ごめんね

「お兄ちゃんとガンダムのDVDを見た。楽しかったのでガンダムが好きになった。」
「ガンダムの名前を言うと褒めてくれたので、嬉しくてもっと言ったらもっと褒めてくれた。」



地震の片付けと父が単身赴任で家を出たのでいい機会になったと、使わなくなった弟の机をバラしていた。
7年間使ってもう小さくみえてしまうその机には、まだ14年だけど人生の中でも怒涛の14年、弟の歴史が詰まっていた。

正直、僕ら兄弟は僕目線ではあまり仲はよくないと思う。それも僕が小さいころやんちゃでいつも喧嘩して弟に限っては毎日泣かせていたからだ。

中学生のころ、夢にたびたび弟が出てきた。このころの僕は反抗期とまではいかないが家族との会話は最低限に、他人からの干渉は毛嫌った。そういう時期はさしてもなかなか弟のことは可愛くはみえないと思う。夢に出てくる弟は、幼稚園かそれよりも幼い子で家族で出かけたりして僕と一緒に遊んでいた。そしてほぼ毎回、しぬかしにかけていた。その胸が一番苦しい瞬間に目が覚め、しばしば夜中に一人で泣いたものだ。

弟は僕より、勉強も運動もできず、習い事や部活動も続かなかったので、家にいる時間が多く引きこもりがちだった。弟が低学年までは、僕や僕の友達とたまに遊んでいたので、年上には慣れていたと思う。だから僕は、弟の入学や進学を結構心配していた。友達ができるか、環境に潰されないか、いじめられないか、授業はついていけるか。そんなできない(と思っていた)子だったのもあり、小さいころから僕は弟を下にみていばり散らしていた。

僕の友達と遊んでいるときは、いないほうが僕は楽しいし心配事は減るのにと思いつつ。ごくたまに家で一緒に遊ぶときも、4歳下に本気で勝ちにいった。僕が遊びたいがためだけに無理やりルールを覚えさせたり、僕にだけ有利なようにズルをした。弟の言うことは全部言いくるめ、僕の言い分だけを通した。


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弟との二人きりでの思い出は一つしかない。僕が小2、弟が年中の頃だと思う。 このころの僕は、不審者が怖くて、徒歩5分の場所でさえ一人ではいかなかった。当時、カードゲームにハマっていて弟にも相手をさせていたので、買いに行くのについてきて欲しかった。

「カードパック買いに行こ。お願い。いいの当たるかもしらんし。」
「え〜。でもお金が。。」
「1袋5枚で150円やで。」
「えっ!」
「それじゃあ行く?」
「行く。」

なんか笑顔やな〜と思いながら、しめしめと僕は600円を持って出かけた。道中10分の道はどうしていたかはもう覚えていないけど、コンビニでカードパックをみながら、どのパックなら何のカードが入ってるとか説明して選んでいた。僕は4パック、弟は1パックレジに持っていき、お会計は別に弟から先にした。
レジのお兄さんが
「お会計150円です。」
と言うと、弟はお金を出さず少し泣きそうな困った顔をしてこっちを見てきた。
「150円持ってきてたやろ?出しや。」
と言うと、おもむろにポケットから50円玉を取り出し僕に見せた。

このころの僕は本当に自分のことばかり考えていて、自分はどうしても4パック買いたかった。余分に持ってきてないしなぁ って気持ちと、弟について来てもらった&泣きそうな顔 を天秤にかけ他に客もいなかったので悩んだ。
どう思ったのかは忘れたけど、僕は1パック戻して、4パック買った。そしたら、弟は泣かずにしかも僕は4パック買えてた。コンビニを出て僕は2つ開け、弟は喜んだ表情をしていた。帰り道、なぜ50円しか持って来てなかったのか聞いたところ、150円じゃなく50円に聞こえたかららしい。通りで、値段で反応したんやなと思った。「じゃあ安いと思ったんちゃう?」って聞くと「うん、めっちゃ安いと思った。」って。


***


僕はきっとお兄ちゃんぽいことをしたのはこれの一回きりだと思う。
弟がまだ泣くことしかできないころから、嫉妬して下にみて泣かせ続けてきたのに、たったのこれ一回。僕の夢に出てきた弟がしぬたび、後悔し罪悪感にかられ、泣いた。明日こそは優しく接しよう。今回こそ誕生日プレゼントあげよう。弟が好きそうなもの見つけたら買ってきてあげよう。たまには一緒に遊んでみよう。あそこにはいったことないだろうから、次の休みの日連れて行ってあげよう。毎回心の底から思った。毎回そうしなかった。起きて弟の顔を見たら、態度にイラっとし何でこんなやつにと思った。


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気づけば弟はもう中学3年生。身長も体重も僕よりある。弟のために僕は何もしてあげられなかった。何一つ見本になるようなことをしてこなかった。弟に対して、直接的にも間接的のも悪影響しかなかった最低な兄だ。

弟がちょっとでもやんちゃなやつが嫌いなのは、僕がそんな小さいやつで些細なことで怒るようなやつだったからだ。弟が、外に出て遊びを控えるようになったのは、僕みたいにちょっかいをかけるやつが多いからだ。弟がスポーツをしなくなったのは、僕が頑張りもしない僕と比べて茶々を入れていたからだ。弟がゲームばかりするようになったのは、僕が弟もできる唯一見本になれるものだったからだ。僕が弟の目線で遊べていたら、弟はスポーツが好きな子になっていたかもしれない。僕が弟に暴力を振らなければ、弟は活発な子になっていたかもしれない。もっと主体性を持って兄弟変な距離感にならなかったかもしれない。
もちろん、今の弟の性格を否定しているわけではないし、完全にこうなってるわけでもない。今は勉強もできているし、ちゃんと外で遊ぶこともある。彼女もいる年頃の男子だ。
ただ、僕の与えた影響がデカすぎたこと、弟の可能性を潰したことが本当に悔やんでも謝ってもしきれない。


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母からは何度か聞いていたが、弟は僕や姉に追いつけないことを悩んでいたことがあるらしい。彼が小学生になるころには姉は中学生に。当時の僕の学年になるころには僕が中学生に。彼が中学生になるころには、姉は大学生で僕は高校生に。
当たり前やん としか思えなかった。今にして思えば、弟って兄や姉に憧れるものなのかなとも思える。ただ、そんな兄という存在が僕でごめんなさい。僕が君より早く生まれてしまったがために、君が生まれる場所に僕が居てしまったがために、こんな兄に憧れさせてしまった。こんなやつを通して初めての世界を見せてしまった。


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片付けもほどほどに、出てきた幼稚園のころに日記。母がみせてきた。
「こんなこと書いてるで。あんたにされて嫌やったこととかじゃないねんな。」
僕はキッチンに隠れるようにして泣いた。
「そうやねん、ほんまいい子やねん。本気で申し訳ない、罪悪感しか湧かんねん。」言い訳するように、口から出てきた。
小さい頃は、こんな兄貴でも弟はよちよちついてきた。泣かしたとき以外は常に楽しそうで笑顔だった。めちゃくちゃ可愛かった。今思えば何がそんなに気に食わなかったのか本当にわからない。そんな顔して、こんな日記書いてるんやもん、クソみたいな兄貴はもう頭が上がらん。最高に自分勝手で最低な兄だけど、弟には1番幸せになって欲しい。それくらいは願わせて。




#いつかのための手紙 #日記 #弟 #謝罪

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