原材料名を芸人の名前だと思い込む
名古屋の中心部で歩き疲れ、立ち往生してしまったときに、街中にある文字を全て芸人の名前だと思い込むと楽しいことに気づきました。なぜそんなことに気づいたのかは忘れましたが、無事に駅まで歩くことができました。
この楽しさを共有したいのですが、できません。お店の看板を紹介するとき、万が一店主さんが読んでたら気まずいよなあ……なんて考えてしまうからです。
代わりのものを探していると、机の横にあったガムの原材料名が目に留まりました。
これでいきましょう。
芸人たちを分析する
原材料名を芸人だと思い込むことに決めた私は、実家の冷蔵庫や風呂場(シャンプーなどがあります)からさまざまなものを引っ張り出し、見つけた芸人たちを分析しました。
原材料名である以上、どれも芸人だということになるのですが、特に印象深かった名前を7つのカテゴリに分けて紹介します。
これが芸人じゃないわけないだろ部門
カルボマー
絶対に、「カルボマー」が芸人じゃないわけないんですよ。
男性二人組。漫才師。一人は髪を立てていて、もう一人は永沢君スタイルではないでしょうか。漫才の前に流れる写真には、ガッツポーズで写っています。
髪を立てているほうはシンプルなスーツですが、こちらがボケです。大声を出し、舞台を大きく使った動きのあるボケをしてくれます。永沢君のほうは、ちょび髭に蝶ネクタイ、サスペンダー。ひょうきんな見た目ですが、基本的にマイクの横に立ち、淡々とツッコミを入れます。手は前で組んでいて、ギリギリお辞儀にならないくらいの角度で前かがみになっているでしょう。
ただし、漫才が盛り上がってくると、ボケの大声以上の声量でツッコミを返します。そこでわっと歓声が上がることもあるし、静まり返ることもあります。静まり返ったときは間を取って、次のセリフで笑いを取るスタイル。インタビューでは、「あれはお客さんの反応を見ながらやってる。最初は対応を間違ってスベることもあったけど、今は慣れてきたし、ネタによっても大体どっちかわかる」と答えています。
って感じですよね。カルボマー。
グリシルグリシン
かなり見づらいですが、「グリシルグリシン」と書いてあります。これも、間違いなく芸人でしょう。
村岡吉郎と山路達樹のコンビ。村岡はウェーブのかかった髪を真ん中分けにした、背と鼻の高い男です。ステージではよく紫色のスーツを着ています。山路はややがっしりした顔と体型で、高校時代にサッカー部で全国大会に出たことがあるというエピソードが有名だと思います。
ラーメン好きを生かし、山路はここ数年、ソロでの仕事を増やしています。村岡は当初それをネタにしていましたが、旅番組でのトークが人気となってからは、あまりそういった発言をしなくなりました。
グリシルグリシンは、こんな感じじゃないでしょうか。
嘘です。ドランクドラゴンのイメージしか浮かびませんでした。似てませんか、ドランクドラゴンとグリシルグリシン。
タルク
短い名前の芸人もいますよね。タルク。
人好きのしそうな四角い顔のほうが田岡祐作、ギョロ目で変顔をよくするのがKOMATSU、とかでしょうかね。KOMATSUがボケで、田岡がツッコミです。とはいえ、どちらかというとノリツッコミだったり、ツッコミ不在だったりする展開も多いので、田岡がボケている場合も多く見られそうです。
独特のリズムネタに定評があり、「アルプス一万尺」に似た手遊び「寒天グラタンゲーム」の「寒天寒天グラタンタン♪グラタン寒天寒天タン♪」は流行語大賞にノミネートされました(受賞は逃しましたが……)。
ちなみに、この記事に出てくる芸人は、全て実在するか確かめています。「タルク 芸人」で検索してみたところ、「歌う医者」が出てきました。もう一度検索したら消えたので、リンクは張れません。
TEA
アルファベットのパターンもあるでしょう。
最近売れ出した、若手の二人組っぽいですね。白黒ストライプのスーツに坊主頭、丸い目の男がボケの佐々木です。ツッコミの御高野(みたかの)は、いわゆるイケメン芸人。上品で整った顔立ちと変なツッコミ、そして絵が下手というギャップが受けて、女性ファンが多いです。彼が個人的に出している、独特の絵のグッズも人気だとか。
TEAの漫才は、「風見鶏より風向き見るね」「魚を生臭さごと煮詰めることができたなら……うん、それくらい臭いよ、そのセリフ」など、御高野独特のツッコミが特徴です。佐々木が「そうなのぉ?」と返すまでがお約束。
二人の共通の趣味は釣りで、休みの日には一緒に行くそうです。避暑地の湖畔で釣りをしたというエピソードが語られた際には、SNSで「私もツッコミ画伯(御高野のこと)と湖で釣りしたい」という投稿が相次ぎました。
ちなみに、TEAが入っていたのは、紅茶味のお菓子ではなく消毒用のハンドジェルです。
他、「これが芸人じゃないわけないだろ」と思った原材料名には、
ガランガル(タイカレー)
コーンフラワー(お好み焼き粉)
グァーガム(お好み焼き粉)
たら(魚肉ソーセージ)
イーストフード(くるみ入りアンパン)
シリカ(洗顔料)
天然ビタミンE(美容液ジェル)
梅(梅酒)
が、ありました。
「梅」は実在しました(「ウメ」表記でした)。
いなさそうだけど、いたら良い部門
逆に、「こんな芸人いないだろ!」っていう名前を見つけるのも楽しいです。こちらはさくっといきますね。
pH調整剤(タイカレー)
乾燥全卵(お好み焼き粉)
かつお節粉末(お好み焼き粉)
結着材料(魚肉ソーセージ)
湯種生地(くるみ入りアンパン)
これまでもこれからも、いないと思うんですよ、「pH調整剤」なんて芸人は。でも、タイカレーの原材料名を見ると、確かにいるんです。
例えば、彼らが「嫌な気分は良くない、笑いを届けたい」と思っていたとして、それをpHに例えて芸名にしたとしたら、今までに例のないセンスの持ち主なわけですよ。彼らが何を思って「pH調整剤」と名乗っているのかはわかりませんが、何か一味違う気がしませんか。話がニッチすぎて刺さらない層もいるけれど、穏やかな性格と独自の視点が垣間見えるネタで、いつも一定の人気があるような……
着眼点がいい部門
食べ物と聞いても頭に浮かばないけれど、言われてみれば聞いたことがある。そんなものあったな~、よく思いついたな~、と思った芸人たちをご紹介します。
椎茸だし(納豆)
パン酵母(くるみ入りアンパン)
ナチュラルチーズ(チーズ)
すりごま(食べるラー油)
うるめいわし(だしパック)
「椎茸だし」って芸人、良くないですか。カツオだしや昆布だしならともかく、椎茸を見つけ出したセンス。実家が料亭なのかな。渋い名前だけど、逆に若手であってほしいな。
あと、みんなひと手間加えてる感じはしますね。「パン『酵母』」とか「『すり』ごま」とか。
ぜひいてほしい部門
王道の芸人っぽさからは少し外れるけれど、想像力が掻き立てられる名前を紹介します。というより、個人的に好きな名前です。いてくれ。
流動パラフィン
いるでしょう。流動パラフィン。
状態を表す漢字2文字+カタカナは芸人っぽいです。「植物レシチン」というのもいました。でも「炭酸マグネシウム」はなんか違う。「炭酸Ca」でギリギリでしょうか(読み方が難しいので若い子の気がします)。何なんでしょうね。
漫才の前の芸人紹介で出る写真では、坊主頭のほうがやや上を向いて明るく笑い(手はパー)、短髪のほうがやや下を睨んでいる気がします(手はグー)。
アメリカ又はカナダ
これは原材料名ではなく、大豆の生産地です。ルール上は微妙なのですが、「いてほしいな~」という思いから入れました。「又は」が良すぎる。
通称「アメリカヌ」。ファン名は「アメリケーヌ」。メンバーの名前が「ドイツ」とか「フランス」であってほしいです。「又は」なのにトリオだったらさらに良いし、メンバーがアメリカにもカナダにも関係なかったらなおさらいいですね。「メンバーの一人が大学時代に1週間だけ留学することになり、アメリカかカナダか迷ったことがある」くらいのエピソードで決めていてほしいな。
安息香酸
絶対にヤバい奴です。
「安息」は安らぎを与えるイメージだとして、その後にくっついた「香酸」が理解できません。そもそも「安心」ではなく「安息」という言葉のチョイス。常人のものではありません。
目が据わっているインテリ風と、目に狂気を宿したパワー系のコンビであってほしいですね。コントの前に出てくる写真では、本人たちだけが「安らぎを与える」と思っている、不可解な笑みを浮かべています。インテリ風のほうは中身もインテリなのですが、クイズ番組にでてくることはありません。二人ともよく奇声を発します。「#安息アート」で似顔絵を募集しています。
ピロリン酸鉄
トラディショナルひょうきん者です。「ピロリン」ですよ。間違いありません。
今でこそほとんどテレビには出てきませんが、昭和の番組にはよく出演していました。「ピ~ロリンリン♪」「これが噂のピロリンランド」といったセリフが有名です。キャッチーなフレーズとは裏腹に、尖った内容のネタもやることが多く、似たような方向性の芸人からは「尖りのレジェンド」として尊敬されています。
その他、「ぜひいてほしい」と思った芸人には、
香辛料(ハッシュドビーフ)
かつおエキス(魚肉ソーセージ)
納豆菌(納豆)
ビタミンC(くるみ入りアンパン)
パプリカ(食べるラー油)
ごま油(食べるラー油)
貝Ca(プロテイン)
酵母エキス(だしパック)
が、ありました。
「ビタミンC」は実在しました。「パプリカ」も実在しましたが、M-1の一回戦で敗退しているようです。
なんかブラックマヨネーズに見えてきた部門
ブラックペッパー(ブラックペッパー)
ウスターソース(ハッシュドビーフ)
デミグラスソース(ハッシュドビーフ)
フライドガーリック(食べるラー油)
以上です。
その他特徴的部門
モチ米
惜しいな~。「もち米」なら芸人っぽいんだけどな~。
自分でもどういう判定なのか謎なのですが、「もち米」は納得でき、「モチ米」はできません。YouTuberならギリギリありか。
あと、「モチ米」の「モチ」がカタカナなの、初めて見ました。
にんにくペースト、しょうがペースト
並べて書いてありました。どういうこと?
しばらく考えて、藤子不二雄やカンニング竹山を思い出しました。きっと、もともと「ペースト」というコンビだったのでしょう。
あるいは海原はるか・かなたパターンか。だとしたらまとめて書かれそうですが、原材料名芸人界の常識が我々と違う可能性もあります。
同じハッシュドビーフにトマトペーストもいましたが、こちらは「名前が被っただけの別人だな」と思いました。離れて書いてあったからでしょうか。
唐辛子
食べるラー油に入っていた唐辛子なんですけど、
三段進化しました。
EXILEのように、系列のいろんなグループがあるのでしょうか。意味が分かりませんが、これも原材料名芸人界の特徴なのかもしれません。
ゴミシ流エキス
どう見てもザコシ!
芸人で「悪口+シ」はザコシなんですよ。「流」もテレビっぽいですね。芸人がポリシーを語るとき、「流」はつきがちです。そして「エキス」。リポビタンJr.の瓶を見ながら5分ほど笑っていたので、母に「楽しそうでいいね」と言われました。
絶対に企画です。テレビ番組の企画。ゴミシという名前の芸人が、体を張って何かのエキスを抽出し、エナジードリンクを作る。抽出したエキスを右斜め上に掲げたゴミシが、「これがゴミシ流エキスじゃ~!」と叫ぶシーンもありそうですね。テロップは黒い筆文字、炎の縁取りがあるかもしれません。
別の職部門
分析の最後に、「これ、芸人じゃなくて別の職業では?」と思ったものを紹介します。
BG
西部のガンマンかアメフト部かの二択ですね。映画の登場人物で、かなり重要なポジションを占めますが、主人公ではないでしょう。
と思って検索してみたところ、ドラマのタイトルでした。また、アメリカのラッパーにも「BG」という人がいるそうです。その手があったか。
ショートニング
男女混合のグループYouTuberです。こんな感じ。
原材料名を芸人と思い込むときあるある
以上、原材料名にいる芸人+αたちでした。個人的には、「アメリカ又はカナダ(「ドイツ」「フランス」みたいなメンバー名のトリオ)」と「安息香酸(インテリ&パワーのヤバい奴)」が好きですね。
さて、芸人名の話とは別に、原材料名を見ていて感じたことも書いていこうと思います。
いつもいる芸人、あるいはスタッフ
いろんな食べ物の成分表示に、共通して書いてある原材料があることに気づきました(「食塩」「香料」など)。売れてる芸人なのかと思ったのですが、番組制作スタッフのようにも見えます。最後のほうに書いてあることも多いし。
ただし、「大豆」はたくさんあってもスタッフには見えませんでした。最初のほうに書いてあったのもありますが、含まれる食品がどうみても冠番組(納豆とか)だったからだと思います。母が大豆のファンになり、グッズを買い集めているようにも見えました。
「醸造酢」は名前が全然面白そうじゃないのに、いろんな食品に書いてあって腹が立ちました。なんでこんな奴が売れてるんだ。
深夜番組
先ほど、納豆を冠番組に例えましたが、これをやっていると、食べ物が番組に見えてくるんです。
特に、原材料の数が少ない食べ物は「深夜番組」と呼んでいました。出演者が少ないので……
めんどくさそうな芸人
化粧品やシャンプーなどを見ていると、長くてわけのわからない名前の芸人がたくさんいるんです。
一番長かったのは、「2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ステアリル共重合体」です。めちゃくちゃめんどくさそう……10人くらいのカルトなファンだけに刺さって、他の人には全く受けない、尖りすぎたネタをアングラ劇場でやりそうです。
(ちなみに、この話を父にしたところ、上司の息子がそういう芸人だと言って写真を検索してくれました。初ステージを見に行ったけれど、一緒に行った同僚がお土産を渡し忘れたそうです。)
食品界では、「小麦粉(国内製造)」「バター入りマーガリン」もめんどくさそうだと思いました。2-メタクリ(以下略)とは違うめんどくささ。普通にしてたほうが面白いのに、ひねりすぎたり注釈を加えすぎたりして、笑いどころを潰してそう。
小学生時代、「何をするにも絶対ひとひねり加えないといけない」と思い込んでいた時期があったので、懐かしいような苦しいような気分になりました。
普通にそれは何だ
もう芸人とか関係なく普通に気になったのが、
こぶみかんの皮(タイカレー)
消泡剤(厚揚げ)
ツノナシオキアミ(干しアミエビ)
です。何それ。
化粧品に書いてあった「濃グリセリン」もわけがわかりません。濃さは必要なんでしょうか。
よく使う言葉でも、芸人っぽいものとそうでないものがある
これが不思議なんですけど、「芸人っぽい単語」ってあるんですよ。
これは、見つけた芸人をいそうかいなさそうかで分け、あるなしクイズの画像風にまとめたものです。上から、タイカレー・ハッシュドビーフ・納豆・くるみ入りアンパン・天かすの原材料です。
こう見ると、使いどころが限られない原材料は、芸人の名前っぽくないことがわかります。例外はたまねぎですが、ひらがな表記よりカタカナ表記のほうがなじみ深いからかもしれません。
看板でやったほうが面白い
原材料名を芸人と思い込んだ数日後、町を歩きながら看板などの文字を芸人だと思い込んで歩いてみました。
原材料名より遥かに面白かったです。
上でも述べたとおり、聞く機会が多すぎる言葉は、あまり芸人の名前っぽくありません。聞いたことはあっても使う機会が少ない言葉、あるいは「カルボマー」のように全く知らない言葉は、芸人っぽさがあるということです。
看板や標識には、毎日使うわけではないけれど知っている言葉が、たくさん書かれていました。芸人の条件にぴったりです。
誰かと一緒にやると、さらに面白いです。
町を歩くときは、一度やってみてください。記事の締めだから言っているわけじゃなくて、本当にやってほしいです。とても元気になります。
それでは最後に、「ツッコミ画伯」こと、TEA御高野の描いたイラストTシャツでお別れしましょう。
ありがとうございました。
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