蟻の王

イタリア映画を久しぶりに観てきました。
昔観て大のお気に入りで、DVDも購入したLa meglio gioventù (邦題:輝ける青春)に出ていたLuigi lo Cascio主演の映画です。

あらすじは上のリンクから公式ページで観ていただきたいのですが、1960年代のイタリアでの同性愛に対する不寛容がテーマの作品です。
蟻の専門家であり、詩人、劇作家でもある教授のアルドと彼の知性に惹かれる芸術家肌のエットレ。エットレが家族に連れ去られ、精神病院で電気ショックのような治療を受けさせられるシーンはとても辛い。ムッソリーニ時代、同性愛など存在しないとして禁止する法律はなかったけれど、教授と学生の惹かれ合う2人を若者を唆して洗脳したとして「教唆罪」と言う罪名で、若者の母親と兄が教授を訴えた裁判シーンに、様々な愛の形があることを理解せず、家族をはじめ、はじめから色眼鏡で見る裁判官までもがどんどん真実から遠ざけるのも、一つの価値観を人に押し付けようとする不寛容に絶望します。この頃から比べれば、今はだいぶ理解は進んだとは思いますが、裁判を取材してその不寛容さと固定観念で罪のない人を罪人にしてしまうことの恐ろしさを伝えようとする記者のエンニオが最初黙秘をする教授に面会し、社会運動を起こし、反論するよう提案する際言ったセリフが胸を打ちました。これ、現代でも言える女性蔑視の考え方も底にあるからです。「エットレが女性だったら、きっと皆”おい、うまくやったな”って肩を叩くはずだ。おかしいだろう?なぜ反撃しない?」本当にその通りです。後半出てくるこの記者の存在はわずかな救いです。それでもアルドとエットレは元には戻れないし、エンニオも自分の主張する記事を書けなくなるのに救いはないのです。
ただこの裁判でアルドに協力者があまりいないのは、彼の頑固さとエットレの兄をはじめ人の気持ちにはあまり頓着しないパワハラっぽい部分があるせいという部分もあり、人には思いやりを持って接することで、後で助けてもらえるのかも?という教訓的な描かれ方もしています。
残念ながらこの無理解と不寛容と閉塞感はなくなっていない今…。特に日本では同性婚も選択的夫婦別姓も法律では認められていない。さらにSNSでは自分と異なる意見を叩き合ったり、誹謗中傷したり、助け合わなければいけない場所でスマホで素人記者気取りが撮影した映像が人のプライバシー侵害したり、一部メディアは許可のない取材で人を追い詰めたり。半世紀以上経っても、技術がどんなに進化しても人の心は進化していないことにため息が出てしまいます。ただこう言う映画が作れるだけまだイタリアには希望が持てるのかもしれません。Lo Cascioだけでなく、エットレ役と記者役の俳優さん達も皆良かったです!最後表情だけで見せたエットレの目力は凄かった…!
重い話ではありますが、見に行って良かったです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?