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一方通行じゃなかったら


『人は、人によってしか幸せになれない』
昔どこかで聞いた言葉を思い出す。


事実そうかもしれない。
今日も世界はカップルで溢れている。
彼、彼女らを横目でみながら
その幸せが分からない私がいる。

そもそも、私はふだんから異性に興味がないし
恋愛体質とはかけ離れた人間だ。
気になる人などめったに現れない。


それが関係しているのか、
今までまともに好意を抱いてきたのは
雲の上の人ばかりだった。



最初はアイドルだった。

中学生のころ、テレビに映る彼に一目惚れした。
それから10年も「好き」は続くことになる。

端正な顔立ちも、甘い歌声も
愛情深いところも、すべてが好き。
私にとっては彼が、唯一で絶対的な存在だった。
彼さえいれば良いというほどに。

でも付き合いたいだの、恋愛感情はなくて
せいぜい、こんなお兄さんがいたらな…
くらいの願望があるだけだった。
あくまで、自慢の「推し」。

それでも、ふと感じたことがある。
アイドルに対しての感情は、ある意味
「恋」なんじゃないかと。
あのときめきや、溢れてくる想い、
なぜか彼女がいたら嫌だと思ってしまうところ…
恋に似ている気がする。

彼のいる生活は幸せだったと思う。
それでも、だんだんと熱は冷めていき、
好きな気持ちは面白いほどに消えてしまった。
今ではもう過去の人でしかない。







2人目は先生だった。

唯一の、身近にいた人。
冷たいし変わっていたけれど、本当は良い人だった。

いつからか、私は先生のことを好きになっていた。
普通はこれを「恋」と呼ぶのだろう。
でも、全く付き合いたいとは思わないし
特別な存在になりたいとも思えない。
少し仲良くなりたいくらい。

だからずっと確信は持てなかった。
これが、恋愛感情なのかどうか。
そんなモヤモヤを抱えながら、3年間が過ぎていった。


その先生とは文字通り、何もなかった。
他愛ない会話を交わすことさえも。

最後の日に、手紙を先生のデスクに置いて帰った。
それを直接渡すのは気が引けたからだ。
近くにいたはずなのに、とても遠い人だった。
それからは、もう会っていない。

あれから何年も経っているのに、
たまに思い出して、胸がキリキリすることがある。
でもこれは今も好きだからではなく、執着だろう。
あの3年間は一応、「恋だった」ということにしている。



3人目もまた、アイドルだった。

彼はめずらしく私と歳が近い。
そして現在進行形で続いている。

「あ、好き…」
彼は、久しぶりにそんな単純な気持ちにさせてくれた。
もう推しができることはないと思っていたのに。

日々アップされるコンテンツを見て、歌を聴いて、
グッズをたくさん買って。
世界が彼でいっぱいになっていく。
バカみたいになっていると自覚しながら、
でもこれも悪くないと思う私がいた。

彼はこの歳とは思えないほど、大人だ。
儚そうに見えるけれど、どこまでも強く優しい。
そんな彼への感情は、今までで一番落ちついている。
感情が暴走することなく、おだやかでいられる。
まさに彼自身のように。


しかしこの頃、違和感に気づきはじめた。
「なんだかバカバカしい」と。
もちろん彼自身へではない。
私がこうして彼を想っていること
に対してらしい。

彼とはしばらく会えなくなる。
皮肉にもこのタイミングだ。
その間にまた、冷めてしまうかもしれない。
悲しいけれど永遠などないと知っている。



バカみたいに「好き」を拗らせて
「好き」がバカバカしくなっていた。

きっと、今まで好意を向けたのが、
手の届かない人ばかりだからだろう。
完全に「一方通行」だった。
けれど、どれも愛すべき人たちだったとは思う。

もしかしたら。
本当は、その「一方通行」が辛かったのかもしれない。
少しは私に対して、何かしら思ってほしかった。
特別なものが欲しかった。


「もしもそれが叶ってたら、バカバカしくならなかった?」
そう自分に問いかける。





私は他人と恋愛関係になることより、
「誰かに想われ、愛され」たいのだと思う。


近くにそんな誰かがいたら。
私はその人を好きになって、対等な関係になれるだろうか。

そしたら私は、素晴らしいと思えるだろうか。
誰かを好きになることを。



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