@s2
寝る前に決まって想像する景色があったのだ。
あの日、ひとりぼっちのあなたのことを、私はよく考えていた。
夜行バスを、ひとりぼっち待つあなたのイメージ、を、25時12分、眠り浅瀬に突っ立って、遠くから眺めていた。
音がない。恐ろしく無音のバス停、ささやかなベンチと灯りが少しあるだけの、酷くひらけた暗闇のなか、あなたはバスを待っている。
あなたを置いていったバスを待っている。
真っ白で真っ暗な、春宵すずしいバス停で、あなたは、大阪行きのバスを待っている。リュックサックの中には、食べ損ねたスパゲッティ、古着屋で買った洋服。そして胸元にはお揃い兎のネックレス。
風の音ひとつしないバス停で、ひんやりしてきたあなたの頭の中には、わたしの笑い声だけが時々すみで鳴っている。
…さあ、本当は隣で一緒にバスを待っていた訳では無いのだから、そのバス停が本当に、だだっ広い空間だったかどうか、電灯のすくない暗闇だったかどうか、真っ白な月がちょうど真上に昇っていたかどうか、私は勝手なイメージで補うしかないのだけれど、ひとつ、確かにあなたは、バス停は「静か」だったと教えてくれた。
私と過ごした夢みたいな一日が、静かすぎるバス停でバスを待って、現実だと分かった。と言っていた。
能天気で危なっかしいあなたに、わたしは何度も乗り換えの電車を教えた。
電車は○番線だよ。
○色の電車に○駅乗ったら、向かいの電車に乗り換えてね。あとはそのままずっと乗ってれば着くからね。
バスに乗ったら連絡してね。って。
まあ、何やかんや結局予定通りには乗れなかった訳だけど、あなたが、あのバス停の静寂に辿り着いてくれたことがなんだか今となっては嬉しいのです。
あなたの作る音楽が好きだ。
あなたと、あのバンドのことを語り合ったけど、私はあのバンドと同じくらいあなたが好きで、あなたの音楽が好きだ。
乗り込めたバスの中、あなたは連絡をくれた。
今日のこと、私と出会えた今までのことを、曲にしちゃうもんねって教えてくれた。
あの静寂の中で、あなたの頭の中には世界に一つだけで、あなただけの(そして私の為の)音が流れていたのだろう。
愛おしかった。尊かったー。きらきらしてる…
運命の人が見つかったんだ〜って本当に思った。
17歳の私たちには、出会うべくして出会えた人のことを「運命の人」という他、言葉を見つけることができなかった。
別れを惜しむ間もなくあなたが呆気なく新宿駅の改札に飲み込まれる前、あなたは回転寿司でまぐろばっか食べながら、
「こんなしっちゃかめっちゃかな人生で良かったって思った、探ちゃんに会えたから」とこぼしていた。
私もそう思った。今日は17年間の答え合わせの日なんだって、本気でそう思った。
楽しみなこともいっぱい出来た。いつか行こうね!いつかしようね!
来月しようね!来年しようね!
大人になったらしようね!大人になってもしようね!
おばあちゃんになっても…お互いの名前、分かんなくなっても仲良くしようね。いっぱい夢をみさせてくれた。
約束は、かなり単純に生きる光となった。
将来に、全く新しい確かな青春が保証されていることは、高校三年生にとってどれだけの光になるか、、、なんだかどれも暖かそうなのです。
あなたという事象を一秒も忘れたくない、一秒も失くしたくないから、全部全部、残したいと思っています。
あなたと歌う歌のこと、あなたが可愛かったこと。前髪の魚のピンのこと、あなたは素直で美しいということ。あなたがとてもやさしかったこと、お茶目だったこと。あなたの嬉しそうな顔。まっすぐな感情表現、かわいい顔。買ったおにぎりすぐ失くしてたこと。荻窪のホームでのこと。井の頭公園で飲んだコーラのこと。原宿で食べたひよこのクレープのこと。新宿の交差点で、手をつないだこと。そして、あなたはとても良い曲をつくる音楽家だということ。私はそれが、大好きだということ。
うん。全部大好きです、ほんとに、
奇跡みたいだなっておもう、あなたという存在が、奇跡みたいだなって思うよ~~~~~~~
思春期が終わっても私たちいつまでも奇跡みたいにすごせるっておもう
♡
(グダグダした終わり方になってしまいましたが、おしまい♡)
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