人はゲームを通して無機になれる
かぎです。いかがおすごしでしょうか。
『DiscRoom』を買いました。密室空間で迫りくる様々な丸ノコからひたすら逃げ回り生存時間を伸ばしていくアクションゲーム。
弾幕シューティングの避け部分だけを一生やる、みたいなやつです。
不条理映画めいた奇妙な舞台設定とアートやビジュアルがめちゃめちゃ好みなので気になっていたんですが、『丸ノコに当たると人体が血飛沫を上げてばらばらになる』という、自然の摂理では至極当然の、しかし実際に見せられるとエグすぎる描写に尻込みしていた……
がしかし、なんとこのゲーム、ゴア表現をオフにできるんですね!!!
ばらばら描写をかわいいパステルカラーの紙吹雪に変更することができます。
『人が無機物のように扱われて尊厳を失う残酷な物語』(もちろんフィクションですよ)が好きなわりに人体の切断描写が完全に無理、という矛盾を抱えているのが悩みのタネなわたくし、大歓喜。人間性の摩耗やマインドハックを扱った物語が好きなだけで、惨事が見たいわけじゃないんですよ……!
表現に関しては製作者の意向を最大限尊重してほしいと考えるタイプですが、まじで直視も無理で遊ぶのを躊躇するゲームが結構ある中、オン・オフの選択を与えてくれるのが本当にありがたい。開発元に感謝の限りでございます。血液の色を5パターンくらいに変えられるのは、なんかむしろ作った人の趣味を感じるんですけど。
で、めちゃくちゃ面白い避けゲー・DiscRoomをやってたら『SUPER HEXAGON』のことを思い出したので、今日はその話です。
人はSUPER HEXAGONを通してシステムになれる
SUPER HEXAGONは、ミニマルな世界でヘキサゴン壁がひたすら迫ってくるのでひたすら隙間を避け続けるゲーム。
ジャンル的にはDiscRoomと全く同じです。
-死んでもリトライまで0.1秒かからない
-極めてシンプルな操作
-シームレスで一生聴けるクールなBGM
という長所も同じ。お好きな方にはどちらも超おすすめです。
そしてとにかくSUPER HEXAGONはこれを極限まで高めたゲーム。
ストーリーも文脈もなし、表示される絵は全て幾何学。プレイ動画等を見てるだけでは「何が面白いんだ」と思うかもしれないけど、これは人間の根源の欲に直結しているゲームで、脳に直に来ます。
一度触るとやめられなくなる恐ろしい作品なんです。
最初は60秒間生き延びるのが目標なんだけど、難易度は『HARD』から始まって『HARDER』『HARDEST』と並ぶ通りのハードコア。始めたては1秒も経たずにすぐ死にます。
無感情なシステムボイスの『Again』という声、哀愁漂うかっこいいチップチューンと共にひたすらにリトライを繰り返し続ける。
繰り返しているうちに、壁にはある一定のパターンがあることがわかります。コレが来た時にはコレ、この形が来た時にはココ、と、視覚と瞬間的な状況の判断によって生存時間が徐々に伸びていく。
やられるたびに僅かに学び、経験が蓄積され、手は徐々に経験から引き出される動作を無意識に操作しだす。
すると、ある時突然『視える』ときが来て、なんか知らんけど急に全てがうまくいく………
そして気を抜いた瞬間死ぬ。
またやり直す。
そのうまくいく時の脳の快楽がたまらなくて、今度こそいけるんじゃないか? またやり直す。死ぬ。やり直す。そういう感じのゲームです。
そしてこのゲームのもう一つ恐ろしいところは、脳内麻薬の快楽を極める上で、それを邪魔する要素は徹底的に排除されている事。
例えば、このゲームでは死ぬと『Game Over』というシステムボイスと共に無音になり、再開すると同じ曲の別フレーズを開始します。
普通は無限に同じことを繰り返しているとBGMが耳について苛立ちがつのるところを、うまく気持ちが転換されるようになっている。(そもそも曲がカッコイイのもある)
キャラクターの死にモーション、自機はただの三角形なので当然なし。
再開時のスクリーン、無駄な「はい」「いいえ」なし。
余計なポップアップウインドウもなし。
必要ないものはとにかくなし。しかし、全てが心地良く美しい。
完璧な気配りのおかげで集中力を欠かれることがないので、自制心がないと本当に一生遊べます。
(ちなみに、終了も起動も簡単なので、やめるのも帰ってくるのも気軽です。これは地味に大事)
このゲームをひたすら遊んでいると、『視える』を通り越して『わかる』になる瞬間が来るときがあるんですが、これはテトリスをエンドレスでプレイし続けて落下速度が最高になった時の感覚に非常によく似ています。
ふつう、人間の思考は
-目で見る→頭で理解する→考える→手で動かす
というプロセスを踏むと思うんですが、テトリスの最高難易度を遊んでいる時は
-手:動かす→動かす→動かす
-目:別の次元を見ているが、理解は深層意識でしかしていない
-頭:無
となって、体と思考の分離が発生します。うわさではこれを『ゾーン』と呼ぶらしい。
禅、あるいは瞑想に近い何かというか、頭は完全に空っぽになって、今夜の晩ご飯とか、昔やらかした失敗に思い悩むことから解放されて、ただただそこにはテトリミノと空間と私だけがある。何なら『私』はそこにはない可能性まである。
SUPER HEXAGONも同様で、そこにあるのは音楽、色、壁。それすらも消え去り、ただ光速に近い判断とそれに先んずる操作、それだけ。
これはもはや人がゲームを遊んでいるのではなく、ゲームが人を動かしている。
私という人間の自己は吸収され、消滅し、今ここにあるのはゲームのシステムの一部、意識を持った無機なのではないか?
………というわけで、SUPER HEXAGONを遊んでいると無機、システムになれるんですね。
私は美しい無機、人間の尊厳が失われる話(もちろんフィクションね)、精神の存在と消失、知性の発生にまつわる物語が三度の飯より大好きなので、このゾーン現象にたまらなく魅力を感じます。
自分で遊ぶのも好きなんだけど、人間が無機になる、精密にプログラムされた機械と同等の完璧さを持つということが、美しくて美しくて仕方ない。
SUPER HEXAGONのゲームそのものも最高なんだけど、SUPER HEXAGONをプレイすることによって発生する現象も最高に好きなので、このゲームが好きで好きで胸が苦しくなるんだなあ……………
(余談:これは、超絶高難易度の音ゲーをノーミスどころか判定まで完璧にクリアする音ゲーマーがいる事に似ている)
ところで『システムになる』という言葉は『SUPERHOT』というゲームからの引用なんですが、この作品はゾーン現象が生み出すような、人格の無機化をストーリーで扱っています。
システム・アート・ストーリー、あらゆる面でむぇっちゃくっちゃ好きなゲームなので、どうぞよろしくお願いします。ここ数年遊ばれた中で最も革新的なアクション・シューティング・ゲームです。
俺もお前もシステムだぜ!!
で、DiscRoomはひとまずスタッフロールが流れてひと段落というところまでクリアしたんですが、これは地獄だな。
『何もかも全てが地獄なのにプレイヤーが遊びたがるせいで地獄から出られない主人公』のゲーム、好きなんだよな………
ちょっとDead Cellsが恋しくなりました。
Dead Cellsは無機とかシステムとは別の方面で最高のエンドレス・ストレスフリー・地獄ゲームなので、最高です。
(これやってると別のことが本当に一切手につかないので、意識的に遠ざけている)
でもこれも人がシステムになるゲームだなあ。
ほんと好きだなあ、人がシステムになるゲーム。