最期かもしれない

 最後かもしれない。
 いつもそう思って君を送る。見えない影がもしかしたら今日、君を攫うかもしれないから。流動性の世界が急に方向を変えるかもしれないから。
 最後かもしれない。
 言葉には出さない。言霊を信じている。世界が私達の心を反映するように思うのは、僕の脳が「僕は一人だ」と思いたくないから。
 最後かもしれない。
 恐れているわけではない。これは間違っていない。何時か君が帰ってこなかったとき、僕は後悔したから。
 最後かもしれない。
 全ての時間が君との最後かもしれない。世界が、うつりゆき、同じ時などないものだとしたら、僕と君の出会いと時間の全てが最後だから。
 最後かもしれない。
 できれば玄関の君が最後でない方がいい。願うほどに君はいつも帰ってくる。僕が待つときも、君が待つときも。
 最後かもしれない。
 サイレンの音が怖くて耳を塞いだ。僕は部屋で一人だった。言葉には出さない。言霊を信じている。世界が私達の心を移すように、僕はまだ一人ではないと叫びたかった。

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