オランダシェアハウスに棲む魔物
我々が住むオランダ北部フローニンゲン近くの村にある賃貸物件は建物の2階部分と3階部分で構成されるメゾネット物件だ。
1階部分には自転車屋、服屋、床屋、スポーツジムなどがテナントとして入っている。
それらのテナントの上に5つの賃貸アパートが乗っかっていると言った感じだ。
築110年の築古物件だけれども中身はまっさらにリノベーションしてあり、システムキッチンも最新のものとなっている。
基礎は昔ながらのレンガだ。
築古でも暖房はセントラルヒーティングだし、床暖も付いている。
日本の築古物件とはややイメージが違ってオランダでは築年数というものはあまり関係ないように思う。
いかにメンテナンスされて住みやすく維持されているかが重要なのだ。
さて、そんな我が家がある賃貸アパートは前述したように共用エントランスから5つの物件の独立した玄関に続く作りとなっている。
その5つの物件は全てメゾネットとなっている。
そして5つの物件のうち、3つがシェアハウスとなっている。
我々とその右隣さんだけ世帯で住んでおり、他は2人から4人くらいでシェアしている。まあ家賃が1300€から1500€なので学生さんや比較的若い社会人は家賃と部屋をシェアするのだ。
シェアハウスには魔物が棲んでいる。
我が家の左隣にもそれはいた。
そこには25歳くらいの若くてマッチョな郵便局員のお兄さん、とその妹が住んでいる。と思っていた。(この2人は無口なのであまりしっかりと話をしたことはない)
その血縁関係は不確かなままだが、我が家が入居してから少し経ってから、もう1人住人がいることがわかった。
30歳くらいの中肉中背のスモーカー君だ(いつもベランダでタバコを吸っているのでうちの娘が臭い臭いと言っている)。
スモーカー君は映画ハングオーバーの主演3人の金持ち道楽息子のビジュアルだと思っていただければいい。
はっきり言ってそっくりすぎる。
話しが脱線した。
このスモーカー君と郵便局員の妹は働いている様子はない。出かけるところもあまり目にしないし夕方になると一緒にスーパーに買い出しに行く、うちの嫁さん曰くあの2人は恋人よ、との事だ。
そして夜になると、というか深夜になると毎晩激しい情事が始まる。それは2階部分で行われるので3階部分で寝ている我々は普段耳にすることはない。
だが、夜中にパソコン仕事をしたり、寝れなくなったり、小説を読んだりしていると漏れなく深夜2時くらいに情事はスタートする。
まさに映画で見るような激しい喘ぎ声そのものだ。
小説なんか読んでられない。
これが続くと気が滅入るので夜はあまり2階へは降りないようにしている。
そして情事がない場合も爆音でヒップホップ音楽が流れたり、スタンリー・キューブリックの宇宙の旅のような変てこな映画音楽や爆発音が大音量で炸裂している。
本当にひどい。
3階の寝室まではその音は響いてこないから寝る妨げとはなっていないのがせめてもの救いだ。
一番不幸なのは郵便局勤めのお兄さんだろう(血縁関係はない赤の他人かもしれないけど)。よくあの騒音に毎晩耐えられる。
もし自分がその立場だったら2週間で引っ越すだろう。
さて、我々はフローニンゲンに引っ越してきてから1人の日本人の女性と友人になった。彼女はとても聡明でいい人で非の打ち所がない方だったけど。残念ながら先日都会へと引っ越してしまった。
そして残念なことに彼女は引っ越し先のシェアハウスで魔物に出会ってしまったらしい。
その同居人はヨーロッパ人の美人さんで、これまたとてもいい人らしい。
でも引っ越しが終わって蓋を開けてみたらどうやら極度のビーガンという事が判明した。
肉も魚も動物由来のものは一切口にしないアレだ。ということは牛乳もチーズもバターも駄目ということだろう。
避難する訳じゃないけれど、それじゃ何食べて体を維持してるの?って思ってしまうのは私だけだろうか。
大豆で作った人工肉と野菜、パンとかを食べているのだろうか。
話が脱線した。
女性2人の楽しいシェアハウス生活が一転、飯も一緒に食べれないし、食事の準備やら冷蔵庫の仕分けなども全て配慮しなければならない事態となった。
(同じフライパンとかも使えるのか??肉・魚を調理する時の匂いとか多分駄目だろうな)
これではなかなか気が休まらない。
そもそも入居前にビーガンと自白するのがそもそもの筋だろう。
入居後にビーガンです、入居後に情事が激しいんです、と言われても後の祭りだ。
シェアハウス、希望に満ちた新しい出会いを求めたとしてもなかなかうまく行かないもんだ。
そりゃ結婚もしてない赤の他人が同じ屋根の下で住むのだからハードルは低くない。むしろ高すぎると思っていた方がいい。
まあ44歳のおっさんがこれからシェアハウスに住む事は相当何からしらの出来事がない限りはないだろうけど。
あー、お仕事したい。