正直あの日々はとっくに秋だった
結構長いこと寝ていた気がする。
テレビも付けずにリビングで寝落ちていた。相当疲れていたのだろう。目が覚めると窓の外はとっくに真っ暗になっていて、偶然ついていたキッチンの光が薄ら白く、19時過ぎの暗く広いリビングをぼんやり照らしていた。
なんだか妙にリアルな夢を見た。
部活帰り、下駄箱前、昇降口。薄暗い。
いつもの顔ぶれ、上履きを仕舞う動作、
靴を履き替えても何となく誰も帰ろうとしない雰囲気に、少しイライラしているあの子。パンの自販機、背後に隠れている、複雑なニンゲン関係、本当はそこに無関係な人間なんていない。
私が言葉にできなかった、いや、しようとしなかった絶妙な事象と、その空気感までもが忠実にそこにあった。
寝ても覚めても光は薄暗くて、
眠たさの余韻に少し目を薄めながら、
ほんの10日ぶりの"リアル"に呼吸が浅い。
夢の中で私は「本当に学校を辞めてしまうのか」と誰かに抱きつかれた気がする。
目覚めて残ったこの既視感が、もうとっくに過去のものだと思い知った。
寝ても覚めても、呼吸が浅い。
それでもなんだかそれが寂しいなんて思えなくて、でも、ただ、本当に、少しだけ、私は苦しくなってしまった。
きっと家族全員、疲れで寝静まっていたのだろう。いつもよりずっと遅い時刻、父が1階から上がって、ようやく台所にたった。
私はあれからまだ1歩も動いていない。
何かが焼かれている音をじっと聞きながら
体が重い。
私はもう誰にも惜しまれることは無い。
私はもうあそこには戻らない。
私はあの薄暗さを確かに愛していたはずだ。
夏の終わり、私の最後。
正直あの日々はとっくに秋だった。
私はちゃんと、あのどこか息の詰まる閉塞的な帰り道を、愛しているのだろうか、愛していたのだろうか
そんなことをしばらくぼんやり考えていると、台所から、秋刀魚の匂いが漂ってきた。
夏の終わり、秋の日。
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