【企画参加】 紙の里にて〜#秋ピリカ応募
今日はこちらの企画に参加します。
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木場にある材木問屋の跡取りである徳次は、本業程々、趣味は手広くを信条としていた。いわゆる「人生のをかしみ」というやつである。
秋も深まり始めた十月初め、代々からある秩父の持ち山を見に自ら足を運ぶ機会が訪れた。
この辺り、杉、桧、椹(サワラ)、欅(ケヤキ)などの良質な木が多く評判も高い。靖国神社の鳥居にも使われるらしく、日本人の木に対する気の入れ様はどこか神がかっている。
仕事で秩父へ行った帰り八高線に乗り汽車でぐるりと廻りながら小川町の紙を買いに行くのが愉しみの一つでもあった。
帳場で使う出納帳等必要な紙は大抵ここで手に入れた。そしてついでに自分用にとあれやこれや買いためるのが徳次の常であった。書や水墨画を描くにはここのものが一番気に入っている。
紙の里小川町は埼玉県の北西に位置し、水がきれいなことから千三百年以上の紙漉きの歴史を持つ。細川紙と呼ばれるのは、どうやら和歌山紀州細川村からの職人が伝えたかららしい。
江戸時代には川越や江戸の商人、浮世絵を楽しむ町民の紙の消費増加からこの丈夫な紙は重宝され需要も高まった。
今では福井の越前和紙、岐阜の美濃和紙等と並び無形文化遺産になっている。
原料に楮(こうぞ)を使い伝統的技法で作られた細川紙は、白く透き通るように美しい。ゆっくりと手に触れて入念に観察すると強いのに柔らかみがある。
徳次は脳裏に文香の躰を思い出している。この独特の肌触り、撫でてその大きな掌に吸い付くように動き出す様は、男の熱を感じてふつふつと上気し遂に真っ赤に熟す実であった。
思わずその触っていた指を口で銜え舌で弄びながら、今日はどれを貰って行こうか迷い始めると同時に、こんな所でぐずぐずもしていられぬ、早く戻って文香の肌を味わいたい。川越で途中下車して馴染みの店で武蔵野うどんでも、と思いながらもうとうに文香の香りに気もそぞろ。
慌てて包みを作らせて、滑り込んで来た汽車へ飛び乗り居ても立ってもいられぬ気持ちで柳瀬川を横目に渡る。落ち着かねばとふと目を閉じればぼんやり浮かぶ白い寝姿。
あゝ、文香。これぞ幸運をもたらす白蛇抄か。舌なめずりが止められぬ。
いそいそと片裾をつまみ上げながらいつもの待合いへ上がると、薄ら寒い畳の部屋で白蛇は待っていた。
「徳さんっ。」
「文香っ。」
暫し細い躰を抱きしめながら鼻孔の奥まで文香の香りを慾ると次第に頬は椛に染まり、己の蛇も首を上げる。
紙の如く幾重にもなる着物を力任せにおっぴろげ、首筋から鎖骨にかけて猛烈な勢いで吸い付く。舌を這わせながら手慣れた手付きで帯を解き白い太腿を割って遠慮なく入る。苦しそうに上げる艷声も痛みなどではないこと百も承知。脳天を突くように蛇はこれでもかと奥へ奥へと蠢いてゆく。これも紙で創られた雲の上に昇天を夢見ながらゆく果てを知らぬ白蛇の哀しい性なのか。
まさに愛も狂気もこれ紙一重。
(1197字)
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