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137. 北の方へ(3)

 怒涛の12連勤のため、ついに更新を途絶えさせてしまった。誠に無念。しぶとく生きております。

 前回の続き。
 旅先では早寝早起きに限る。というわけで開店
早々、のっけ丼に押しかけ「私の考える最強の海鮮丼」を作ることにした。2000円分の食券を買って、ご飯をもらい、色んなお店から海鮮丼のパーツを買い集めて乗せまくり、オリジナルの海鮮丼を作るというシステムである。人間様の欲を大変よく理解されている。好きなものだけをもりもり食べたいもんね。鯛、デカい甘えび、ほたて、甲いか、たこ、かに、ひらめ、さざえ、津軽漬け。最高すぎる。偏食が色合いに表れてしまい、なんだか白っぽい海鮮丼である。
 最初の3口くらいはきちんと味わって食べた気がする。新鮮な魚介の前に人間の意志は薄弱なものである。豚や牛に比べて魚は本当に美しい。こんな綺麗なもん食べてええんか…と思うことがたまにある。実際はものの10分で大きな海鮮丼もぺろりである。命に感謝。

テンション爆上げである
ものによって1枚だったり2枚だったり。学祭のシステムを思い出す
活きの良いみなさん
ほやほやほやほや
ヘルシー偏食丼

 朝から幸福感に包まれたまま青森駅でおみやげを買い込む。上司たちにアップルパイ、次の旅の同行者にストレートりんごジュース、半分自分用にりんご味の「いのち」。いのち美味しいよねマジで。知らない人はぜひお試しあれ。お店のおばさまは大抵物珍しげに話して適当なものを薦めてくれる。大人しく薦められたアップルパイを買う。

 恐ろしい日差しを跳ね返して真っ白い建物の青森県立美術館である。棟方志功展だった。生誕120年とのこと。知らなかった。そもそも世界のムナカタを知らなかった。版画にはてんで明るくない。好き嫌いでしか鑑賞できず、何となく迫力があって良いなぁとか、シブくてかっこ良いなぁとかボンヤリ思いながら観て回った。とかく作品数が多く、仏教のものが大半だったため解像度の低い鑑賞になってしまった。残念ながらほとんど記憶に残らなかった中で、阿修羅ばかりが奇妙に印象深かった。生き生きとして人を惹きつけるものがある。しばらく阿修羅ばかり眺めていた。

妙に目を引く阿修羅
上に同じく
光徳寺の華厳松。しばらく見入ってしまった
『飛神の柵』。これがおしら様。遠野物語を読んでおけばよかった
津軽の鳥たち
ムナカタ作ではないけれど。前回歩いた海辺は本当にこんな感じだった。家に欲しい版画

 イタコの目が全て黒目に描かれた版画もあり、ゾワゾワした。遠野物語を読んでから見るべきだった。偉い先生たちが命を削りながらn次創作をして、それを数十年数百年後に辿ることができる。とんでもないことですね。無学は本当にもったいない。
 常設展はやはり奈良美智御大の作品が多い。かわいいなぁ。かわいい。怖かわいい。皆さんのお目当てはやはりデカい犬こと青森犬である。お小さい方々が周りをちょこまか走り回るところまでが作品の一部なのかもしれない。夏空によく映える。

爽やかかわいい
暑さにやられてしまっている
夏の守護神みたく


 とんでもないサイズのシャガールも飾られていた。題材は『アレコ』。無学なのでこれまた一からあらすじを読み、NTRなのか…と若干元気をなくす。一番気に入った場面が一番陰惨なやつだった。浮気した奴を手にかけるには美しすぎる夜空だった。シャガールの手にかかれば、どんなに下世話で取るに足らない人生でも人目を惹くような色彩の集まりにされてしまうんだろうか。

復讐の夜、みたいな場面だった

 併設のカフェでドライカレーとアイスコーヒーを胃に収め、バスと電車を乗り継いでレンガ倉庫美術館へ向かう。降りる時に「行き方分かる〜?」と運転手さんに心配される。はぁい、と曖昧な返事をしてのんびり歩いていると大きなレンガ倉庫が視界にヌッと現れた。ご立派だ。明治から残る酒造工場。ここにも奈良美智氏の犬。撮り方がアレなので写真をあげようとしたらセンシティブ判定されてしまった。

 展示は大巻伸嗣の『地平線のゆくえ』。こちらは見応えがあり、個人的に好きな作品が多かった。東北という土地の風土と記憶がテーマ。

人が少なくかなり快適
インスタレーションは暗い方が好き
「Liminal Air Space-Time」の一つ。これはぜひ体感いただきたい

 レンガ倉庫の中に暗い海が波打っていた。これは本当に感動した。シンプルなインスタレーションだったが、外が暑くて眩しいことも相まって一気に異世界に突き落とされたような感覚に陥る作品だった。暗く涼しい、波のうねりの中にしばらく一人で立っていた。
 映像作品が最も心に残ったが、これは手元に歌詞の書かれた紙があるくらいで、動画が見つからなかった。雪国の美しさが凝縮された、氷柱がほどけていくような歌と映像だった。

 一日に回れる美術展はやはり2つが限界みたいだった。熱い脳を揺らしながらバス停に向かうと、八百屋で桃が安くうられている。なんと、蟠桃がある。こんなところでお目にかかれるとは。一気に元気を取り戻し、蟠桃とあかつきを買う。欲張って3つ買う。3つで250円。東京ではあり得ない価格である。ありがたすぎる。荷物の多い人間なので、またしても店のおばさまに心配される。すぐ帰って食べますので。

今宵はパーティ

 桃の柔らかな香りに包まれて宿へ向かう。旅は幸福である。(最終日へ続く)

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