【死者の日レポ】 花に愛を、煙に祈りを(グアナファト/メキシコ)
ついにやってきた「死者の日」
毎年11月1日と2日にメキシコで行われる「死者の日」。
この日、死者は一時的にこの世に戻ってくると言われている。
家族は祭壇を作り、故人に思いを馳せ、敬愛を示す。
考え方としては、日本のお盆に似ている。
決定的に違うのは、底抜けの明るさがあるということ。
日本でも、お盆や法事の時に家族でお酒を飲んだりするけど、メキシコは歌うし踊る。
さらに国中でパレードが開催され、街はカラフルな装飾に包まれる。
メキシコではその昔、死者を悼むことは失礼にあたると考えられていたらしい。
死は生の中の通過点であり、死者になっても家族の心の中に生き続けると信じられている。
実際、大切な人が亡くなっても悲しくない!なんてことはないんだろうけど、
確かにこうゆう時、家族で一緒にいることは大切だ。
そして驚くのが、赤の他人である観光客に対して、歓迎ムードだということ。
世界中から旅行者が訪れるこの日、みんなで騒いでいいんだ。
お墓で踊ってもいいし、写真も撮っていい。
もちろん断りは入れるけど、みんな快く迎え入れてくれるらしい。
この日、私たちの世界一周旅は354日目。
メキシコ滞在124日目だった。
ついにこの日がやってきた!
リメンバー・ミーを観た時の、あのトキメキが目の前に現れるんだ。
あの映画は誰もが
“メキシコ文化にお近づきになりたい“と思う作品だと思う。
「まずは顔をド派手にしようぜ」
夫婦で世界一周をしている私たち。
今週は日本から友達が来ているので、3人で行動した。
日本の友達に会うとなんだかホッとする。最高だ。
死者の日当日。
まずは街を練り歩く前に、カトリーナメイクをしてもらおう!ということになった。
あの骸骨風の、ド派手なお化粧をしてもらうのだ。
街角でメイクをしてくれる人を探しながら、盛り上がるエリアへと向かった。
街にはそこらじゅうで供花であるマリーゴールドが売られていて、華やかな香りに包まれていた。
鼻腔から感じる死者の日のムード。
気分は上々。
ワクワクして歩いていると、メイク道具を持っているお兄さんがいたので話しかけてみた。
なんと1000円ほどで施してくれるという。
思ったより安い。
メイクが完了したお姉さんが近くにいて、結構クオリティが高かったのでここでやってもらうことにした。
まずはパートナーから。
お次に私。
ちょっとくすぐったい。
濃いめの絵の具をベタベタ塗られてる感覚だった。
メイクというよりかは、“塗装“。
目を瞑っているので、そわそわする。
なんとなく、
「今、目の周りを真っ黒に塗られているなあ」とか
「繊細に線が動いてるから、なんかしらの柄が描かれるなあ」とか
筆が這う感覚を追ってみる。
「おでこに“肉”って書いた?」って瞬間もあった。
仕上がりの妄想をしているとあっという間に完成。
ものの10分ほどだった。
ドキドキしながら顔をみた瞬間、声が出た。
「す、すご!誰!?」
すごい。
派手な顔面になった。
平成っぽいバサバサのつけまつ毛が馴染んでいるし、
頬の装飾で小顔に見える。
10代の時ぶりに自撮りが楽しかった。
めっちゃ盛れる、盛れるぞ!
満足である。
みんなで並ぶと華やかで楽しい。
ちなみに顔に乗っかっているラインストーンは、近くの屋台で買った。
「これ使いたい!」と言って渡したんだけど、ラインストーンを活かしたメイクにしてくれている。
髪飾りとも、色合いがあっていて素晴らしい。
こんな派手な顔になったら自然とテンションも上がる。
1日で、ありえない数の写真を撮った。
世界遺産の街に咲くカーペット
メイクアップのあとは、街の中心へと向かった。
死者の日は、タペテといわれるカーペットが石畳を彩る。
このタペテは600m以上続き、数えきれないほどの作品があった。
タペテの材料は色とりどりの砂、塩、お花、おがくずなど。
野菜やプラスチックなどを使っているものもあった。
それぞれが思考を凝らし、伝統を重んじつつも個性的なデザインばかり。
似ているものは一つとしてなかった。
例えばこのタペテ。
通りがかった時に、制作者の方がコンセプトを話してくれた。
半分は生者で、半分は死者。
胸をおさえる様子は、乳がんと戦う女性を表しているそう。
サイドに乳がんのシンボルマークである、ピンクのリボンが描かれてある。
グアナファト大学の生徒による作品だそう。
骨のわんちゃんの絵に写真が添えられている。
きっと今日、死者の国から帰ってきてるんだろうな。
実家の犬を思い出して、ちょっと泣きそうになる。
個人やチームの思いを乗せられた作品がたくさんあった。
あまりの数に全てのタペテに時間をかけることはできなかったけど、どれもコンセプトに深みがありそうだった。
タペテが続く600mくらいの道を、3時間近くかけて歩いた。
美しい街とタペテ。
常にときめきの景観だった。
グアナファトは街全体が世界遺産に登録されていて、
国内で一番美しいと言われている。
建物はメキシコらしい明るさと、ヨーロッパのような上品さが融合している。
異国情緒あふれるロマンチックな雰囲気だ。
死者の日は、メキシコシティやオアハカでも大規模な祭りが行われるんだけど、グアナファトにして良かった。
この日は、ただでさえカラフルな街並みが、さらに豊かなものになっている。
歩いていて目が楽しかった。
地下道でのこと
もう一つ、グアナファトならではというのが、地下道だ。
死者の日は、地下道に大量の屋台や祭壇が現れる。
普段は陰気で人気の少ない地下道。
(強盗が出たりするのであまり通らない方がいいとも言われている。)
今日は全く真逆なムード。
お祭り気分を高めてくれる装飾。
屋台には食べ物、お酒。
音楽も鳴り響いている。
そして死者の日の、おそらく一番の見どころである祭壇。
それぞれの家族が、お家の中や墓地に祭壇を作るらしいんだけど、こうして道に作られていたりもする。
この祭壇は「オフレンダ」と呼ばれ、魂を現世に迎えるためのものらしい。
派手なのでなんだか自由度が高そうだけど、「水、地、風、火」の4つの要素を取り入れることが必須だそう。
“水“はこの世へ戻ってきた死者が、長旅による喉の渇きを潤すために。
“地”は果物、故人の好物など。
“風“はパペルピカド(上にあるひらひらしている切り絵)。
“火“はお香やキャンドル。浄化や道案内の意味があるらしい。
あとは“死者のパン“という菓子パンや、マリーゴールド、
そして故人の写真などが飾られている。
観光客の私たちは、かわい〜〜とか言いながら、写真を撮りまくるんだけど、
ふと故人の写真が目に入ると
「あ、撮らせていただいております…!」という感じで背筋が伸びる。
あんまり可愛いので、
つい、この祭壇が“亡くなった人のために作られたもの“ということを忘れてしまう。
祭壇は道に迷った魂を安住の場所へ導くものだ。
家族は故人に思いを馳せ、祭壇を築く。
愛を込めてマリーゴールドを手向け、お香の煙に祈りを乗せる。
この神聖さと、パーティムードが混じり合うさまは、
日本にはないので、独特だなと思う。
観光客にとって死者の日は楽しく過ごすのが多分、正解だと思う。
でも、祭壇にある写真が子供だったりすると、ちょっと心が痛い。
あくまでお邪魔させていただいているという気持ちは忘れてはいけないな。
夜はパレードが行われる
パレードは近年開催されているものらしい。
グアナファトのパレードはどちらかというと素朴なものだと思う。
いや、十分盛り上がるんだけど。
オアハカやメキシコシティでは、プロジェクションマッピングや、
有名アーティストが歌うなど、さらに派手な印象がある。
グアナファトのパレードは、主にカトリーナメイクに見事なドレスをまとう人が石畳を歩く。
人形や、バルーンを乗せた車、
音楽隊や、マヤ文明の衣服に身を包んだ子供たちなども見れて楽しかった。
日常に戻る私たち
最後は街中で写真をたくさん撮りながら、帰路へとついた。
メイクの崩れ具合と、陽の落ちるスピードが比例しているようだった。
うまいことに、もう外は暗いのでヨレが気にならない。
めちゃくちゃ疲れた。
歩き回り、人に揉まれ、くたくただ。
帰ってご飯を作って食べた。
デザートにスイカも食べた。
そして、スマホで今日の写真を眺める。
顔はそのままに、日常へと戻った。
シュールだ。
楽しい日だった。
メキシコの文化に浸れて大満足だ。
ちなみにメイクは濡らしたキッチンペーパーでぬぐった後、クレンジング2回で完全に落ちた。
途中、ジョーカーがついにイカれちゃった時みたいな顔になったけど。
写真を載せたいんだけど、汚すぎて載せれない。