見出し画像

貝に続く場所にて/石沢麻依

きっと痛みや苦しみを乗り越えるのには、完璧な計画よりも大きな物語が必要なのに、自分で感じた痛みや苦しみが、遠い物語的な記憶に変容していってしまうことはなかなか受け入れられない🍃
そして変容と同時に、忘却が始まってしまう。

ドイツのゲッティンゲンの森を舞台に、行方不明の友人と再会した主人公を始めとする人物たちが、過去と罪悪感を引き摺りながらも寄り添い合う🍃

傷を負った場所とそうでない場所、その上にいくら修復を重ねて一見見えなくなっても、修復された部分の下で隔たりは続いている。
痛ましい過去、物への眼差しと繋がり、忘れてしまうことへの恐怖…彼らの隙間を黒い犬が優しく縫っていく。
あの日、海も大地も揺るがした大地震は地球をも貫いていて、遠く離れた異国の森の土から時間と距離を超えて噴出する誰かの生活の一部分に思いを馳せないわけにはいかなかった🐚

中盤から、主人公の目線を通してようやく一気に物語が拓けていく感覚を得ることができたのは、私が時も何も超えていない、ただのリアルを抱えて生きている人間だからに他ならない🍃

重厚感があり考えさせられるストーリーだけれど、時も距離も超えて物語を消失点に落とし込んでいく様が実に気持ちよかった🐚🕰

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?