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【歌謡ノベルズ】『勝手にしやがれ』B面








どうせ聞いてるんでしょ。壁に向かって寝たふりしながら。アンタなんてそんなモンよ。背中で聞いてるんでしょ。鞄に色々詰め込んでるの。
いや! そんな気配、感じないで。ホントだったらアンタの家にある物なんて丸ごと捨ててってやりたいとこだけど、そうもいかない。
あの都庁前の大っきなホテル。そこの宴会場の仕事で出会ったのはまだアタシが女子大へ行ってた頃。よく仕事が終わった後食べに連れて行ってくれた西口駅前の小さな台湾料理屋。
"中華でも本当にウマいのは台湾のだ。それに、ココの一番は手羽だな" って。
"いいヨ、ビール一本ぐらい奢ったげる、今日あのオヤジ、チップくれたから"
それがだんだん、最後の会計はアタシ持ち、誘うのもアタシから、結局この東京のハズレの安アパートに一緒に住むことに。家賃も半々だったのが会社勤めを機に全部アタシ持ち。今じゃ明方近くにしか帰って来ないアンタ。
仕事着のタキシードが一番似合ってた。他の男みたいにシツコクなかった。ちゃんとついていかないとすぐに姿が見えなくなりそうだった。水も滴るイイ男。水が滴る水商売。
洗面台に口紅だけ置いてった前の女とは上手くいかなかったかもしれないけど。
アタシなら、アタシならぁ、
あ〜〜、あ〜〜、あ〜〜...

そんな思い出ばっかりかき集めて躍起になって鞄に詰めそうになる。カン違いしないで。戻って来るとでも思ってるんでしょ。何にも言わず、寝た振りでやり過ごして、ムダにつけてるカッコは一体何のため?自分を誤魔化してるだけ?
出ていってやる!
やっとの思い、フラフラ。この鞄やけに重い。
重い、思い出。
ふっ、何言ってんだろ、アタシこんな時に。ケンちゃんに教えてやろっかな。ヤダ、こんな時にいも恋食べたくなっちゃった。川越の。出来たて、あったかいの。まだ夜更けだけど、そ言えば何にも食べてない。どうせあの家にはバーボンしかなかったし。知ってる、どうせそのバーボン抱えながらアタシのこと窓から見送ってるんでしょ。

アンタの好きだったゴダールの『勝手にしやがれ』。だけどアタシが好きだったのはそれのアメリカンリメイク『ブレスレス』。ブレイクする前のリチャード・ギアがやっててさ、めちゃくちゃセクスィーだったんだよね。それでいつもケンカになったよ。

さよならも、あばよ、もなしに。どうせ両手高く上げてふざけてるんでしょ。派手なレコードでもかけて。反省なんかしてないでしょ。またやってんでしょ、あのワンマンショー。そういうところも、そういうところも、
あ〜〜、あ〜〜、あ〜〜!
もう、好き。



◆◆◆◆◆

前回に引き続き、クジラさんのジュリー熱からまだ覚めず。



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