こども3人連れて離婚かよ。#2
刑事さんに事情を聴取された。そう、TVドラマなんかでよく見るあれだ。
こういう部屋に入るのなんだかざわざわするな…と感じたのを思い出す。悪い事してないのに…いや、したのか?そんな気分だ。
事件の経緯について当然聞かれたし、結婚前から今に至るまで大まかに話をした。何を話したかはそれほど鮮明に覚えていない。上の空だったと思う。
「…そうですね、我慢してたと思います。逃げたところで行くところもないし仕事も辞めちゃったから無職でお金もないんで。それにずっと子育てしかしてないですし、離婚するより我慢したほうが子供達のためなんだって思って。結婚するってそういうことなんだろうなって思って今日まで来たから…我慢してましたね。」
「だから!!なんであなたが我慢しなきゃならないの?!違うの!!我慢したら人が死ぬの!!!DVつーのは!!」
それまで落ち着いて話を聞いてくれていた刑事さん(中より高年に近いベテラン風のがっしりしたちょっと厳つい感じの方、でも親身になって助けてくれた優しい方)が突然身を乗り出してきてこんな風に声を荒げたもんだから、「ヒッ!」っと言ってしまったのはとてもよく覚えている。
強烈なデコピンを喰らった感じだ。(あくまでも暴力反対のためデコピンと表現、いやそれもどうかとは思う)
文字通り、ハッとさせられたのだ。目が覚めた気がした。
「今回ね、ここに電話出来たでしょ?それは本当に良かったんですよ、いいんですよ、助けを求めて正解なの。よくできました、偉かったんだよ、お母さん。」
急に込み上げてきて泣いてしまった。
「あのままね、また我慢してたらどうなるかわかんないの、それがDVだから。あなただけじゃなくて子供さんたちの生命にだって関わることなの。わかる?」と。
その通りなんだよなぁ…と。沁みたせいか、今までの自分の行いというか生活自体を走馬灯のように思い返して胸が詰まって涙が止まらないまま言葉を絞り出した。
「助けって誰に求めたらいいかよくわからなかったし、家事も育児も手伝ってくれる人はいないし当然ながら夫もああいう人なので、ずっと1人きりでしてきたから、今更誰にも頼れないというか…もちろんママ友に頼ることはあるし、実家の親にもたまに…ただ実の両親からは結婚の時に勘当されてるもので。助けを求めるという考えがなかったのかもしれません。どうせ助けてくれる人なんていないって思っていたから…」
閉じ込めたふりをしてきた内なる闇が噴出した。
その後も会話は続いたが、あまり思い出せない。
もう遅いから深夜になる前に移動しましょう、とにかくあなた達の安全は確保されてますから心配いらないから大丈夫だから、と仕切りに声をかけられていたのを覚えている。何が大丈夫なのだろう。不安でいっぱいだった。
シェルターへ行けばお金がなくても衣食住は当面心配入りませんから、と促されるままに車に乗り込んだ。シェルターとの橋渡し役の人との対面だ。シェルターに着いたらケースワーカーから説明があります、とのことだった。
あまり深く考えていなかった。
それが甘かったのかもしれない。
噴出した闇にすでに呑み込まれていたことにまだ自分自身が気づけていなかったから。
長男は文句のひとつも言わなかった。大まかに理解ができる年齢だった。
怖い思いたくさんさせてごめん、悲しい気持ちにさせてしまってごめん、たくさん我慢させてごめん、でもお母さんが一緒だから大丈夫だからね、そんな風に伝えたと思う。
次男は「どこ行くの?知らないところには行きたくない、おうち帰ろうよ。」と。
もうお家には帰れないんだ、お家なくなっちゃったんだ、ごめんね。みんなでどこかへ行って新しいお家見つけて暮らそうね、仲良く暮らそうね。と言うと、「海がいい、海に行こうよ。」と言っていた。
そうだね、今日はもう暗いから、また今度みんなで一緒に行こうね、と約束をした。
1歳を過ぎたばかりの長女は、眠いとしか言わなかった。
それに合わせるように長男と次男もお腹すいた、と。
この子達を抱えて生きていくのだ、1人で。
大丈夫だろうか。
いや、大丈夫にするしかないだろう。
他に方法はないのだ。
もうわたしは選択した。
これからどうなるんだろう。
どうなるとしてもやるしかない。
そんなことが四六時中わたしの頭を支配するようになった。
それがわたしの心身を蝕んだ。
わたしは食欲がなくなり、眠れなくなり、意識が朦朧とするようになっていった。シェルターでのことだ。
そして青天の霹靂は起きる。
子供達がわたしの手元から連れていかれたのだ。
「現代の人攫い」と今ではそのことを揶揄しているが当時はわたしの精神を完全に破壊する原因となったことは言うまでもない。
シェルター編へ続きます。読んでくださりありがとうございます。DVや離婚で悩んでいる方、苦しんでいる方の味方であるために、自らの体験を記事にすることにしました。団体や個人を特定されないよう細心の注意を払っています。記事がトラウマやPTSDの症状へ悪影響を及ぼすような場合には直ちに読むのをおやめ頂いた方が良いです。この先さらに過激になります。ご理解いただけますと幸いです。