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労働者の健診に、歯科健診は加わるのか?

9月20日開催の「労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会 第7回」を傍聴しました。


前回までの「女性の健康」についての議論が一段落ということで、

今回から「健診項目」についての議論がはじまりました。下記の引用が、今後議論される健診項目の内容となり、本日は、新規項目としての「歯科健診」について。

資料1「労働者の健康確保に必要な健診項目について」


⚫︎歯科健診は一般健康診断の要件にあてはまるのか? 

結論から言うと、歯科健診の追加は「ほぼない」かと(あくまで私見です…)。

はじめに、事務局から「労働者の健康確保に必要な健診項目について」(資料1)「労働安全衛生における歯科口腔保健対策」(資料2)についての説明、次に日本歯科医師会の山本参考人から「山本参考人提出資料(一般健康診断に 『歯科』を盛り込む必要性)」(資料3)について発表がありました。

以降は、主に構成員から山本参考人への質問というかたちになりました。
多くの質問の元となるのは、歯科健診は一般健康診断の要件にあてはまるのか? です。
下記画像が要件となりますが、構成員全員誰もが、公衆衛生上、口腔管理の重要性は認めるものの、歯科健診は「一般健康診断」としての要件にはあてはまらないのでは、というニュアンスの意見がほとんどでした(繰り返しになりますが、構成員全員、口腔の重要性を前置きしてからの発言)。

「健診項目を検討する際の要件、着眼点」↓↓↓

「労働者の健康確保に必要な健診項目について」(資料1)


歯科の疾患が「業務起因・業務増悪」となるのか
「歯の喪失と転倒」や「VDT作業と顎関節症」などの関係がデータで示されましたが、労働者だけのものではない、反対に高齢者対象のものではといった指摘がありました。

歯科健診後、事後措置をどう考えるか
健診後、精密検査という段階はなく、事後措置は歯科への受診勧奨を考えている、実際に歯科疾患からの事後措置として就業制限は今までないと思うという回答がされました。
また、歯科健診の有所見者が8割程度と対象人数も多いということから、健診→事後措置ではなく、ブラッシングなどの職場での健康教育がよいのではという構成員の意見も出ていました。

健診の運用、精度管理はできるのか
山本参考人からは、本来の歯周疾患健診では一人20分程度かかるため、現実的には「質問項目と簡易な検査」を考えている。
簡易な検査では、さまざまなメーカーが開発中で精度もさまざま。日本歯科医師会として推薦しているものは今の段階はない。
質問項目は「歯周病検診マニュアル2023 」の16項目を考えている(女性の健康づくりでは追加は2項目程度になりそう)。項目を少なくするなら、口の中の状況と歯磨きなどの日頃の生活習慣に関する項目になるかと思う。
と回答されていました。

「山本参考人提出資料(一般健康診断に 『歯科』を盛り込む必要性)」(資料3)


⚫︎必要な人に「早い段階で予防的に歯科にかかってほしい」

歯科側としては、歯周疾患は自覚症状がなく進行すること、口の健康が全身に影響するため、他の疾患との関係性も深く、早い段階で予防的に歯科にかかってほしいが、なかなか受診につながらない現状から、一般健康診断と言う強制力のある健診で、という思いがあるのではと感じました。
実際、職場で歯科健診を取り入れた先進事例などでは、医療費はいったん高くなるも下がるなどの効果も出ているようです。

⚫︎住民対象の歯科疾患検診

今年度から(令和6年度)から、健康増進法による市町村が実施する「歯周疾患検診(努力義務)」の対象に、20歳、30歳が加わったそうです(以前は40歳、50歳、60歳、70歳)。こうした点から、住民のなかでも、労働者(勤務者)がよりリスクが高いというエビデンスはあるのかという質問、そして、法律は違うがこちらの受診率が低いことに、公衆衛生上、非常に健康課題を感じるとの発言がある構成員からありました。
成人全体の受診率を高めるには、地域に密着した歯科医師会ということもあり、まずは住民向けの歯周疾患検診の受診率を高めること、低い場合はなぜ低いのかという課題を解決することが、少し遠回りでも確実なのかもと個人的には感じました。

⚫︎労働安全衛生・産業保健の歯科

事務局の資料から、労働安全衛生・産業保健の歯科の関わりを学ぶことができました。特殊健診、リスクアセスメント対象物健診における役割、ストレスチェックの実施者に「必要な研修を修了した歯科医師」もはいっているのも知らなかったです(←不勉強、汗)
上記のような最近の法改正からも、労働安全衛生・産業保健における歯科の役割は「これから、より」の段階なのかもと感じました。「これから、より」を進めていくには、歯科健診の実施を推進する以外にも、協力企業を募りコラボして、職場での「歯科事業」を実施し、納得のいくエビデンスをつくっていくことも戦略としては必要なのかもしれません。

⚫︎公衆衛生としての歯科

今回の一般健康診断には加わらなくても(まだ分かりませんが…)、公衆衛生上の口腔管理の重要性は誰もが認めるものであり、健康づくり・予防的な視点からは、政策的にも進んでいると感じます。
骨太の方針では、国民皆歯科健診制度の検討も記述されていますし、前述した歯科疾患検診では切れ目のない口腔ケアのために成人の対象年齢が増えました。医療保険者では加算減算の評価指標に「歯科健診・受診勧奨」「歯科保健指導」項目が入っています。地域包括ケアシステムにおいても、歯科の役割の重要性が増していると感じています。
公衆衛生上も、歯科の役割は「これから、より」かもしれませんね。

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