。

◯ 環境を採り入れる

敷地は旗竿、2mの竿が南側道路に接しています。
西側に駐車場があり、各隣地も庭をもうけていたりと、はじめて土地を見学したときは建物に囲まれている感じはありませんでした。

南から北に風がぬけるので、敷地の入口は広めに余白を設けて風の通り道をつくります。

L字型の平面にして、一番風や光が入る出っぱった部分を必然的に食卓、少し奥まったところをくつろぐための居間にしました。2階へは吹き抜けを介して風が抜けるよう窓を設置し、明りとりのFIX窓も設けます。

総二階で食卓や居間と水廻りを同じ階にしようとすると、1階と2階の面積のバランスが難しい。どうしても無駄な廊下ができてしまうので一部平屋にして、1階に主要な部屋をまとめて配置します。

そうすることで建物の圧迫感も少なくなり、近隣との距離もほどよく確保できたと思います。

旗竿でも窮屈に感じないよう、余白を意識して設計しました。

配置計画のスケッチ

◯ 適量な暮らし方を見直す

計画していくなかで、「大きすぎず、小さすぎず」ちょうどいい塩梅のボリュームを検討。

ひとつは「適量な間取り」を見直す。

子育て期のことを考えると家族それぞれに部屋がある方が良いですが、子供が巣立ったあとのことを考えると持て余した部屋の管理や掃除などが大変だと実家をみていて感じました。

幼少期、青年期、子育て終了後で部屋の使い方を変えて、最小限の部屋数と面積になるよう計画をしました。

こどもが小さい時は8畳の部屋を家族の寝室として、こども部屋が必要な十数年はその部屋を2つに分けてこども部屋に、夫婦は1階の居間を寝室代わりに。
こどもが巣立ったら夫婦はまた2階の8畳部屋を寝室として使用します。

間仕切りを少なくし、生活スタイルに合わせて可変できるよう使い方を決めすぎないのも大事です。

2階平面スケッチ(左:幼少期+子育て終了後、右:青年期)

ふたつ目は「適切な高さ」を見直す。

昨今のハウスメーカー業界では天井高2.4mが主流ですが、果たして私たち家族にその高さは合っているのかを考えました。
そこで、短い時間過ごす部屋(玄関や脱衣室、トイレなど)、長い時間過ごす部屋(食卓や仕事場など)、床座(居間)か椅子座(食卓)かによって高さを調整し、2.1mから4.8m(吹抜け)の天井高で計画をしました。

建物高さも5.8mに抑え、近隣の建物より低くなったのは狙い通りです。

予算が少ないのが大きな理由でしたが、結果的に必要十分なサイズにたどり着きました。

下屋と母屋の関係がわかる断面スケッチ

◯ とどまれる場所をつくる

「適量な間取り」を考えるなかで大事にした事は、とどまれる場所をところどころにつくるという事でした。

夫婦共に好きな建築家、象設計集団のコミュニティセンター進修館。
広場という余白が中心にあったり、柱の周りに居場所があることやちょっと腰掛けられるニッチや窓辺があったりと、とどまれる場所が多く、粗々しいけど小さなスケール感が点在していることが居心地良さを出しているのではと思いました。

4人家族になることを想定して、夫婦、子どもたちそれぞれがひとりになれたり、ちょっと座れるようなところをいろんな場所につくりました。

窓の下枠をちょっと伸ばして座れるようにしたり、吹き抜けの腰壁にのぞき窓をつけたり、造作棚の一部をベンチにしたり、と、ちょっとした遊びごころも入れて設計。

それぞれの個室を最小限に抑えて、その分を誰のものでもない余白に充てました。

進修館の柱まわりで遊ぶ息子

◯ 必要十分な家

数十年先の未来の可能性を考えたことで(その通りになるかわからないけれど)、自分たちに必要な広さや間取りがイメージしやすくなりました。

家族や暮らしのなかで何を大切にしたいのかを再度確認する作業でもあります。

建物のサイズとしては「必要十分」な計画になりましたが、最低限の予算の中での計画は、むしろ豊かな生活への一歩にしてくれる条件になりました。
余分ではなく余白があることで、生活しながらもその余白で遊べる気がします。

まずは、庭の余白で家庭内菜園をするのが目下の楽しみです。


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