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第八十七話「確定申告」2025年2月14日金曜日 晴れ
よく晴れていた。日差しは少し春めいていて温かい。昨日の記録的な強風の名残りか、時折吹く風が、温かな日差しを蹴散らかしている。
今日は税務署に確定申告に行く。スマホを使えばe-taxで税務署に出向くことなく申告できるのだが、私は、失業手当受給者であり、複数のアルバイトもやっている。源泉徴収票は複数あり、またそれが発行されていない収入もある。複雑なのだ。
したがって、税務署に行きサポートを受けながら申告することにした。
必要な書類は昨日までに揃えてある。3月になると混み合うだろう。何か不手際があり、再訪庁することになるかもしれない。早いほうがいい。
税務署は、ハローワークの斜向かいにある。この通りは、安定した収入を求める者と、収入から税を納める者が行き交うのである。人の世の縮図のような通りだ。
訪庁時間は予約制だ。もちろん予約済みである。一番最後の枠をとっておいた。
エントランスの奥が、申告会場となっている。大会議室のようなところに、投票場のブースのようなものがぎっしりと並んでいる。案内係に、失業手当受給者であり、同時に細かなアルバイトをしている、その所得を申告に来たと告げる。
担当者が着き、私が持参した書類を選り分ける。電卓を叩き、緑色のシートに書類種別、金額などを手早く記入してくれる。
この緑色のシートが申告作業を簡略化するベースとなるようだ。担当者が次のブースへ案内してくれる。次はスマホを使った実際の入力・申告作業なのである。
列は短い。すぐに私の番になった。次の担当者は、なんと外国人である。驚いた。外国人労働者はあちこちにいるが、税務関係でも働いているのか。
人の良さそうな中年女性であった。日本語は世間話には十分に可能なレベルだが、専門的な用語となると不安を感じざるを得ない。何よりも、申告者である私自身が税務関係に疎いのだ。彼女に非はないのだが二重に不安になる。
スマホを操りながら書類を画像入力、もしくは手入力していく。
残念ながら、不安は当たってしまった。あるところでこれまで入力していたものがリセットされ、全て消えた。頭から再入力となった。彼女が申し訳なさそうに平身低頭、説明不足を詫びる。
大丈夫。スマホ入力という時点でこういうことは想定内だ。やり直せばいい。
しかし、今度は雑収入の扱いがわからない。彼女もわからないようだ。
結局、彼女は日本人スタッフを呼びに行った。しばらく待つ。これも想定内だ。むしろ混雑時期を避けて良かった。3月に入っていたら、この待ち時間はさらに長くなっていただろう。
日本人スタッフがやってきた。雑収入の扱いはすぐに解決し、その後の入力に躓くことはなかったが、小さなスマホ画面を睨みながら、慣れない用語、書類と格闘するのはなかなかタフな作業だ。
気がつけば、申告完了までに訪庁から一時間は経っていた。
一次受付から三人のスタッフさんに世話になりながら、なんとか国民の三大義務のひとつ『納税の義務』は果たせた。
いや、実際は私の収入では所得税はゼロなのである。それどころか、わずかであるが還付金もあるそうだ。
これをラッキーと受け取るか、納税もできないと悲観するか。
私は真ん中を取ろう。
私は、失業手当受給者として、そのルールの中でアルバイトをした。そのアルバイト収入を正しく申告した。その結果、所得税はゼロだった。還付金もある。
それだけだ。
いまの自分を正しく受け入れる。
自分を上げたり下げたりする必要はない。