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外国人に短歌を紹介する文章を書いたの巻

執筆/セイ

先週の土曜、ドイツから来た方々と会うことになった。しかし21時からは、サクラノモリの歌会がある。
なので「短歌サークルのオンライン会議があるので、その前に帰ります」と伝えたのだが、おそらく「短歌とはなんぞや?」状態になっていると想像できた。

私はドイツ語を話せない。

大学で西洋の哲学や美術を学んでいたためドイツ語の授業は全部とったけど、全部忘れた。
今回は通訳してくれる方も同席するが、短歌についてできる説明はせいぜい『日本のポエム』程度だ。
こうなったら、現物を見てもらおう。私の短歌集をプレゼントするよ!



これが高野 誓、初めての歌集です。
くーるじゃぱんです。えきぞちーっく……じゃぱーん! です。

いや、表紙だけ見るとますます意味不明やん。中身は正統派の短歌なんだが。
う~む。ドイツの方々は、短歌どころか日本語の文学にふれるのも初めてかもしれない。
ここはいっちょ、短歌が何なのかレクチャーする必要がある。そう、私は好き勝手に怪しいポエムを書いてるわけではないのだ!

とりあえず少しでも興味を持ってもらえるよう、ドイツ語で説明文を書くことにした。訳すのは当然、Google翻訳アプリに丸投げである。

ここには以下のような内容を書いた。

《短歌は、5・7・5・7・7という音数で作られる詩です》
→これだけは知っておいてもらわなきゃ。短歌の命だから、そもそものルールだから。

《その歴史は古く、西暦600年にはすでにたくさん詠まれており、西暦900年頃には天皇が命令して国家プロジェクトとして歌集が作られていました》

→万葉集や古今和歌集などの歴史も伝えておかなきゃね。

《今では一般市民が趣味で楽しむものになっていますが、皇族の方々も短歌を学び、大きな行事のときに詠まれています》
→これも事実である。
……ありゃ? 短歌ってものすごく高尚でステキ!

《短歌は本当のことだけで作るのではありません。 小説を書くのと同じように、短歌にも編集や想像したことがたくさん含まれています》
→短歌は創作物だよ! と保険をかけておく。
まあこれは日本人でも……というか短歌詠み自身もすっかりド忘れすることはあって、他人の歌を見て「この人、最近こんな事あったんだ~」と勘違いしやすいのだけど。

説明はこんな感じでした。
そしてメインディッシュの短歌は繊細な単語選びが必要になってくるため、多少は知っている英語に訳してみた。

旅先でドーナツを食べるまんなかに初めての景色を保存したあと
(I eat donuts while traveling. After saving the first view in the hole in the middle.)

クリームのはみ出たショートケーキ選ぶ自分に君に似てる気がして
(I choose the shortcake with cream spilling out. I feel like it's similar to you and me.)

悪意なくつけられた傷がうずくから夜ふかしをして玉ねぎをむく
(My wounds throb, innocently inflicted by others. So I stay up late peeling onions.)

こんな感じでやっていったものの、英文だと主語をしっかり書かないといけないのには少々困った。
短歌は文字数が少ないという理由だけでなく、あえて誰のことなのかをぼかした表現をすることもあるので……。

憧れのバレリーナにはなれなくてでもスワンボートで微笑んでいる午後
(Some women could not become the ballerinas they dreamed of, but they spent the afternoon smiling on the swan boat.)
→これは私が公園で池の周りを歩いている時に思いついた歌。ボートに乗っている人が誰なのか(=不特定多数の女性)はあいまいにしてたけど、英文だとはっきりする必要性が出てきた。

目を閉じて声想い出すそのわけは 海を見た日と同じ秋風
(I close my eyes and remember your voice. The same autumn wind blew as the day we saw the sea.)
→こっちは、海を見たのが一人でじゃなくて二人でだったという情景をハッキリさせることとなった。
映画のカメラでたとえたら、日本語だと海オンリーの映像にできてたのに、英語では遠くから二人が並んで海を見ているシーンに替わった感じ。

そして私が説明に一番文章量を割いたのは、この歌だ。

秋風になびく稲穂が知らせてる 黄金の国ジパングの意味
(The rice ears swaying in the autumn wind announce the meaning of Zipangu, the land of gold.)

小麦畑を見たことがある人なら、稲穂が金色なのはわかってくれるかもしれない。しかし、「黄金の国ジパング」に込めた下記の思いは、外国人には想像できないことだろう。

《西暦1300年ごろに生きたマルコ・ポーロは、著書の中で日本を「黄金の国ジパング」と書いています。
確かに昔の日本には多くの金山がありましたが、不公平な貿易により外国に輸出され、1800年頃には金を採掘できなくなりました。

しかし、私は黄金を発見しました。それは20年前、福島へ旅行したときのことです。
夕暮れ時に山間の村を通り過ぎていると、暗がりの中に何やら黄金色に輝くものが現れました。それはお米の稲穂でした。

お米の原産地は、東南アジアの暖かい地域です。
日本人が稲作を始めたのは2500年ほど前で、寒い地方でも栽培できるよう品種改良をしてきました。
(西暦1500年から1800年ごろの日本の通貨単位は金や銀ではなく、お米でした。)

もちろん、天候が悪いと稲は育ちません。 暑すぎても寒すぎてもダメですし、大雨が降ってもダメです。しかし昔の人々はみんなで協力し合い、日本人はお米を主食として生き延びてきました。
私は、名もなき民とその心こそが、日本の宝物だと思っています。》

……これだけの歴史と熱情がたった三十一文字に含まれているのが、短歌である。
そして、読み取れる人は歌意をしっかり読み取ってくれるものだ。

そんな訳文付きの短歌ポエム集は、たまたま家にあった小倉山荘というおかき屋さんの紙袋に百人一首が載ってたので、これに入れて渡した。
無料でもらった袋なのにクオリティ高! 文学フリマで頒布できるレベルやわ。

百人一首の紙袋


そんなわけでドイツのとある街では、百人一首と並んで高野 誓が日本代表です!

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