橋の下の小さな村と鮮やかな祝祭|橋の下世界音楽祭 SOUL BEAT ASIA 2024
念願の橋の下世界音楽祭に行ってきました。ずっと気になっていたものの他のフェスやイベントが被っていてなかなかチャンスがなく、今年やっと行くことができました!本当にすばらしかった。。。
橋の下音楽祭は、2012年から開催されている音楽祭で、豊田市を拠点に活動する音楽グループや地元有志による実行委員会が主催・企画しており、「伝統」「アジア」をテーマに多様な音楽や文化体験を提供するイベントです。年々噂が大きくなっていて、いろんな話を周りから聞いていて「行ったほうがいいよ!」と言われていたので、今年行けたのは本当によかった。
わたしは三日間開催のうち最終日の一日だけ参加しました。どこにも似ないラインナップでアーティストのパフォーマンスも素晴らしく、癖の強い出店と、普段なかなか関われない人たちとの交流があり、かなり刺激的な体験でした。
書ききれないことが多すぎて、橋の下に興味がある方は行かないことがすごくもったいないのでぜひ一度行ってみてほしいと強く強く願います。本当に書ききれないけど、がんばって書いてみます。笑
ここには自由があり責任がある
まず橋の下に着いて驚いたのは、色々なフェスに行く中でもいちばん制限の少ないフェスだったことです。
喫煙所がない、ゴミ箱がない、撮影NGもない、持ち込みの制限もない。喫煙所とゴミ箱がないのは最初はびっくりしましたが、勝手がわかれば平気なものです。喫煙所はないので会場の至る場所で吸ってる人がいましたが、あの空気の中だとそれも橋の下らしいと思いました。火の始末は自分でして、小さな子どもが走り回っている時は気を付ける。人に迷惑をかけなければOKです。
ゴミは、食べ終わったり飲み終わったら、それを買ったお店に戻すというルールでした。買ってからウロウロ食べ歩きしちゃうとしばらくゴミを持ち歩かなきゃいけない時もあるんですが、ちょっと不便なように思うのも最初だけで、わたしはすぐにこのルールが好きになりました。なぜなら「ごちそうさまでした」と言って返せるからです。食べたもの飲んだものを「ごちそうさま」と返すのはそこに感謝が生まれるし、ある意味家庭の会話です。集落のような橋の下世界音楽祭では、このやりとりがすごく合います。ごちそうさまを言いたいから、ちゃんとゴミを返しに行きたいとさえ思いました。
「自由だなあ」と思う一方で、その代わりにすべてのひとに責任というか、役割がありました。主催、アーティスト、出店者はもちろん、わたしたちもチケットを買って遊びに来るお客さんではなく、サポーターズチケットを買い、祭りを盛り上げサポートをするサポーターズであること。
そしてこどもたちにも役割があります。こどもたちは神輿に参加するし、店番もするし、そしてゴミ拾いやトイレのチェックもします。お手伝いをして持っていくと、こども通貨「ぬ」が発行されてこどもたちはそれで「橋の下」という社会で働き経済を回します。こどもたちはこどもたち同士で面倒を見合うし、託児所にはいろんなこどもが集まります。こどもたちも橋の下では立派な大人のようでした。
小さなことでも祭りに参加する
橋の下も、もともと入場無料だったけどコロナ禍でチケット制となったフェス。チケット制になったとはいっても、そのチケットも1日2500円。このイベントには破格過ぎますが、単なるチケットではなくサポーターズチケットという名目であることもユニーク。さっきも書きましたが、参加するお客さんは、祭りを盛り上げサポートをするサポーターズです。チケットを買ってあとは楽しむだけでなく、そこここでゲリラ的に起きるイベントに参加してみたり、ゴミをちゃんと片付けたり、お祭りを盛り上げるために(そして自身が精一杯楽しむために)小さなことでも橋の下に参加することがとても大切。
会場の各所には投げ銭箱もあり、スタッフのおねえさんたちが声をあげて「投げ銭お願いしまーす!橋の下を続けていくために、少しでも!」と声をかけ続けていました。投げ銭をぽんと入れるでも良いですが、オフィシャルてぬぐいを「2000円の投げ銭」で手に入れるシステムがとても素敵でした。わたしもてぬぐいを2000円で「買う」のではなくて「投げ銭」して手に入れました。「投げ銭」をできたことで自分が橋の下の民として大きく深呼吸できる気がしました。何かやりたいけど、何をしたら良いかと思った時に「投げ銭」のシステムは、初心者サポーターズが参加しやすい仕組みだなあと思いました。
「伝統」と「アジア」の多様なコンテンツ
橋の下には音楽ライブのほかにもアジアの伝統と文化を感じられる濃厚なコンテンツが目まぐるしく広がっています。この新聞のような密度の高いタイムテーブルを見れば言わずもがな、さらに現地に行けばタイムテーブルの外であちこちで事件(と言っていいレベルで見逃せない)が起こっています。
橋の下は大きく分けて橋の下ゾーンと草原ゾーンがあって、橋の下では商店街のようなにぎわいが。草原では人々の日々の暮らしが感じられます。お店が連なる橋の下ゾーンでは、絵師母屋が人気。橋の下のメインビジュアルや会場のレタリングを行う5人の絵師たちがお客さんの要望に応じてオリジナルの作品を描いてくれます。腕にタトゥーを描いてもらうひとや、買った酒瓶にサインをしてもらうひともいて、絵師たちはその場で作品を完成させます。グラフィティ界じゃかなり有名な方々なので、こんなふうにコミュニケーションが取れるなんて貴重すぎますね。他にもパブと称した屋台だったり、おもちゃやさん、一見何やかわからないお店も。ひとつひとつのぞいていくのもめちゃくちゃ面白いです。
・今年のメインビジュアルを担当した名古屋の鷲尾友公さん
・会場内のあらゆるグラフィティアートを描くCASPERさん
・過去のメインビジュアルを担当したWOODBRAINさん などなど
草原ゾーンでは、広々とした空の下みんなが思い思いに過ごします。橋の下を歩く中で驚くのはドリンク屋内の多さです。とにかく趣向を凝らした店構えのドリンク屋台が各所にあります。橋の下で喉がかわくなんてことはまずありえないと思うぐらい都会のコンビニくらいの間隔。お客さんはみんな自分のお気に入りドリンク屋台がありそうですね。店先には多種多様なドリンクとちょっとしたおつまみもおいてあるところが多く、ゴミもお店に返すスタイルなので立ち飲みバーのごとく賑わいます。わいわいと隣の人に話しかけたりして。この親しみのあるコミュニケーションがまたいいんですよね。
橋の下で「循環」する小さな集落
橋の下はステージ設営から地盤整備まで、ほとんどすべてが手作りだそう。会場にはソーラーパネルもあって太陽光が主電源。そもそも橋の下は普段普通の川辺なので、連なるお店や屋台も全部みんなで作り上げた空間です。手作りのフェスは国内にも多いけれど、ここまでセルフスタイルなフェスってなかなかないと思います。よくフェスで見かける大きな電源の塊や持ち運びの発電機がない分、草原ゾーンは夜になればとっぷりと暗いけれど橋の下自体は全然明るいですし、なにより飲食屋台が混み合っている場所でも発電機がブンブンうるさくないのは新鮮でした。
この三日間、この場所ではいろんなものが循環していたのだと感じます。エネルギーも、生活も、経済も。そして文化や慣習が脈々とこどもたちに繋がっていく。
全国各地から仲間が集い、家を建てるように趣向を凝らした屋台を組み上げて、三日間そこで生活をする。それぞれの場所でそれぞれの生活を持ち寄って橋の下に三日間の村が生まれます。橋の下の住民はそこで寝て起きて、ごはんを食べて、暮らし、仕事をしたり商いを営んだりします。たくさんの生命が循環していました。
何もないところに光が灯り、そこに生活が生まれ、終われば無になって、また来年には光が灯る。まるで生命のようだと思ったのは、橋の下に集う人々の熱量がまるでそうだったからだと思います。
あの場所で、自分の肌で直に感じた熱量と、生きていく強さをずっと覚えているし、本当に世界が変わった体験でした。
最後に
橋の下での体験が強烈だったのが少しでも伝わっていたら嬉しいのですが、やっぱり橋の下というロケーションがこの祭りをさらに濃いものにしていたなと思います。こういうとあんまり印象が良くないかもしれないけど、いつの時代にも、日陰にいる人やモノゴトはあって、そこには大きなエネルギーがあるし、そこから生まれるカルチャーやスタンスが世の中を変えていくこともあると私は思います。橋の下で生活をする人の多くは、全身にタトゥーが入っていてヤンチャに生きていそうな、普段なかなか出会わないような人たちでした。今まで行ったフェスの中でもタトゥーと半裸の人の割合が圧倒的に多かった。最初はドキドキしたけれど、みんなあたたかくて、みんな橋の下を愛し守っている人たちでした。陽に当たらなくても植物はたくましく生きるし、表には出なくてもどんなところにも人々の生活がある。そして実はそこがいちばんアツい中心だったりする。橋の下に行ってそう思いました。
そして開催後もとことん会場を綺麗にしている経過をずっとSNSでみていて感動しました。磁石の棒を使って小さな釘一本残さない。凹凸も滑らかにする。開催前にはサポーターズの方と草を借り土地を作り、開催後は何もなかったように、開催前よりも綺麗な状態にして戻す。スタッフの方々の覚悟や意志をひしひしと感じました。みんなでまた村を作り、祭りを開催できるように、土地を借り、還すということはこういうことだと思いました。
土地を開拓して、コミュニティを作り、大人がいて子供がいてそこに働きがあり家庭があり、祭りがあり肌剥き出しの交流がある。地元で仲間たちとつくるお祭りって感じが変にクローズドにもなってなくて心地よかった。橋の下こそが、興行的なイベントではない、昔から人間の生活の営みのなかに存在していたお祭りだったし、ここにいられることに感謝を、全ての人に敬意を感じました。
昭和の時代に生活をしたことはないけれど、日本人のDNAに組み込まれたノスタルジーを感じた数時間。昭和の街にタイムスリップしたかのような世界から、近代的な造りの大橋を渡り、少しずつ現代に戻っていく感覚もなんとなくまだ肌に残っています。
きっと今日も橋の下の人々の心の中で、このお祭りが続いているんじゃないかと思います。わたしもそう。そしてまたあの場所でお祭りに参加したいと小さな心の熱を温めているんです。これは行った人にしか共有できない感覚。橋の下で起きていることはすべて未来へのメッセージであると思います。行ったことがない人はきっといってほしいし、来年もずっとずっと未来にまで、続いていきますようにと願います。
おしまい
橋の下世界音楽祭 SOUL BEAT ASIA 2024 概要
開催日時:2024年9月13日(金)/14日(土)/15日(日)
会場:豊田大橋の下 千石公園(愛知県豊田市)愛知県豊田市千石町6丁目
料金:橋の下サポーターズパス制(祭り参加協力費)前売り1日券各 ¥2,500 前売り3日券¥6,000
出演:
9月13日
ATURTLE ISLAND / WINDY CITY / INNER TERRESTRIALS / 大工哲弘 with 苗子+ 大嶋章(沖縄八重山民謡) / 與那城美和(宮古島民謡、古謡) / ノリパン(韓国農楽) / T字路s / 柳家睦 & THE RAT BONES / 中西レモン&いえづとバンド(すずめのティアーズinclusive) / 滞空時間 TAIKUH JIKANG / DEEPCOUNT / 角銅真実 band set / 池間由布子と無労村
9月14日
阿波踊り名古屋太閤連 / OBSG / GUNSOKAI 郡囃会(郡上節・奥美濃民謡) / 芳泉会(民謡) / the原爆オナニーズ / 友部正人 meets バレーボールズ / ジンタらムータ + 大工哲弘(沖縄八重山民謡) / OKI REKPO(Dub Ainu Band / Marewrew) / THA BLUE HERB / 切腹ピストルズ / 下諏訪町木遣保存会 / 江戸糸あやつり人形 上條充 / 江戸太神楽 仙若 / チンドン!あづまや / HOU & marron trio / GOFISH Band Set / Les Khmers(クマイルス) / Colloid / ALKASILKA / AZUMI / ALKDO
9月15日
亀島楽隊(TURTLE ISLAND) / 彌榮太鼓(能登町宇出津) / アンデミノルムセ(韓国獅子舞) / 平針木遣音頭保存会 / 民謡一家(山形米沢) / ROOTSREDEEM / GEZAN / 寺尾紗穂 / サヨコオトナラ / 久土'N'茶谷 / タテタカコ / OBRIGARRD / EIEFITS / ROTARY BEGINNERS / FREAKY MACHINE / C-Rag & 熊野ビート / 良元優作バンド / 藤島晃一 / PIGMEET STRUT / The88 / ガンフロンティア / エクペリ / とんちピクルス / ナオユキ(スタンダップコメディー)
主催:microAction 、有限会社ストーンズ
公式サイト:https://2024.soulbeatasia.com/
X:https://x.com/soulbeatasia
Instagram:https://www.instagram.com/soul_beat_asia/