荒れるオランダの大晦日。二度とこの国で年越ししないと誓った日。
現在2024年12月31日の20時59分。
大晦日だ。
ここオランダではオリーボーレン??とかいうお菓子をどうやら大晦日に食べる風習があるようで、どこのお菓子屋も特設屋台も今日は長蛇の列だった。
昼過ぎに市場の買い出しから帰宅した。
2024年後悔することが無いように、半年以上前からずっとトライしようと思っていた手打ちラーメン作りに挑戦することにした。
冷凍保存していた1kgの豚バラ肉を大鍋にぶち込んで1時間フツフツとニンニクと一緒に煮る。
うどん作りは小麦粉、塩、水だけであるが、ラーメンはこれに”かん水”が必要となる。
もちろんオランダにはそんなもの売っていないので、調べてみると重曹で代用可能とのことだった。
所謂食用のベーキングパウダーだ。
アルカリ性の重曹が小麦粉に作用して中華麺独特の弾力や歯応えをもたらすらしい。
計量して混ぜる、捏ねる、熟成させる、踏む、伸ばすといううどん作りとほぼ同じプロセスを踏む訳だけれども、なるほど伸縮度合いがうどんのそれとは全く違う。
切った麺の両端を摘んで伸ばせばうどんならすぐにプチッと切れてしまうが、中華麺はあや取りの毛糸のようにすーっと伸びる。
たった数gの重曹がこれほどの違いをもたらすとは恐れ入った。
豚バラを煮込んだスープにシンプルに醤油と塩を足しただけでかなりコクのある醤油ラーメンとなった。豚バラは煮豚としてトッピングに使う。薬味はシンプルに小葱だ。
この世に生を受けて以来、今まで何百杯、カップラーメンやインスタントも含めれば千杯、二千杯と食べてきたであろうラーメン。
そんな身近な国民食を45歳にして初めて作ったこの大晦日。
なかなかメモリアルだ。
2024年後悔なし。
以前何かの記事に書いたことがあったかもしれないけれど、
残念ながらやめ太郎は極度の蕎麦アレルギーだ。
無論やめ太郎家で蕎麦は御法度。
年越しは赤いきつねうどんだ。
蕎麦アレルギーではない嫁さんはやめ太郎の目を盗んで度々1人で蕎麦屋に抜け駆けして食べにいっていた位だ。
オランダには蕎麦屋なんてないから、せめて大晦日くらいはうどん以外の麺を娘と嫁さんに食べてもらいたかった。
そんな願いが成就した大晦日だった。
何事もやらないで後悔するよりまずはトライする事が肝要だ。
そうして我が家はいつもより少しゆったりと18時過ぎに夕食を食べ終えた。
今年もあとはシャワーを浴びて寝るだけだねと。
そんなタイミングに悪夢は訪れた。
花火だ。
家の周囲で花火音が響き出したのだ。
その話、実は少し聞いていた。
オランダ人は大晦日になると花火をあげると。
あれは確か料理教室に来たシカゴ出身のクリスティーナが言っていた。
「オランダには、大晦日にお祭りとかではなく各家庭が庭や路上で花火をあげる風習があると。家庭以外でも、例えば友達で集まって花火をやるのよ、とってもinsane(頭おかしい)だから決して大晦日の夜に外出しないように」と。
そして、こうも言っていた「本当にinsaneで、毎年元旦が過ぎて三ヶ日が終わるくらいになるとオランダの新聞にはこう書かれるのよ。去年の大晦日にオランダで失われた指の本数は247本でした。見えなくなった眼球は⚫️⚫️個でした」と。
これ本当の話よ、と彼女は言っていた。2ヶ月くらい前に言っていた。
甘くみていた。
本当にうるさい。うるさいなんてもんじゃない。
ジュネーブに住んでいた時も確か7月1日はスイスの建国記念日でそこらじゅうで花火がドンぱち上がる訳だけど、それは行政主導で場所もあくまで大きな湖や公園で行われる日本の花火大会のような感じの打ち上げ花火だった。でも21時や22時になっても全く花火が終わる気配がないのでかなり閉口した記憶がある。
それに比べてここオランダの大晦日の花火は市民主導というか家庭単位というか草の根活動的な花火だ。
でもだからと言ってそれがジュネーブと比べて安全だったり大人しかったりという訳ではない。
むしろ逆で非常にタチが悪い。
18時頃に始まったこの花火、プロがあげるような打ち上げ花火でないにしても大きいものなら高さ30メートルくらいは軽く超えている。
その他に地べたを這い回るようなものや、爆竹のようにただただ喧しい音だけを掻き鳴らすものまでバラエティーに富んでいる。
さっきもうちのテラスに火の粉が飛んできた。
火事になる心配なぞどこ吹く風だ。
そんな花火が四方八方、際限なく続いている。
数だけで言えばすでに長岡の花火の数を超えているくらいあちこちでバンバン、ボンボンと爆発している。
そう、爆発という言葉が相応しい。
不謹慎で申し訳ないけど、ほんとに戦時下にいるようにたまに腹の底まで振動が響き渡るような、耳が痺れる大爆音なのだ。
残念な事にやめ太郎が住んでいるのは小さな村の中心地。
普段は静かで安全な人口1万人の村だけど、今日だけはその立地を呪った。
小さな村とは言え中心地だからそれなりに若者も集まるし前後左右360度から集中砲火状態なのである。
本当にこうしている今ですら四方八方で爆発音が止まないのだ。
まだ21時50分。
爆発が止む気配はまだない。
いや、なんならさっきから爆発音が更に増しているのではないのか。
これもしかして深夜になればなるほど、紅白みたいに大物が待ち構えているのか??
日本の紅白ではBzが華やかに全国民を魅了したようだ。
こちらはまるで戦地に転生させられたかのような轟音に苛まれている。
果たしてイヤフォンをつけたりすれば寝れるものだろうか。
もしくはイヤフォンをつけて2024年に見逃した映画でも後悔しないように観た方がいいのか。
いや、そんなことより2024年最大の後悔は”大晦日はオランダを脱出するべきだった”ということだろう。
まさか大晦日に今年最大の後悔をすることになるとは。
不幸中の幸で、やめ太郎の愛娘は現在手足口病の治りかけで体力を消耗している為か、すんなりと眠りについた。それだけは良かった。
今にもアパートの眼下で花火に興じている若者に空き缶投げつけたい気持ちであるが、国民的な大晦日のイベントということで時が過ぎるのを待つしかない。
来年は是非とも国外に逃亡することとしよう。
あー、逃亡したい。