大手包装資材メーカーに勤める28歳男性の話
What’s his job?
入社7年目。当初は生産管理部門として工場勤務を経験し、4年目からは営業に。コンビニエンスストア(CVS)で使用される弁当などの包装資材を担当。主に直接の顧客である商社と商談を行ったり、CVSの商品在庫に合わせ自社工場の生産状況を連携したりしている。
業界について
誰もが使いやすい「パッケージ」で、
食の一大産業を支える。
弁当、ホットスナック、スイーツなど多様な食品を扱うコンビニエンスストア(以下、CVS)と、包装資材とは切っても切れない関係だ。商品の数だけ適したパッケージがあり、また世の中の食のトレンドに合わせて、食品需要、ひいては求められるパッケージも変化していく。
例えば近年は、デスクワークをしながらでも食べられる「ワンハンドフード」が人気。そこで、開けやすく手が汚れにくい、専用包装が求められるようになっている。CVSの包装資材を専門に3年間営業を担当してきた彼は「なかなかみんなには気づいてもらえませんが、パッケージも日々変化、進化しているんですよ」と笑う。
一方でCVSと二人三脚であるということは、その経営方針に大きく左右されるということでもある。CVSでは、とりわけ食品ロスに敏感だ。販売促進のため毎週のように新商品が発売されるが、その全てが計画通りの売上をたどるわけではない。中には早々に販売を打ち切る商品もある。しかしすでに仕入れている食材を廃棄するわけにはいかないため、急きょ代替商品を投入することで食材を消化しようとする。
そこで彼には、代替商品に合わせた包装資材の納入が依頼される。短納期で、全国の数百、数千店舗にもれなく新たに包装資材を届けるため、顧客であるCVSの戦略に合わせて商社と連携し、きめ細かく製品を供給し続ける。その窓口として、彼が重要な役割を担っている。
営業業務について
仲間の仕事を背負う者としての、
責任から逃げないために。
迅速かつ柔軟な顧客対応こそ、営業の重要な仕事。しかし顧客の事情とはいえ、生産現場に無理ばかりは言いづらい。工場にも製造計画がある。そのような社内事情を十分理解した上で、彼にはこんな思いもある。
「私が担当しているCVS市場は、会社全体の売上の少なくない割合を占めています。私の対応一つで顧客の信頼を損ない、商権を失うわけにはいかないという怖さがあります」。
彼は包装資材の営業担当者であり、CVSの商品戦略そのものに関わることはできない。したがって顧客のCVSが、自社品が使われているメニューに代わって、自社が扱わない/扱えない包装資材を使った新メニューの採用を決めれば、彼の日頃の対応とは無関係に商権が「飛ぶ」。それは会社の製造ラインを一つ止めてしまうことであり、ひいてはそこで働く従業員の仕事をなくしてしまうことにすらつながる。だから自分と自分が担当する製造ラインの頑張り次第でできることは、可能な限りしておきたいのだと言う。
「大きな売上の懸かった商談の場に立つヒリヒリとした緊迫感は、製造担当の人やCVSを担当していない人にはわかりづらいかもしれません」。実際、直接言われることはないが、他の営業担当者から「継続的に大口の売上を確保できるラクな担当だ」と感じられているのでは、と思う瞬間があると苦い顔をした。
それでも彼は自分を鼓舞する。
「私が担当しているのは、かつて先輩が一人で開拓し、それから10年以上担当してきた市場。知識や経験の差があるのは当然ですが、社内外問わず発言の影響力が私とは露骨に違うのは、やはり悔しいです。だからいまは愚直に学び続け、なるべく早く、一歩でもその域に近づかなければと思っています」。
受け答えの瞬発力やその的確さが顧客からの信頼につながると実感しているから、製造、開発担当者に、包装資材に使う素材の特性について尋ねたり、インターネットや本などのメディアからは食品のトレンドを探ったり。あるいはCVSで自ら商品を購入し、自社品の使い勝手を調べながら改良ポイントを考える。その積み重ねで、毎日の仕事で得られる以上の知識と経験値を身につけていく。その甲斐あってか、最近、周囲から自身への信頼が高まっていると感じられる場面が少しずつ増えてきた。
適性・将来について
なすべきことと、したいこと。
心の中の答えを探す。
営業担当者としてのスキルを高め続ける一方、いま彼の関心は別にある。
「私の会社には営業用のマニュアルがありません。“わからないことがあれば聞け”というスタイル。いまでは私も、先輩から盗むべきこと、自分で学ぶべきことがわかってきましたが、それでは今後入社する新人が育たない気がします」。
そこで新人の営業担当者を育てる基盤を構築してみたいと考えている。営業として最低限必要な知識や、先輩の商談に同行した際に見るべきポイントをきちんと共有し、浸透させる。そのために自身の学びや経験を活かしたいのだと言う。
「人と話すことにすぐ疲れてしまうから、自分は営業に向いていないと思う」と前置きし、モチベーターとしての自分についてこう語る。
「周りの様子を見ていて、例えば同僚が仲間にアドバイスしている様子を見て “もっとこう声をかけてあげれば意欲が湧くのに”とか、“あの見積り作業はもっと簡略化してみんなを楽にできるはず”とか、そちらのほうによく目が向くしアイデアが湧いてきます。“この会社に尽くしたい”みたいな綺麗ごとを語るつもりはありませんが、マネージメント業務にこそ、自分の良さを活かせるのではと思っているんです」。
先日、自分の市場価値を測ってみようと転職エージェントと話をした、と語る彼。そこで「圧倒的に自己分析が足りない」ことに気づいた。何に興味があるのか、どんなとき達成感を感じるのか…。必ずしも仕事にやりがいや使命感を持たなければいけないとは思わないが、働く上で軸となる気持ちがあやふやなまま、これまで以上のクオリティで仕事を進められるとも思わない。もっと自分の価値観を点検して明確化し、キャリアにつなげたい。そう語った。マネージメントは、その答えの一つになるかもしれないと考えている。
彼の将来展望は、まだ見えない。いまの会社に残るのか、それならどのフィールドこそふさわしいのか。あるいは転職を図るのか、それは何のために…?選択肢は多く、決め手に欠ける。ただ一つ、彼が抱える「自分はまだ何者でもなさすぎる」という漠然とした不安や焦りには、自身の適性やスキルを、世の中にきちんと還元していきたいという誠実な生きざまが見える。
※内容は取材時点の話のため、現在とは状況が異なる場合があります。
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