
ep.9 割引シールは姿を変えて
きゅーっと寒かったですね、週初めから。わたしの街でも久しぶりに雪が降りました。雪はいくつになっても珍しくて、いくつになっても好き。さっき見たばかりの窓の外を何度も覗きに行ってしまうほど。

こんばんは。たまです。温かいものを食べて、ぬくもりたい季節です。
ここは、小さなラジオブース、あるいは寝る前の談話室。水曜日は「生活の日記」と「今夜の1曲」をお送りします。
生活の日記
「げ、消費期限切れてるっ」
さっき買ってきた牛肉。元値960円の30%オフ。高いよねえ…でも買いたいときもあるんだもの…。割引でならなんとかいける?!と選んだお肉が、昨日までで消費期限が切れていたものだった。
「30%オフって、消費期限切れだけど、それでもオッケーな人はどうぞという意味?(ぜったい違う)」「印字を間違えちゃっただけで、今日までの期限?(それは危険)」家族で頭を巡らしてみるも、全然正解らしき原因に辿り着けない。
しかし、「オイ店の間違いだっ!」と紛糾する、てやんでい!な発言が出ていないことに気づく。これはわたしたちがのほほん大らか一家だからでは決してない。自慢じゃないが、けっこう血は熱いタイプ。では一体なぜ?
いいお肉が30%もオフだぞ、とギラギラ飛びついた自分たちのザ庶民的行動に、どこか後ろめたさがあったのだ。
いいや、恥じることなんかないのだ。30%オフだって立派な牛肉じゃないか。胸を張ろう、と励まし合う。そうして、勇気を出して、さっきの肉屋に電話をかける。諦められないよあたしゃ。言いくるめられたりしないぞ。
すると懸念に反して、肉屋のおじちゃんがほんとうに誠実に対応してくださり、ほっとした。電話してみるもんだった。
お詫びに伺って支払います、と申し出てくれたけれど、それは申し訳なくて、再び肉屋へ向かうことにした。お店に着いてアルバイトらしき女の子に、電話で聞いたおじちゃんの名前を伝える。すると、奥から真面目そうなおじちゃんが「このたびは申し訳ございません」と白い帽子をとりながら出てきた。
「お詫びと言ってはなんですが、こちらを代わりにお渡しさせていただけないでしょうか」
そうして手渡されたのは、1200円の国産牛切り落とし。普段は手に取れない高級肉パックである。こ、こんないいお肉、逆にいいんですか、と謙遜しながら、わたしの目ってば、つい爛々としてしまう。そしておじちゃんはキリリと付け加える。
「たしかに本日私が切ったお肉です。安心してくださいませ」
“ おじちゃんカットの一品 ”……肉業界に明るくないのだが、生産者に加えカット者というのもやはり安心印なのだろうか。それがわたしにはまた職人の所業っぽく感じられ、受け取った牛肉のまぶしさをいっそう輝かせた。
さらには帰り際、わざわざお店まで交換しに来てくれたから、とウインナーの大袋もおまけしてくれた。とんだわらしべ長者である。
世の中捨てたもんじゃないなあ、今度からおじちゃんの肉カット指名しちゃう?、美容院じゃないんだから〜、などと帰り道にケラケラ冗談を言い合ってしまう。申し訳ないほどにどこまでも庶民な一家だ。
当の牛肉はこんにゃくとさっと煮て、七味をかけていただいた。30%オフだったお肉が、心意気まで一級なお肉の煮物に変わった夜。おじちゃん、ごちそうさまでした。
今夜の1曲
boygeniusのNot Strong Enoughを。
月曜日はグラミー賞の発表でしたね!3冠おめでとう!受賞後、壇上へ走ってくる3人の白スーツたちのニッコニコが、脳裏に焼きついちゃいました。
自分たちが心からかっこいいと思う音楽を作って、積み重ねて、持ち寄って、ひとつの歌、ひとつのアルバムを形にする姿を、この歌を聞くたび浮かべてしまう。ああそんな生き方ってかっこいいなあ、とシンプルにそう思います。
あと2日頑張れば、3連休ですね!世のご褒美だ、やったね大人たち!
今日もとってもお疲れさまでした。あなたも、わたしも。