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【企画参加/シロクマ文芸部】 ×【マイソングス】 : 炉端にブラック
三月になったので山歩きに出かけた。未だ春浅い小さな山は、日が落ちるとまだ温かい火が恋しくなる。
快い疲労感に気づいた頃、ぽっと揺らぐ灯りが見えた。
ちと寄るか。
格子の引戸を開けるとスモーキーな香りにはっとした。ジョン・リー・フッカーそっくりの親父がねじり鉢巻でパイプを咥え、カウンターの中にいた。
遠くから、『Rock with me 』がフェイドインで聴こえて来て頭の中を渦巻いてゆく。
山小屋風の小さな店は、紫の煙に包まれてブルージーな雰囲気が漂っている。
カウンターの前には座敷風に座れるようになっていて、炉端が囲める。ゆっくり座らせてもらおうと炉端へ近づいた。先客がいる。
そこでまたはっとした。正面にキャスケット帽を斜めに被ってくつろぐ客。これが最も似合う男と言えば、ダニー・ハサウェイ! その脇に、後髪だけはいつまでも伸ばすピーボ・ブライソン! いつも通りお気に入りの立ち位置の右側に。
な、なんと。
するとどこからか聴こえてくるあの歌声。
♪ キリング・ミー・ソフトリー ...
ロバータ・フラック。
...いや、炉端に(2)ブラック。
どちらも彼女とのデュエットアルバムが素晴らしかった。
お願いだ、殺さないでくれ。
『やさしく歌って』だ。
ジョン・リー・フッカーが ♪ブンブンブンブンと鼻で歌いながら、レコードを変えた。
「彼女は下町の出身でね、オレの知り合いがやってるGingerっていうカフェ・レコード屋がある清澄白河に近い生まれだ。いい声だねぇ。」
そのカフェなら知ってる。オーナーもかなり音楽に詳しい。たまに音楽好きを集めてイベントもするらしい。
するとキャスケットが言う。
「彼女の妹も歌が上手かった。だけど俺の推しはこの二人組だなぁ。元々はフォークよりのグループだけど、あんまり二人の息が合いすぎて果ては一緒になっちまった。てんとう虫の歌だけじゃなくてライブじゃカバーも歌うらしい。なかなかの高音だ。」
ジョン・リー・フッカーも言う。
「えっちゃんだろ? フォークの時はちと湿っぽかったけどな、二人になってからはサンバなんか歌って明るくなったよ。よっぽどハッピーだったんだろ。」
キャスケットも感慨深そうに頷く。
「そう、サイコーに似合う歌い手とのデュエットはハッピーなのさ。俺なんか2枚も出したもんな。」
「コレなんかどうだ? 意外とアクがなくサラッとしてんだ。『たそがれマイ・ラブ』に比べるとだいぶ肩の力が抜けてる。」
と言いながらジョン・リー・フッカーは
レコードを変えた。
「ん〜、そうだね〜。おネエさまっぽい感じだね〜。
じゃあ、コレなんかどう? おネエさまのおネエさまだ。この人こんな曲歌ってたんだ、ってびっくりしたけどねぇ。しかも歌詞が違うんだよ。」
「よっ、シブいね。オトナの魅力かーっ。
だけどオレはコレが一番のお気に入り。」
と言いながらジョン・リー・フッカーが出して来たレコードは。
「いやん♥シンシア。
このキレイな髪と小麦色の肌。こんなふうに歌われちゃったら、キャワゆすぎてもう殺されてもイイー!」
「え゛。そうなの?
わかんないもんだな〜。ギャップだな〜。
じゃあ、コレはどうかな。'80sの学園祭の女王。なんか今更のロックアレンジ!?」
と長い後ろ髪を引かれるように聴き入っている。
「ん〜。じゃ、最後にコレ聴いてみて。」
と言いながら、ジョン・リー・フッカーがレコードを変えた。
「えっ。」
「え゛。」
なんか、声違うんじゃない!?
「だよね、だよね、違うよね、声が。
或いは、オジサマ受けするようわざとため息系になってんのかも。」
ひょーーーっ。
...とまだまだ炉端会議は続きそうだ。
しかしこんなにもたくさんの日本語カバーがあるとは驚きだ。
それに、天国へ旅立ったばかりのロバータ・フラックも炉端にブラックで、炉端冥利に尽きるだろう。
今夜は彼女への追悼の意を表したい。
そろそろ酔いが回ってきたのかもしれない。
この辺でお暇するか。
すんません、ジョン・リー・フッカー、
お愛想。
『恋は何処へ』
ロバータ・フラック&ダニー・ハサウェイ
『愛のセレブレーション』
ロバータ・フラック&ピーボ・ブライソン
一応、今回こちらの企画に参加しております。
あはん♥
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