しりとりの強さは膀胱のサイズに比例する
先日、母と木更津のアウトレットに行った。
私はその道中にある海ほたるPAに行ってみたい!とかねてより思っており、同じ志を持つ友達とチャレンジしてみたこともあったのだが、友達も私も運転するのは実に一年ぶり。
一年も間が空くと流石に腕も鈍っており、何度か事故を起こしかけて身の危険を感じたので、私たちは海ほたるに到着する前に引き返すことになった。
その友達は運転する上での判断がとにかく遅いのだが、海ほたるへ向かう高速の入り口で友達がとんでもない危険運転をしたので、
私が「このままじゃ事故起こしそうだから帰らない?」と問うと
「うん!帰る!出口調べて!」
と速攻返答してきた。その判断は早いんかい、と驚いた。
そんなこともあり、海ほたるへ行くのは初めて。
そのドライブがトラウマになっている私は、レンタカーの追加運転者への登録も拒み、悠々と運転熟練者である母とのドライブを助手席から楽しんだ。
念願の海ほたるからは、富士山も見えてとても綺麗だった。
そして辿り着いた木更津アウトレット。
そこは今まで行ったアウトレットよりもずっとずっと広く、こんなお店まであるのー!?という驚きを与えてくれる楽しい場所だった。
私は友達への誕生日プレゼントを買ったり、半額になっていた憧れのSNIDELのワンピースを買ってみたりした。
SNIDELを出た後トイレに行ったら、軽くお尻から血が出ていて、こんな切れ痔みたいなことになっている女にSNIDELは似合わない……と思って、少しだけ落ち込んだ。
買い物を十分に楽しんで、時計を見ると17時。
すると母が「まずい…」と呟く。
どうやら母は、11時くらいに着くのだから、4時間くらいお買い物しても15時には帰れるだろうと思っていたらしく、レンタカーの返却時間を19時に設定していたのだ。
焦ってレンタカー会社に連絡して返却時間を1時間延長してもらったものの、目の前にはとんでもない車の大群。
高速が混雑していることは想定内だったが、まさか高速に乗るまでの道がここまで動かないとは。
カーナビを見ると、到着時間は20時ぴったり。
このままでは延長してもらった時間にも間に合わない…。
一世一代の大ピンチ。
1分たりとも遅れることは許されない。
そんな中、私は猛烈な尿意に襲われた。
最近の私は、日常生活に支障をきたすほどトイレが近い。
この時も乗車前にトイレを済ませていたにも関わらず、押し寄せるような尿意の波に飲み込まれてしまっていた。
いやいや、でも、まだ大丈夫。
きっとあと30分くらいで海ほたるPAに辿り着ける。
そう思って30分。
車は高速入口に近づいてはいるものの、100mも動いていない。
遂に、私の尿意は限界を迎えた。
「そこのコンビニ入って!トイレ行きたい!お願い!」
母に叫ぶ。
そして、母も叫ぶ。
「嫌やよ!今どう見ても4人くらい走ってコンビニに入って行った!並んだら絶対間に合わへんよ!」
じゃあ、この尿意はどうするのだ。
レンタカーに尿をぶちまけたら、一体いくら払わないといけないのだろう。
「もうこれにしなさい!」
母は飲み切ったドリンクのカップを私に差し出した。ここに放尿しろと言うのだ。
私は、社会人だ。
もう働いて、企業からお金を貰っている。
そんな私が、こんな尊厳を失う行動に出なきゃいけないだなんて。
それだけは嫌だ、と泣き喚く私。困り果てる母。
「……!そうや、しりとりしよう!おしっこのこと考えるからあかんねん!ほら!あんたから!」
母の決死のアイデア。
あまりにも初歩的だけれど、今の私には有り難い。
すぐに頭をフル回転させる。
しりとり、おしっこ以外のこと。
きりん
ごはん
みかん
……だめだ。「ん」の付くものしか浮かばない。
必死に考えても、それしか浮かばない。
「きりん、ごはん、みかん」
何とかならないかと一度口に出してみたが、母はガン無視。
しりとりを提案する優しさがあるなら、そっちから始めるとかもう少し寄り添ってほしい。
もうどうにもならないので、私は好きなアイドルの曲を爆音で流して大声で歌うことでなんとか乗り切った。
海ほたるPAに辿り着いた私は、人生で一番内股で走ってトイレへ向かった。
母に差し出されたカップ10個分くらい出た。
尿意に急かされていると、しりとりすら出来なくなるのかと自分の脳機能のショボさに驚いた思い出である。