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「初夢 ~別れ道に立つのは~(1月3日)」

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…どうやら、私は、家族とはぐれたらしい。

周囲の人混みは、疲れ果てつつも、なお先を急ぐ群衆。
私たちは、故郷を天変地異とプラント事故で失い、わずかな手回り品だけを持って、逃げ延びて来たのだ。

やっと辿り付いたここからは、道が二手に別れている。
そこには、その先からやって来たと名乗る
白い服と黒い服の村の長が、迷い人の我々を見つめていた。

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まず白い服の人物が口を開いた。
「私の村は、農業を生業としている。いくらでも人手がいる。だから来ようとする者は拒まない。
けれど、私たちには、あなた方を養えるだけの余裕はない。
種もみや家畜を分け与えるので、それを元に自給自足してほしい。
もちろん、畑も新たに開墾しなければならない」
きびしい表情でそう語った。

さらに子どもを連れた母親たちに向けては、こうとも言った。
「それまでの間、子ども達が餓死しないよう
里親に出してもらう。
それに自活できていない間は、あなたたちには、我々のやり方に異を唱えさせない。」

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ここにいるのは、私を含め、住めなくなった故郷を捨てた人々。難民なのだ。

…とはいえ、余りに容赦のない話に、群衆からは、落胆のどよめきが起こる。

それを制するように、なお言葉を続けた。
「だが、土地は広く豊かなので、三年ほど我慢すれば暮らし向きは良くなるだろう。
そうなれば、そこは、あなた方が開墾した土地である。

"自分たちで決まりを作り、自由に暮らすがいい"。」

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次に黒い服が口を開く。
「私のところは、農業にしがみつくのをやめ、
工業化し、他国との貿易で豊かに暮らしている。しかし、やはり働き手は欲しい。
一年間、タダで衣食住を与えるので、働き口を見つけ、わが街に"同化"して欲しい。」

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「私なら黒い服のほうに行く!」

間髪入れずに言葉を発したのは、
かつてTVで顔を知られた、有名評論家や学識経験者たち。

「まずは目先の生活が最優先だ。一年を安心して暮らせ。と、あたたかい手を差し伸べてくれるとは、ありがたい話。それだけの時間があれば、何とかなるはずだ。
自力で一から始め、上手く行く保障のない三年間など『絵に描いた餅』ではないか! 

それに今さら農業で生きて行くのは、時代に逆行している。
私たちの国でも、衰退産業だったじゃないか。」

*
『立て板に水の如し』とは、こういうのを言うのだなと、私は、熱弁に自己陶酔の表情を浮かべる彼らを見つめていた。

(こんな時にも、いつもの論法でみんなを…。)
小首を傾げ、思案を始めた私を押しのけるように、権威を輝かせ、単純明快な答えに扇動された群衆が黒い服が導く道を進み出したのだ。
混み合った人並みに、私の友人知人の何人かの姿が垣間見えた気がする。

*
ここで、はっとして目が覚めた。
おおよそ『初夢』には、相応しくない不吉なストーリー。

さて、あなたなら白と黒、どちらの道に進まれますか?

(MIYABI)

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