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駄菓子屋のつくりかた
この記事は プロダクトマネージャー Advent Calendar 2024 2日目の記事です。こんなのが2日目でいいんだろうか。
記念すべき 2024 年のトップバッターは @madai0517 さんによるプライシングのお話でした。なかなか経験できる機会は多くないですが、めちゃくちゃ重要な話でしたね。
皆さん、こんにちは。駄菓子屋PMの永嶋です。
おそらくプロダクトマネージャの皆様におかれましては、「そろそろ駄菓子屋作ろっかなー」と考えておられる方が多いと思いますので、今日は、プロダクトマネジメントの視点から見た駄菓子屋づくりについてお話ししたいと思います。
お店を始めて1ヶ月の振り返りはこちらです。もしよかったらこちらも併せて読んでみてください。
はじめに : 「駄菓子屋」というプロダクト
プロダクトマネジメントという活動は、ユーザーの課題を解決する製品やサービスを作り、継続的に改善していくこと。そのために必要なことはなんでもする。この考え方は駄菓子屋の運営にも当然当てはまります。
駄菓子屋には様々なユーザーがいます。放課後に立ち寄る小学生、休日に子供を連れてくる親御さん、懐かしさを求めて来店する大人たちや、子供たちを見守る地域の方々。それぞれのユーザーには異なるニーズがあり、異なる課題を抱えています。私たちはこれらの課題に対して、「商品を販売する」というソリューションだけでなく、「コミュニティを提供する」という価値も提供しています。
では、具体的にどのように駄菓子屋を作っていけばよいのか。私の経験から、特に重要だと思う3つのポイントについてお話しします。
ポイント① : 成功のイメージを明確にする
お店を始めようとするとき、どんな指南書にも必ず「まずコンセプトを決めましょう」と書かれています。ここで、コンセプトといっても、落とし穴になりそうなのは「HOW」を考えてしまうことだと思っていて、その前にまず「WHY」を考えることが重要です。どこかで聞いたことありますよね。
一口に駄菓子屋といっても、昔ながらのおばあちゃんがやってる小さなお店もあれば、大きな資本で広い売り場で大量販売しているお店もあれば、お酒の販売と合わせてバー業態でやっている、なんて店もあります。品揃えが豊富なお店も、レトロな雰囲気のお店もあります。これらは、すべて「HOW」なので、まず、自分が「どんな課題に対してどういう状態を目指すのか」ということが大事です。
私の場合はいくつか軸があるのですが、
1つめに「自身の次のキャリアの挑戦として、"リアルとんとんビジネス" を作れるようになる」という WHY から、「既存の持続可能性の低いビジネスモデルをどうにかする」という HOW が導かれます。ビジネスモデルが肝です。
2つめに「地域の子供たちの放課後の居場所が足りない」という WHY から、「平日の夕方に空いている」という HOW が決まります。営業時間が決まりましたね。
そして「必要なのは販売機能ではなくコミュニティ」という WHY から、「一定の広い空間を持っている必要がある」という HOW が決まります。これが物件の条件になります。
逆に言うと、ここからズレるものは、意思決定の際に、トレードオフしてもいいことになります。諦めていることは「身の丈を超えた売上」「キレイな内装」「土日の営業」みたいなところでしょうか。
「やることを決めることはやらないことを決めること」ってやつですね。
ポイント② : 仲間を集める
駄菓子屋を始める前に最も重要だったのが、この「仲間集め」でした。
仲間集めのためにしたことは以下の点です。
・先に「本気でやるぞ」と宣言する
・地域との関わりを大切にする
・少額でも、先にお金をいただく
今年の初め。まだ物件も決まってないし、前職も辞めてない状態で、全世界に高らかに宣言しました。
ここまで文章として宣言したのはこのタイミングですが、実際には会う人会う人にはもっと生煮えの状態からことあるごとによく話していました(お話に付き合ってくれた方々、本当にありがとうございました)
ちなみに、ちょっと余談なんですが、私、元来「不言実行型」人間でして(動物占いはコアラです)
「不言実行型」て、絶対に失敗しないんですよ。なぜなら、こっそりやっていたとしても、失敗したら言わなければいいからです。成功率100パー。ちょっとしたハックですよね。
失敗って怖いですよね。辛いし。恥ずかしいし。あと、やるっていったのにやらないのも恥ずかしい。後ろ指さされそうですよね。
そんな時代は終わりました。失敗は、かっこいい!!!
そうなると、どう考えても先に宣言した方がお得なんです。たくさん失敗をするということは、知見が溜まります。次の成功確率が上がります。メリットしかありません。
「有言実行型」の良さ、こちらのメリットが圧倒的なのですが、同志や仲間が見つかります。
発信するようになってから「似たようなことを考えている人がいるよ!」とか「こんな事例があるよ!」とか「一度話聞かせて!」みたいなことが増えまして、たくさんの方とお話ししました。そういった出会いから、いくつもの勇気をもらいましたし、ブレイクスルーも生まれました。100円たこ焼きかわひーさんとの出会いも、宣言したからです。
たぶん、年初に宣言してなかったらまだお店やってないんじゃないかなと思います。失敗をすることなく、ね。
地域の方々との関わりも、めちゃくちゃ大切にしています。今の街には15年くらい住んでいるのですが、地域の商店街や祭など、昔からよく関わっています(ただ飲み歩いたり、楽しいイベントに参加させていただいているだけです)お店の業務支援を仕事としてやっていたので、そういった仕事の話をよくしていたこともあるかもしれません。子育てをするようになってから、地域の方から話しかけてくれるようになった、というのもかなり大きいです。結果として、お店をオープンする前から地域の方が私のお店を認識してくださっていて、「いつになったらやるのかと思ってたよ。もちろん応援するよ」といっていただける関係を作ることができました。本当に幸運なことです。
そして重要なのが、「勇気を出して先にお金をいただく」こと。
本当に顧客が欲しいものであれば、きちんとサービスの対価をいただくべきです。私自身「自分で作ったものを売る」という経験がなかったので、「かるちべ堂サポーター」を販売するときは、嫌われるんじゃないかとめちゃくちゃドキドキしました。
まだお店がないのに「応援するよ」といって、お金を払っていただいたときには、本当に感激しました。こっちも本気です。相手も本気です。お金を頂いちゃったら、もう、引くに引けなくなります。
結果として、多くの方にサポーターになっていただき、本当に、出来過ぎくらいの結果になっていると思います。とはいえ、これが "とんとんビジネス" になるのはまだこれからです。
自分で作ったものを自分で営業して売る、という経験がとても大事だと肌で感じました。
ポイント③ : 小さく始める
プロダクト開発では「MVP」とか「リーン」みたいな考え方が重要です。私の場合、サポーター制度という基盤が一定あったからこそ、以下のような段階的なアプローチが可能でした。
まずは最小限の品揃え
1日3時間、週4日営業
最小限の設備投資
リアル商売は初なので、仕入れもしたことありません。最初は全然わからなかったので、問屋さんに相談して売れ筋を並べました。その後すぐに気がつきましたが、毎日来る子供にとっては「変化」こそが最高のコンテンツになります。「また新しいお菓子入ってるじゃん!」という嬉しい声を聞いて、少しずつ商品を増やしています。今では150SKUくらい取り扱ってると思います。初期の頃は、毎日のように仕入れに行っていました。1日にいくつ売れるかも読めなかったですし。
長い時間お店を開ける必要はありません。子供の放課後に空いていればよいだけですから。基本は15:00-18:00です。とはいえ、実はときどき営業日時を変えたり、不定期で週末も開けていたりします。そういう変化を入れることで、客層の違いや、生まれる効果を検証しています。特に、最初は突如住宅街に現れた怪しい店(なんか変に広いし)ですから、信用がありません。休日に開けることで、親子連れがきますから、そこでお話しして仲良くなって、平日に子供だけできていいよ、という信用をもらいます。イベントもときどきやっています。ちょうど、今週末にもお絵描きイベントを開催します〜!
内装、最初は、畳の小上がり空間が作りたかったし、まだ諦めてはいないのですが、冒頭の「やらないこと」で(今は)諦めました。見積だけしたら、めっちゃお金かかるし。まずは、簡易なマットと、自作の棚で、いかにも手作りなお店になっています。子供達からは「畳いらなくない?こっちの方がいいじゃん」と言われます。えてしてそういうもんです。ちなみに「小さく始める」て言ったって、「最初から物件を借りるのは全然小さくなくない?」というツッコミも入るのは覚悟していますし、自分でもそう思うときもあるのですが、冒頭のWHYに照らすと、溜まれる空間がないとMVPにならないのです。ただ小さい駄菓子屋が作ればいいというものではない。
必要最小限に小さく作って、ユーザの声を受けながら、少しずつ変えていく。それでいいんです。
現在の状況
8月1日にオープンしてから4ヶ月が経ちました。少しずつ地域の認知も増えてきて、オープンしてよかったなぁと日々感じています。
サポーター数90名超(あと少しで100名・・・!)
子供DAU 25名 程度(同じ子が何回も買うので、会計数は80回とか)
月間の累計DAU400名以上(MAUはちょっとわかんない)
地域コミュニティとの関わり(夏祭りやハロウィンなどいろんな季節イベントで関わらせてもらいました)
WHYから始めて、まず仲間をつくり、小さく始めたからこそ、こうやって4ヶ月続けて来れたのだと思います。みなさんにはこの場を借りて感謝をお伝えしたいです。
さいごに
現時点では、初期投資含め、そこそこ持ち出ししてます。お店のゴールの「とんとん」はまだはるか彼方です。でも、この道の先のどこかには必ずありそうな雰囲気があります。
プロダクトマネージャが単純にお金を稼ごうと思ったら、プロダクトマネージャーとしてお仕事をいただいた方が早いのかもしれません。私のお店の純粋な商品販売からなる月間利益を、1日で稼ぐでしょう。お金が欲しい場合は、まず駄菓子屋はおすすめしません。でも、この1年、それ以上の経験と社会関係資本を得られている実感があります。身銭を切ったからこそ、ということなのかもしれません。
駄菓子屋というビジネスは、とくに私のビジネスは、吹けば飛ぶような脆いビジネスです。一方で、小さなお店なので、企業活動として行うコストとしては、たいしたことがないとも言えます。堅牢でないが故、失敗も、変化も、し放題です。これはいわゆる「反脆弱性が高い」ということなんだと勝手に理解しています。
2024年ももうすぐ終わりますが、2年目も、飽きられないよう、いろんな取り組みにチャレンジし、有言実行していきたいと思います。
最後に、この取り組みが面白いね!と思った方は、ぜひシェアしてもらったり、ぜひぜひお店に遊びにきてください!また、ぜひぜひぜひよかったら「仲間」になってもらえたら、ものすごく嬉しいです。
明日は Fumikazu Washizu さんです!