ギリギリで同人誌を作る話

はじめに

これはoutré Advent Calendar 2024 11日目の記事です


こんにちは、Lexと申します。

ふだんはフロントエンドをいじったり物理学をいじったり印刷物をいじったりいろいろしている大学生です。

年の瀬ということで、年の瀬に欠かせない冬コミが近づいてきておりますが、皆さんは冬コミに行かれたりするんでしょうか。僕は行くつもりです。というか夏コミが暑すぎてそういう類の地獄が現世に顕現している感じなので基本冬ばかり行っています。

とはいうものの実は僕コミケにサークル入場しかしたことがないので真の過酷さを味わったことがないんですよね。温室でないと生き永らえません、どうぞよろしくお願いいたします。

まあただ温室にも温室なりの地獄というものがありまして、入稿とかいうものなんですよね。入稿。同人誌ができるまで、の、“できる”を引っ掴む首根っこそのものです。

エディトリアルデザインの側面からひとの原稿を入稿データにすることがかなり多いんですが、今季組んだ量があまりにも多いので、備忘録のために“よくあったエラー対処”をつらつらと書いていこうかなと思います。ちなみに組んだ量は100万字をこえたあたりから数えるのやめました。うそです。全てやりきった後にツイートのネタにしたるかと思ってちゃんと数えました。110万字ちょいで総計820ページ前後作りました。豆本とかじゃなくて一番小さい本でも四六判です。誰かねぎらってほしい

限界同人誌制作あるある集

とりあえず、よくある限界制作化の要因から振り返ってみます。

原稿が集まらない

一番最初に一番そもそも論すぎるのは重々承知なんですが、原稿はまず集まりません。対処法としては、初手でバッファを積んだスケジュールをしておくことです。てか、しました。

校正が終わらない・原稿形式によってオペレーションが変わる

こっちの方が読みにくいんですよね正直。校正は本のジャンルと不可分なのでそのジャンルごとに慣習というものがあります。

漫画原稿の文脈はイラストと一ではないとか、人によって原稿はdocxで出すのが当たり前の人とtxtで出すのが当たり前の人とtexやPDFの人など、尋常でない種類があって、尋常でないバリエーションのオペレーションを全て先読みしておくことが肝要です。

texファイルの解読をしていた数時間後に和書のルビ振ったりする生活をするということです。てか、しました。してました。

特に校正とのすり合わせが必要なのが文献まわりや言葉遣いで、これに関しては全幅の信頼を置ける校正担当がいてくれたのでこちらでもある程度の知識を持ちつつ(これは単なる誠意という以上に、組版段階でのダブルチェックとして作用することもみています)基本的には最小限のコミュニケーションコストで済ませることができました

原稿が来るまで似合いのレイアウトがわからないが、原稿ができるまでにページ数を読んでおかないと注文がかけられない

世の中には早割というものがあります。お得ですね。もちろん使いたいです。ただ、オタクの資金は基本的に有限であることが知られていて、可能ならページ数は早めに知って早めに見積もりを済ませてしまいたいものです。当然のことといえましょう。

しかしながらここで一種のブートストラップ問題が発生します。早く見積もりをするためには早くページ数が判明しないとならないが、ページ数を握っている組版担当は原稿が来ないと文字数ベースでの推定が利かず、原稿執筆者は書かないとわからないという問題が起こります。

人によっては文字数がある程度見積もられた状態で書き始める人もいるでしょう。それはスタイルなので、強制はできず、結果どこかしらでこのブートストラップを断つべくページ数を仮で決定せねばなりません。往々にしてその役目は編集に向かいます。そらそうだ、入稿データは組む人が作れるから。

それでも組む側からしたら、120字の詩を一ページにするのも1200字の小説を一ページにするのもともに合理性があり、文字数で判断はだいぶ難しい、精度の出ないものになります。

一般的な書籍出版プロセスなら十分に前もって話を進める(スケジューリングでカバー)ことによる打開が可能ですが、同人誌は即売会申し込みから始まり即売会で売ることがデッドラインのため、前倒しで事を進めると執筆者の執筆期間にしわ寄せがいってしまいます。これはよろしくないので、僕らも全力を出すということです。

今季やったことたち

シンプルに原稿を組むという話も、掘り下げると案外と多くの無理を抱えていて一筋縄ではいきません。あと僕は怠惰なんでよくギリギリになって動きます。いくらかこれは活かせるなと思ったことを書いておきます

画像は有無を言わさずまずフォトショに突っ込んでデータ確認する

一回は頭を抱えたことがあるであろう、画像の色が狂う問題。こちら側が打てる先手としては、先に画像のカラープロファイルを揃えさせて作ってもらうことです。Japan Color 2011 Coatedとか。それでも万一はありえますから、なんかしらで確認しておく必要があります。

で、結論としては、全部一回フォトショにぶっこむ。結局これが一番速いです。そのまま編集利くし、カラープロファイルが入っていなかったり色が極端に変わりそうだったらその時点でメンション直行です。元も子もないですがこれが正義でした

あとマシンパワーに重課金して一気に画像40枚くらい突っ込んでもいいPCを手に入れる。これが最速です。

pngで提出させない

拡張子にも有名無名ありますが、pngがCMYKワークフローをサポートしていないことは、png自体の有名度に対してはだいぶ名が通っていません。一番高頻度だった困り事案のひとつにこの“印刷物だし、執筆環境のフローはCMYKなのにpngで投げられて全部おじゃん”ってパターンがありました。

pngで出すなって明示的に言う価値があると思います。ちなみにjpegはCMYKワークフローいけます。psdももちろんいけます。だいたいこの二種類でなんとかなります。tiffってこともありました。耐え。

レイアウトは毎回削り出すのではなく、開始段階で何種類か作ってプリセットとして見せる

レイアウトのうち、版型はかなり初期のうちに決まる傾向が強いものの、内部のレイアウトは原稿にかなり依存します。そして、これがページ数などの見積もりを難しくしている大きな要因でした。

なので、最初からレイアウトのたたき台を10種類くらいだしておきました。

外寸が決まっていればマージンと本文級数、版面の策定が可能なので、そこまでは一直線です。ここから何種類かのレイアウトテンプレートがあればいいという考えに至りました。

このときにあえて和文組版によく使われる(原稿用紙のような)字送り行送りを単位とするグリッドではなく、Brockmannのような何字か何行かをまとめたユニットを単位とする欧文式のグリッドを組みました。これはたたき台としての側面を強調するもので、結果的にはさらに微調整をかける前提で出すものとして相当良く作用しました。

紙面の統一感のためにも、グリッドを引くアプローチは意味と揃えを合一にするツールとしてよく使えました。

なにより、執筆者に視覚的アプローチが利いたという面がとても大きく、ページ数の見積もりもスムーズに行く銀の弾丸となり、こちらはよく使われたプリセットは詳細にパターンを作って使われなかったものは引っ込ませるという次回へのフィードバックが得られたため、継続的に拡充しながら執筆者にもイメージが伝わりやすい、三方良しのオペレーションとなりました。

校了した原稿から組んでいき、組んだら個別でエクスポートしておく

原稿ごとにスピーディーに返すことの執筆者に向けたメリットと、校正担当・執筆者込みでのトリプルチェックの確立につながったため、こちらも継続的にやっていきたいという感じです。

注意すべき文字の優先度

組んでいると、組版段階で弾くべき文字がある程度絞られてきます。

例えばひらがなの“へ”とカタカナの“ヘ”の誤字とか、emダーシのつもりを伸ばし棒/ホリゾンタルバー/罫線記号にしているとか、逆に伸ばし棒がホリゾンタルバーになっているとか。

最後の例は確かiOSかなんかのIMEに起因するものがほとんどなので、見かけると(iPhoneとかiPadとかで組んだのかな)なんて想像したりしています。実は。

あとよくあるのは括弧が半角になっている例なのでよく注目したりしています。自動縦中横を入れておけば勝手に縦中横になってわかりやすくなるんですが、全角数字の見分けが逆につきにくくなるうえ、縦中横設定は大前提として組版そのものにコミットするのに使うので、あまりアドホックなことはしたくないためにもなんだかんだ目でなんとかしています。

眼力

結局これです。パワーはすべてを解決します。emダーシとホリゾンタルバーとかいちいち検索パネルで置換してもいいんですが、眼力があるとリソース供与タダでチェックが回せるのでお得です。

うっかり読み始めない

地味に一番難しいです。全員ものすごいものがでてくるせいで、うっかりしてると原稿を読み始めちゃうんですよね。でもだいたい時間がないので読んでいると入稿遅れちゃうため読めません。これが意外と忍耐のいることなんですよね。それくらいものすごいものを作らせてもらいました。

おわりに

ここらへんに挙げたことはほんの一部で、実はめちゃくちゃ大変だったページとかもあるんですが、あくまで組版は本文書体と同じで「水のような、空気のような」ものがベストであることも多々ありますから、視覚的に読みやすい文章となれていたら幸いです。

さいごに、僕が組んだ本の告知をでている限り並べて終わりにしたいと思います。ありがとうございました!


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