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第10回 炭坑節【朽羊歯ゾーンのWoundTube】

♪月がァ~ 出た出たァ~ 月が出たァ~ ア ヨイヨイ

聴いたことがある方も多いだろう。これは「炭坑節」という盆踊りの曲だ。聴いたことがない方のために動画も用意した。

これは私にとって最もなじみ深い盆踊りの曲だ。なぜなら、母がこの曲を私のトイレトレーニングに使っていたからだ。ただ「出た」というだけであるのに毎回歌うので、すっかり排泄物のイメージがついてしまった。私にとっても炭坑節にとっても、非常に迷惑な話である。

1.《the ~》〔地球の衛星の〕月◆the Moonとも表記される。
(中略)
2.〈俗〉〔人に〕尻を出して見せる、〔人に対して〕尻をまくる◆相手をからかうため、もしくはばかにするために行う。

出典: 英辞郎 on the WEB

「尻が出た」なら許していた。


母の出身地の歌かと思っていたが、調べると全然違った(福岡県の民謡らしい)。母と同郷の友人に「当然踊れるんでしょ?」などと言わなくて良かった。

実は、炭坑節は私にとって唯一踊れる盆踊りの曲でもある。厳密に言えば、決まった場所で挙動不審になるか微妙に違う振り付けになるかするのだが、一応曲に沿って体を動かすことはできる。

挙動不審になる原因は、これだ。

これを別の場所の大道芸イベントで見て、気に入りすぎて完コピしたことがあるのだ。ほぼ炭坑節だが、微妙に違う。

居間のパソコンでこの動画を見ながら何度も踊った。台所の母に「怖いからやめて」と言われたのは、おそらく母がオリジナルの炭坑節の動きを知っていたからだろう。仕方がないので、録音して自分の部屋で踊った。

成人済みだったような気もするが、スマホを持っていなかったということは、おそらく高校生の頃だろう。当時はこれが炭坑節だなんて知らなかった。数年後に盆踊りを見て驚いたものだ。一緒にいた従姉に対する説明に苦労した。

そして、輪に入って知った、実際の炭坑節の難しさよ!

もう一度最初と同じ動画を貼るが、フレーズの長さと振り付けの長さが合っていないのである(大道芸の方では合っていた)。そもそも、振り付けの長さが6.5小節。端数! 小数点があっていいのか、振り付けの長さに。

さらに、実際に踊ってみると、大道芸との振りの違いが際立ってくる(実は踊るまで気が付かなかった)。大道芸バージョンはタメの長さが特徴的だが、そこを調節しただけでは明らかに浮いてしまうのだ。

挙動不審で1フレーズさえまともに踊れなかった私は、涙をちょちょぎれさせて盆踊りの輪から抜けた。一旦入ってみたからこそ、一つも踊りを知らなかった頃は感じなかった寂しさや疎外感が湧いてきた。悔しい。大道芸の方なら、全く挙動不審にならずに踊り切れるのに。

もっとも、大道芸の方の振り付けは、ちゃんと踊っても挙動不審だということを考えなければの話だが。


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