めしやま(飯山えりか)

夢は世界平和なんて言ってますけど、現実は厳しいです。

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短編【私だって傷つく】

梅雨どきより前に満開だった八重桜はとっくに散り、また来年と名残惜しそうに枝を揺らしている。 今年の梅雨は長い。 じめっとした湿気は耐え難く、頭痛が収まらない。 私が外出をすると、ここぞとばかりに雨が降る。 空に叫んでも虚しい。 頭が痛くたって、いつでも笑顔で歩いている。 元気に見えたらいいなと思って。 明るい声は雨の音にかき消されてしまう。 それでも私はいつも空気。 私だって凶器を向けられたら傷つく。 致命傷を負わなければ、痛みに気づいて貰うことはできないのだろうか。 帰り道

    • 20240827[自己肯定感との向き合い方]

      今日は稽古だった。 9月4日に「あさがやドラム」という劇場で演じる朗読の稽古だ。 もしこの記事を読んでくださった方は、これも何かのご縁ということで是非……絶対に来てくれよな。 配信もあるよ。 それはさておき、稽古の合間に話題に上がった自己肯定感について少し考えた。 役者は自己肯定感が低い人が多いと言われている。 それは、業界の端っこにいる私ですらひしひしと感じているし、悲しいけれど、出役を生業とする人が自死を選択したニュースを耳にするたびに脳裏にチラつくことだ。 私は、自

      • 20240822[かなしみを、心にこめて生きる]

        田中敦子さんの訃報を知りました。 アニメで初めてお声を聴いたときに感動して、私は勝手に、いつか共演することを目標にしていた役者さんのおひとりでした。 今年はキャリアの長い、ベテランの役者さんの訃報が多く、ショックを受けることが多いです。 私自身はまだ小さな存在ですが、いつかこの方のようになりたい、いつかこの方と一緒にお仕事がしたいというモチベーションを持ち、目の前の小さな目標と向き合う日々に、立ちはだかる昏い陰は大きなものです。 私は、他人よりも幼少期に身内を多く亡くした経

        • 20240808[大きなもの]

          私は比較的合理的な考えをする傾向があって、ヒトの心は簡単に動かないと思っている。 今日、少しだけ考え方が変わった。 今日、ダンスのステージを観る機会があった。 先日まで一緒のお店で働いていた人が出演するからと声を掛けてもらった。 お笑いや演劇や朗読、コンサートを観る機会はあるけれど、ダンスを見ることが無いため、どんなものか全く予想できなくて、とても楽しみだった。 100人を超える大勢の出演者たちが舞台上で輝くステージからは、とても大きなエネルギーを感じた。 ひとつひとつの曲

        短編【私だって傷つく】

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        • 【推し活免許証】
          4本

        記事

          20240728【夕焼けが】

          あまりにもキレイで鬱陶しかった。 まだ青さの残る空にピンク色が差して、まるで写真に撮られることを望んでいるかのような顔をしていた。 鮮やかで主張の強いマーブル模様があの人に似ている。 こんなふうにわざとらしくキレイなものはキライだ。 だから、そんなつもりはなかったのに思わず眺めてしまった。 思わず、手をしかくく形にしてしまった。 そして3分半。 顎の奥がずきんと痛んだ気がして作業の手が遅れた。 もう30分だけやっていこうと思ったのに。 30分も過ぎれば、この景色も無くなるとい

          20240627 アイデンティティを隠して生きること

          「ありのままの姿見せるのよ」 アナと雪の女王第一作目の公開から10年以上が経過し、世間の流れは変わった。 物事は様々に多様化し、人それぞれの属性にとらわれず、自分らしく生きることが吉とされ、許されるようになってきた昨今である。 しかし私は、すべてをさらけ出して生きることへの疑問を持つ。 確かにここ数年でカミングアウトをすることへの重みはかなり軽減されただろう。 ただ、カミングアウトをしたい人ばかりではないことに変わりはない。 内に秘めることを吉とする人、外へ持ち出すことを吉と

          20240627 アイデンティティを隠して生きること

          悪夢メモ②

          また悪夢を見た。 笑えないくらい怖い夢だった。 このままだと、大好きだった睡眠が怖くなってしまいそうだ。 ※人の身体に関する過激な表現を含みます。この先の閲覧は自己責任でお願いします。※ 私は、とある体験施設のようなところを訪ねていた。 身体を使った体験がいくつかあり、時間のある時にぼちぼち訪れているようだった。 外観は中国の立派なお城のように設計され、働いているスタッフは中国から来た運動神経抜群の雑技団員のようだった。 体験できるものの中には、過酷な修行のようなダイエット

          【推し活免許証】⑤無理と努力の違い

          翔がトイレとドリンクバーから戻ってきても、日空は背中を丸めた同じ体勢で考え込んでいた。 「推しも、無理してんのかな」 翔が座ると、日空が表情を変えて話しだした。 「へ?」 「推しもかっこいいってことは無理してるってこと?」 「そこはノットイコールでしょ。三段論法って知ってる?」 「出たそれ、ダマスの受け売りでしょ。だからぼく、翔の先輩だぞ」 ダマスとは、翔と日空の母校の数学教師のニックネームだ。 毎年高校3年生を担当して、一番最初の授業で三段論法の話しかしないことで有名な名物

          【推し活免許証】⑤無理と努力の違い

          悪夢メモ

          家から少し離れたショッピングモールが火事になる夢。 最初は離れたところから見ていたが「もしあそこに私がいたら……」と考えているうちに、気づいたら当事者になっていた。 最初異変に気づくがすぐ火元に遭遇。 窓から飛び降りて滑空している間に目が覚めた。 次々に恐怖が変わっていく展開が怖い。 しかもだんだん自分に迫っている感じがして怖い。 ショッピングモールがファンタジー構造になっていたのが印象的。 ラピュタみたいに浮いてたし、柱がでかい木の幹をあしらったもので、幹の隙間からエアコ

          【推し活免許証】④かっこよさの根拠

          飲み干したアイスコーヒーの氷を食べながら、翔はふと体勢を整えて、日空に気になっていたことを聞いた。 「推し活ばっかりしてて、大学は大丈夫なの? 俺は今日、あんたに履修の方法について聞こうと思ってたんだけど」 「ママみたいなこと言わないでよ」 あの人自分のことは棚に上げて ぼくの行動に目ざとくケチつけてくるんだから、と小さく文句を垂れながら、日空はノートパソコンを取り出して履修の組み方を説明した。 「大学は大丈夫かということへの回答だけど、とりあえず進級はできてるよ。ぼく、翔の

          【推し活免許証】④かっこよさの根拠

          【推し活免許証】③翔の免許

          日空は翔に、「興味あることとか何か無いの?」と訪ねた。 翔は眉間にシワを寄せて、長考する。 「それを今まで制限されてきたからなぁ……」 「だよねーわかる。でも最高だよ!『好き』のある世界って」 嬉しそうに話す日空に、翔は素朴な疑問を投げかける。 「日空は免許を取ってからたったの一年くらいなのに、どうしてそんなに推し? について熱量高く語れるの」 「それは、好きだからに決まってんじゃん! 好きになることに歴は関係ないのさ!」 「そういうもんかねぇ……」 「そういうもん!」 自慢

          【推し活免許証】③翔の免許

          【推し活免許証】②アイドルオタク、日空

          翔と日空は、近所のファミレスでドリンクバーと軽食をつまんでいた。 翔はいつもドリンクバーと冷製コーンスープを注文しては後悔する。 スープの量が意外と多いからだ。 日空はあきれた目線を翔に向けながら話しだした。 「翔も成人したなら、これでようやく免許を取れるね!」 「そっか、でも何の免許取ればいいんだろう……」 「そんなのこれ一択でしょ」 日空が財布から免許証を取り出した。 そこに書いてあったのは『推し活免許証』。 「これで一緒に"対プラ板"のライブ行こう!」 「なにそれ」 「

          【推し活免許証】②アイドルオタク、日空

          【推し活免許証】①配送料取るよ

          翔は18歳になった。 成人か、想像したより味気ないなと少し息を吐き、スニーカーを履いた。 母が後ろで「日空くんに会うなら、やえちゃんにこれ渡しといて」と言って、紙袋の音をゴソゴソと鳴らしている。 日空は翔のおさななじみ、やえちゃんとは、日空の母である。 二人の母は仲が良く、趣味が合うためよく一緒に出かけている。 「なにこれ」 「『あおスプ』の」 「あ、いつものオタグッズか」 「何よその言い方〜いいでしょ〜。無免許なわけでも無いんだから」 「別に……どうでも……」 いい。 と言

          【推し活免許証】①配送料取るよ

          20240408 目的が分からないと言われて

          昨年2023年のM-1グランプリの3回戦の全ネタ動画は当時YouTubeにUPされていた。 総勢256組分をすべてを見ることは不可能だったが、気になっていた組のネタをたくさん見ることができた。 その中で、今でも印象に残っている言葉がある。 「こんな『お笑い』をやっている人間が読書が嫌いなわけがない」という言葉だ。 ワタナベエンターテインメントの“らくちんぺくちん”というコンビの、ボケのいしむらさんがネタ中に言っていた台詞だ。 何ネタか見た中で異様に印象に残っていて、配信が終わ

          20240408 目的が分からないと言われて

          20240402人知れず傷つく

          「友人だと思ってたのは自分だけ」と気づいては、少しずつ傷が深くなる時期だ。 SNSなんてやめてしまえば楽なんだけれど、そういうわけにもいかない。 感傷に浸ることはリスクで、ふとスマホの画面から顔を上げると泣いていることがある。 春は傷つきやすい。 ……秋も傷つきやすいし夏と冬は論外。 去年の桜は一緒に見に行ったのになと、去年の写真を見ては悲しむ。 今年は誘われすらしなかった。 「一緒に何かをする仲間」から完全に排除された。 自分の行動を振り返って、排除される心当たりが無かっ

          20240402人知れず傷つく

          20240217[父さん]

          私の父は昔、チェコという東欧の国に単身赴任をしていた。 父の会社からは、赴任期間は五年に及ぶと言われていたため、父は母と私に対してことあるごとに「一緒に住もう」と持ちかけてきた。 当時小学生だった私は、行ったこともない国に住むことへの不安と懸念が大きく、「行きたい気持ちは20%」「30%」などと伝えていた。 賢い子どもだこと。自分で言うな。 私が小学校三年生になった年の夏休みのことである。 父は、母と私をチェコへ招待した。 私は、初めてのヨーロッパ旅行だ、大好きなハイジの食