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激変するSNS時代のプロモーションにとって、本当に大切なこと

SNSで活躍するイラストレーター、漫画家のマネジメントやキャスティングを行う企業wwwaap(以下、ワープ)と、インフルエンサーをクリエイターと位置付け、新たなマーケティングのプランニングを行う餅屋。SNSに特化したクリエイティブやプロモーション企画に挑む両社は、広告が嫌われやすい時代に何を思い、どんな未来を描いているのでしょうか。

今回はワープのCOOである高橋 伸幸さんと、餅屋のプランナーであるふくまに対談してもらい、これからのSNSプロモーションとクリエイターの関係値について語ってもらいました。二人の対談から見えてきたのは、クリエイターの個性や持ち味を徹底的に大切にしたクリエイティブと、中身の伴った嘘のないプロモーションにこそ価値があるということでした。

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(左)ふくままさひろ:テテマーチ株式会社 コミュニケーションデザイン室 室長。企業のSNSコミュニケーションの企画提案、及び自社のマーケティング企画等を兼務。アドテック東京2019・2020公式スピーカー。
(右)高橋 伸幸:株式会社wwwaap(ワープ)代表取締役COO。株式会社セプテーニにて大手クライアントを中心とした営業マネージャーの経験を経たあとに、VASILY→株式会社DeNA→横浜DeNAベイスターズを経て、
2018年に株式会社wwwaapに入社、COOとしてマーケティング事業の統括と会社経営を兼務。

変わりゆく価値観に寄り添った広告を

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ーー ここ数年で生活者の価値観は一気に多様化が進みました。その結果、PRコンテンツもこれまでと同じアプローチでは受け入れられない時代となっています。餅屋とワープは、この時代のコンテンツづくりにどのように向き合っていますか?

ふくま:まず世の中のトレンドをきちんと追うことを意識しています。今は良しとされているものも、ちょっと先の未来では受け入れられないかもしれない。たとえばジェンダー論などは、ここ1、2年でぐっと捉え方が変わってきましたよね。お笑いタレントの容姿自虐系のネタも、全然ウケない。そういうネタってもう誰も笑っていないし、僕もまったく笑えない。なんかきついな、と感じてしまいます。こうした時代の変化をキャッチして、世の中に受け入れられるかどうかのフィルターをかけるのが、僕らの仕事だと思っています。

髙橋:僕も同じ意見です。数年前と比べると、ユーザーの価値観や主義、思想が多様化してきているんですよね。たとえばこの5年だけで見ても、 #metoo、LGBTQ、SDGsなど、新たに世の中に認知された概念が極端に増えています。時代に則していないコンテンツやブランドは弾かれる社会なので、その変化の匂いをちゃんと嗅ぎ分けられる人が企画の最終列にいるべきですよね。

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ーー PR案件も、やはり時代に沿った企画をやりたいクライアントが増えていますか? それとも、まだまだリーチ数やインプレッション数が取れれば良い、という主張が多いですか?

髙橋:僕は広告業界に携わって10年くらいになりますが、正直クライアントの考え方は旧来のままのところが多くて、そんなに変わっていない気がします。クリエイターや、そのそばにいる人たちの価値観はアップデートされていくけど、上流はまだまだ変わっていない。大型の予算を動かしている広告主とかはその傾向が強い気がします。

そうした企業が「変わる必要がない」と感じているのは、インプレッション数、リーチ数はなんだかんだでプロモーションの成否を分ける大事な指標であることと、そして、プランニングが楽だからだと思うんですよ。クリエイター一人ひとりのことを考えるのって確かに難しいし、手間がかかるんですよね。極力その手間を排除したいと思うのは当然かな、と。

ふくま:餅屋は代理店経由ではなく、事業会社と直接やりとりする案件も多いですけど、事業会社も、オリエンの段階で時代意識を持っている企業はまだまだ少ない気がします。「時代に沿った提案をください」ってオーダーもたまにあるけれど、実施には至らないケースが多い。それはたぶん、本気度や覚悟が足りないんじゃないかな、と。「とりあえず声に出しておけばいいでしょ」と思っている企業が多いから、アクションにつながらないんじゃないかと思います。

数字を求めるだけならマジョリティをターゲットにしてしまう

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ーー 時代が変化してもクライアントの考えは大きく変わっていない、というのは大きな問題のようにも思えます。逆に、優れていたと感じたプロモーションなどはありましたか?

髙橋:少し前から展開している、とあるヘアケアブランドの「個人の髪の毛の自由を尊重するキャンペーン」が、国内における先進的PRの先駆けだと思っています。あれをSNSプロモーションを手掛けている企業が見て、「自分たちも、メッセージを発信しなくては!」ってムードに変化していったと思うんですよ。でも、簡単にはできないし、賛否両論ありそうなテーマだから、計画が頓挫していく。

ふくま:やっぱり炎上が怖いんですよね。既存の価値観に対して啓蒙していくことって、賛否を生むことも避けられないですから。

髙橋:結局、みんなマスを狙いたいんですよ。本来ならマイノリティも包括した施策が時代に求められているじゃないですか。でも、より多くの人にモノを売りたい企業からしたら「ターゲットを絞ってしまったら、取りたい層を取りこぼしてしまうのではないか?」ってなっちゃう。マスウケするクリエイティブのほうが社内決裁が通りやすいし、意思決定もしやすいのかなって思いますね。

ふくま:僕としては、該当のキャンペーンはマイノリティを狙っているというより、社会全体に対して投げかけをしていると思っています。世の中には「どんな髪色、髪型でもいいじゃん」と思っている人がいっぱいる。けれど、声に出せない人がいて、そこに賛否が生まれるからこそ広がったプロジェクトではないかなと。

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ただ、本音と建前ってあるじゃないですか。たとえば「髪の毛は自由でいい」って広告を謳っている企業の社内で「クライアントが銀行だった場合は髪の毛を黒にしてね」って声があるとしたら、もう実態が伴っていないんですよ。一度オピニオンを出すと、こうした例外が効かなくなることが怖いのかなって。

髙橋:透明性が高くなっている時代だから表面的なメッセージだと意味がないし、自分たちができていないとブーメランになって返ってきちゃう。綺麗ごとだけじゃ通用しない時代だから、中身とセットで言行一致させながらやらなきゃいけない。そこには相当な覚悟と熱量が必要になってくるんですよね。

ふくま:中身が伴っているべきって意味では、インフルエンサーマーケティングも同じですよね。商品を普段から使っているわけでもないのに、「これ、いいよ!」ってポストしても伝わらないのと同じなんだと思います。

一緒に仕事をしたいクリエイターのファンになる

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ーー クリエイターとクライアントのかけ橋となる二社ですが、クリエイターのモチベーションをあげる工夫はどうしていますか?

髙橋:クリエイターに仕事を依頼するときは、まずその人のファンになるようにしています。ネットにある情報はもちろん調べますし、共通の知り合いがいればその知り合いから話も聞きます。できる限り調べて、そのクリエイターを好きになったうえで、その人のクリエイティブに合ったプロダクトや企画をあてて、ズレが極力ないようにしています。

先日は、ワープが企画した家電プロダクトのPR投稿がすごい反響だったんですよね。その企画も、クリエイターがもともとそのブランドが好きだったことが発端です。普段からものすごいマニアックな情報を発信していたから、これでPRをやったらウケるんじゃないかと思って、企業さんに提案にいきました。

あと、クリエイターに対してアンケートも取っています。みんなの嗜好がそこで分かるし、許可を得たうえで資料に落とし込んでクライアントに提案することもあります。クリエイターのことを知ろうとする執着については「自分たちって変態だよね」って言いながらやっているんですけど(笑)、でもそういう細かな積み重ねが、僕らの武器になっている気がします。

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ふくま:おっしゃるとおりで、「なんとなくテイストが合っていたからお願いする」のではなく、「あなただからこそやりたい」ってクリエイターにきちんと説明してあげることが大切ですよね。ロッテさんの「クーリッシュ」を擬人化する企画をやったときも、まさにそうでした。

イラストレーターのあずきみみこさんにお願いしたのですが、彼女はゆるくて愛らしい雰囲気のイラストが得意です。それこそクーリッシュにハマりそうだなと思ってオファーしました。あの企画も、普段からあずきさんのコンテンツを見ているからこそ実現できるし、彼女にしかできないクリエイティブだからこそ強いんだと思います。

――クリエイターのことを徹底的に知ろうとする、というのが大切なんですね。

ふくま:それと、僕、クリエイターさんを褒めまくるんですよね。もちろん本当にいいと思っていることが大前提で、ちゃんと褒める。クリエイターさんもやっぱり喜んでくれるし、そういうコミュニケーションを重ねると、ちょっと無理をお願いするときも快く応えてくれるんです。普段のやりとりを雑にしていたら断られているだろうなっていうものを、頑張ろうとしてくれる。

髙橋:クリエイターとの関係はお金じゃなくて熱量と信頼で繋ぐのでしょうね。だからこそ、自分たち主導でクリエイターに面白いと感じてもらえる企画を立てていかなきゃいけないですし。

自社コンテンツの魅力と、二社が考える未来像

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ーー ワープさんはとくにPR対象がなくても、面白い企画が浮かべばクリエイターさんと組んで自社コンテンツとして発信していますよね。PRじゃない自社コンテンツの面白さや魅力はどこにあると思いますか?

髙橋:弊社のミッションが『つくりたい人の未来を創る。』なんですよね。クリエイターと一緒にキャラクターやコンテンツ、IPをつくっていくことって、彼ら彼女らの可能性を拡張している感覚があるんですよ。クリエイターのマネタイズとマーケティングの可能性がかけ合わさって倍になっていくイメージです。それをどんどん増やしていくことで『つくりたい人の未来を創る。』を実現していけるんじゃないかな、と。

それと、IPはクリエイターの分身になります。クリエイターの中には、本人のアカウントだけじゃなく、自分がつくったキャラクターのアカウントを持って発信していたりする。そういう点でもマネタイズやマーケの可能性があると思っているので、IPのトライは増やしていきたいです。

ふくま:餅屋も、忙殺されていますけど、いつかはIPやりたいですね。単純に、楽しいと思うんです。消費するより生産する面白さがあるし、それが受け入れられて、人が集まってお金にもなる。楽しいことができて商売にもなるのって、理想的だと思うんです。

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ーーワープさんも餅屋も、出版業界でいうところの「編集部」に近い役割を担っていると思います。ただ、これまでの編集部と違うのは、ビジネスモデルとしてはPR商材ありきで、SNS分野でのプロモーションやマーケティングスキルも強く求められる点にあるのかなと。次世代型の編集部とも取れると思いますが、自分たちのことをどのように思っていますか?

ふくま:自分たちが次世代かどうかは分からないですけど、僕らはまず、「ものを売る」とか「広げる」といった広告代理店のような機能からスタートして、そこから派生してIPビジネスに進んでいる感じなので、旧来の編集部とは入り口が真逆な気がしますね。

ただ、これらの役割も混ざってきているような気もします。2020年10月に開催されたアドテック東京というイベントで、博報堂ケトル編集長の嶋さん、VERY編集長の今尾さん、BRUTUS編集長の西田さんが話していたんですけど、編集部はある意味、クリエイティブ・ブティックなんですよね。つくったものを広げるために時代のトレンドを捉えるから、マーケティングスキルも当然身に着けていくわけで、BRUTUS編集部では、表ではもちろん雑誌をつくっているけど、裏ではマーケティング、コンサル、PR的なことをどんどんやってるらしいんですよね。

結局、ものを広げることを考えつづけた結果、自分たちがやっているところにたどり着くんだと思います。両方の垣根がよりなくなってきているなとは感じますね。

髙橋:僕は、編集部の方々と自分たちは、アウトプット先が自社のメディアか、そうじゃないかの違いだけかなと感じています。編集部の方々のコンテンツのつくり方を本当にリスペクトしているんです。それに対して、僕らはアウトプット先が自由なのかなと。シンプルにその違いだけ。クリエイティブやプロモーションへの熱量はみんな変わらないと思います。

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クリエイターと信頼関係を築き、彼ら彼女らの個性を思いきり活かしたクリエイティブをするからこそ、面白くて正直なものが生まれる。それがクライアントやユーザーに響いて、どんどん広がっていく。透明性が求められるSNS時代だからこそ、嘘のないプロモーションの重要性を感じます。

ユニークなPRをしたいと考えている企業の皆さま、誰にもマネできないクリエイティブを活かして面白いことをやりたいクリエイターの皆さま、ぜひ、餅屋とワープに声をかけてください!

文:榧野 文香
編集:カツセマサヒコ


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