なぜ経済学者は嘘をつくのか? あるいは、なぜ経済学者は間違えるのか?
優秀なはずの官僚がなぜ誤った政策を採り続けているのかに関しては、ある程度わかってきましたが、次には、なぜ東大・慶大の著名な経済学者が、日本経済をさらに冷え込ませる増税路線・財政均衡主義を採るのかが分かりませんでした。
ただ、官僚よりもわかりやすい部分もありました。官僚は喋らないし書かないので、何を考えているのか推測するしかなかったのですが、経済学者は喋ったり書いたりすることが仕事ですので、書かれた文章などから多くの情報が得られるわけです。
そうすると、おぞましいことに、「経済学者」「経済学教授」の少なくない人たちが、相当初歩的なところで、全く経済を理解していない、ということがわかってしまったのです。何せ一番単純で、しかも現在の日本の経済状況の把握には欠かせない、「金融緩和と財政出動の違い」を理解していないようなのです。言うまでも無く「金融緩和」は日銀の政策ですが「財政出動」は政府の政策であり、経済に及ぼす影響は天と地ほども違うのに(特に今の日本の経済状況では!!)、それを混同している学者が多いのです。
これにも2つのレベルがあって、「アベノミクスの評価の点で間違えている人」と、「そもそも2つの違いを理解していない人」とがいます。前者は相当多くて「自分で調べず、誰かが言ったことを垂れ流している」と言う点で学者の風上にもおけませんが、後者も若干いて、こちらは「経済は専門外の私が頭を抱えるレベル」と言えます。もっとも前者も、実は「前者+後者」だという可能性はあって、「両方とも金をジャブジャブ出すんだろう」くらいの理解かもしれません。そうでなければ、ちゃんとデータを確認すると思うのですが、そんなこともしないのですから結局良くわかっていないとしか思えないのです。どうしてこんなことが罷り通るのか? とにかく、誤っていることは事実なので、逆にそういう人がなぜ「経済学教授」になれたかの方が問題なのでしょう。
「経済学」のことも調べてみると、どうも今の「経済学」は「現実の経済」にはあまり興味がないらしく、「経済モデル」をいろいろ弄って新しい関係性を発見したりすると、良い雑誌に論文が通ったりするらしいのです。大学の教授は、通常「業績」で判断されて選ばれるので、そのような論文をたくさん書けば教授への道が拓けてくるわけです。ただし、その「経済モデル」というのは「理想的とされる状態、たとえば、社会は合理的経済人だけで構成される、など」をモデル化しているものが多いようで、現実に役に立つかどうかは不明です(むしろ金融工学などを開発した結果、世界に多大な損害を与えたりしている点では、役に立たないばかりか有害かもしれません)。何せ彼らのモデルの中には「非自発的失業者は存在しない」ことになっているらしいのですから、正直、経済学者以外から見れば「常識外れ」の話であり、それが「主流」だと言われても、一般国民の良識に照らせば「呆れ返る」としか言えません。
ともあれ、そのような論文をたくさん書いた人が教授になっちゃうわけですが、彼らが現実の経済をわかっている保証は全くないわけです。ちょうど、30年くらい前まで居た「試験管を振って教授になった、手術の下手な大学外科教授」みたいなものです。医者の場合には、実際に下手なら誤診とか手術失敗とかで下手なのが目に見えるわけですが、経済の場合には見えにくい。
東大や慶大の教授になると、財務省から「諮問委員に」と依頼されたりするわけです。「わからない」とは言えないので「委員」になるわけですが、皆が言っていることとか、事務局(財務省)が言っていることに、異を唱えるだけの知識も経験もないので、事務局や多数派に合わせがちになります。多数派に合わせている分には、自分の見立てが間違っていても言い訳ができるわけです。消費増税当時の諮問委員の大多数は「消費税を8%に上げても、日本経済は大丈夫」と増税に賛成したのです。
財務省の筋書きに合わせた発言をしていれば重用され、最新の財務データなどの提供も受けられ、またそれで論文が書けます。諮問委員に選出され続けるばかりでなく、退職後も財務省関連の団体の理事の職とかが回ってくる、という仕組みになっています。少し異なる意見を持てば、官僚が押し寄せてデータをもとに丸め込まれます。財務省の意に沿わない発言が続けば、おいしい立場からは遠ざけられます。減税などの政策を唱える学者は、最初から委員に選ばれない、あるいはガス抜きとしてごく少数が選ばれるのみです。
普通に考えれば「8%に上げても大丈夫」と言っていた委員(8割位はいたはず)は、景気の腰折れを招き再びデフレ基調に戻したのですから、全員「自らの不明を恥じて委員を辞任するのが筋」だと思いますが、結局その人たちは全く責任を取らずに委員を続け、同じ口で「10%に上げても大丈夫」とまた言ったわけです。
彼らの多くにとって賛成した政策が正しかったかどうかなどは興味が無く、財務省にとっても彼らが正しい政策を選択するかどうかなど興味は無いからこそ、このような状況が続いているとしか考えられません。要するに「増税したい」ありきの財務省の茶番劇と、その演出に乗っているだけの委員、ということでしょう。
さらに言えば、たとえば「アベノミクスでは財政出動が全く不十分」と理解しているにもかかわらず、政府や財務省に重用されたいがために、表立ってはあまり言わなくなる、という人も居そうな気がします。そういう人は、たまに「財政出動も大事だ」とか、お茶を濁すようなことを付け加えて発言しますが、本気感は全くないわけです。
参考文献「青木泰樹:経済学者はなぜ嘘をつくのか」