Continues
※ここにはReAssembly 1/11大阪城ホール公演のセトリ、内容を含みます。
波間にゆられながらのんきに歌っていたわたしに何て歌、と姉が近づいてくる。
「Continues」と返すと、ふぅん、と気のない返事が返ってきた。興味なさそうに離れていったかと思えば、流されていたうきわを手に再び質問してくる。
「星野源?」うなずき、さらに言葉を重ねた。
「今ツアーしてるからさ」
2017年7月、わたしは家族で海水浴に来ていた。海が好きな父が毎年、夏になると車で海水浴に連れていってくれるのである。まわりにだれもいない場所で波に揺られながら歌うのが好きで、この恒例行事を楽しみにしていた。
説明を終えたところでまた初めから歌い出すと、姉はしかめ面をしながら離れていった。
未来が見えず、不安や孤独を感じた時に聞くのはきまってこの曲だった。初めての環境でまわりに無理に合わせようとしていた頃も、わかりもしない未来についてあれこれ思考し眠れなかった日も、自身のみじめさと人生に絶望した夜も、いつもいつもこの曲の持つ希望のようなものに救われていた。今は無駄ではなく、何かに繋がっているのだと信じ、ゆらぎ、それでも信じるしかなかった。
そして今、2023年1月。わたしは大阪城ホールであるライブの真っ最中だった。
「次は2曲とも久しぶりにやる曲で…もしかしたらもうやらないかもしれないです」
「えーーー!!」ひかえめに沸き起こるささやかな抗議。
「はは。だといいね、って願いを込めて」
そう言って始まった前の曲が終わり、少しの静寂ののちイントロが流れる。
Continuesだった。
頭の中を走馬灯のように思い出が駆け巡る。自分に自信がなく、好きなものを好きと言えず、なにものにもなれなかったあの頃。あの頃強く願った「今は無駄ではなく、何かにつながっている」という想いはたしかに今までのわたしを照らし、照らされた日々の光も闇も歩き続けた先に今日がある。過去から未来へと導いてくれたこの歌は、まぎれもなく今までの全てを表していた。
曲が終わりに近づくのに合わせてラスサビで転調し、曲が最高潮に達する。照明がきらきらと輝き、まるで世界で一人かのように彼を照らしだす。
思わず視界がにじんだ。あの時拙いながらもともしたかすかな希望は無駄ではなかった。「何か」でしかなかった想いは、ゆっくりと時間をかけてここへちゃんと繋がっていたのだ。
曲の終わり、「もっともっと!」と、手を叩いて手拍子を呼びかけてくれた。ホールにいる何万人もの人たちと、コーラスに合わせて大きく手を叩く。最後かもしれないこの曲に、声の代わりに感謝を伝えるよう想いを込めて。この瞬間を昔のわたしに教えたらどうなるだろうか。
ひとりではないその場所から見えた景色は、今までのどの瞬間よりも最高にまぶしく輝いていた。