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心失すとき(1)


その日はなんの前触れもなくやってきた


仕事中、電話が鳴る
もちろん出られない

2~3回かかってきて諦めたように鳴らなくなった

また仕事に集中する

しばらくして電話がまた鳴った
今度は鳴り止まない

何度もかけ直しているのか、ずっと鳴ってる


『もしもし』

血の気が引くとはまさにこのことだと思った


母が倒れて救急車で運ばれた
すぐに来て欲しい
妹からの電話だった

仕事中であった私は、その仕事を終わらせ病院へ向かう

詳しくは聞けてなかったので
母の今の状態がわからない

『大丈夫、大丈夫』

そう呟きながらも心の中では
わからないはずなのに覚悟ができていた


病院へ向かっている途中に父からの着信

『まだ着かないのか?早くおいで、もうダメだよ、ばば死んじゃうよ』

言葉を出すごとに涙声になっていく父
最後の方は泣き出していた



涙が溢れる

運転中なのに前が見えない
嗚咽をあげ
悲鳴なような声を出して泣いた


『ごめんね、ごめんね』

『ありがとうね、ありがとうね』


繰り返し言葉にしていた

何に対してのごめんね、なのか
何に対してのありがとうね、なのか


泣きながらひたすらに繰り返していた



この日よりずっと前

妹とこんな会話をしていた

私は母を嫌いだと話していて
妹はそれを黙って聞いていた

『もしね、ばばが死んだとしても、私たぶん泣けないな』

『ばばには申し訳ないけどね』

『そこまでの感情持てないと思うもん』

それを聞いて妹は

『それはそれでお姉ちゃんの感情だから仕方ないと思うよ』

そう言ってくれた記憶がある


そう思っていた、その時は本当に

現実と思うことの違いというのは
ここまでのものなのか


現実の私は今

母の死に直面して、こんなにも心を乱している


病院へ向かう道はこんなに遠かったか
この道はこんなにふわふわと感じる道だったか
今日の天気はこんなに悪かったか


今見ているものすべては

夢か現実か


そんなこともわからなくなるくらいに


私の想いや覚悟は弾け飛んだ




*過去に書いたものになります

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