「デッドプール&ウルヴァリン」感想 消滅に抗う漢たち

映画「デッドプール&ウルヴァリン」観てきました。
デッドプールシリーズの最新作ということで期待していた作品。
20世紀フォックスがディズニーに買収され、本作からデッドプールもマーベル・スタジオが製作するMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の一員となった。
いろんな意味で注目していた作品だ。


王道あっての邪道

本作は賛否の分かれる作品だと思う。
人によって好き嫌いが分かれるのではないだろうか?

そもそも、デッドプールシリーズは邪道な作品である。
王道なヒーロー映画があるからこそ、存在が許されるのがデッドプールだ。
真っ当な正義を貫くヒーローに対して、デッドプールは下品で倫理観も欠如している上にいつもベラベラと余計なことを喋っている。
そこがデッドプールの魅力である。

だからこそ普段ヒーロー映画を観ない人からすれば、いまいちこの魅力が理解できないだろう。
なんだこいつ意味不明。
と、なってしまう。

さらにデッドプールはメタ的な言動がめちゃくちゃ多い。
画面を通してこちらに話しかけてきたり、製作の裏事情を皮肉ったりする。
言ってしまえば、物語への没入感をぶち壊してくるキャラだ。
普段から映画をよく観る人からすれば、こんな変化球は良いスパイスとなり面白さを感じれる。
しかし映画をあまり観ない人からすれば、そんなメタ言動は興醒めするだけではなかろうか。

デッドプールシリーズは世の中に王道の作品が多くあるからこそ輝ける作品であり、楽しむためには前提として王道を知っておかなければならない。


予習が必要?

このタイプの映画では、予習が必要なのか? と、よく言われる。
特にMCUの作品は作品同士の繋がりがかなり強いので、1作だけ観るとよくわからない、なんてこともありがちだ。
本作もそんなMCUの1作に組み込まれたので当然である。
さらに本作はデッドプールシリーズの3作目であり、X-MENシリーズのスピンオフでもある。

こんなことを言ってしまうと元も子もないが、全く1作で成り立っている作品ではないので、本作だけ観ても魅力はほとんど伝わらないだろう。

かと言って、本作を観るために過去の多くの作品を観たとしても、本作の魅力を最大限に感じれるかは微妙だ。

本作はかなり特殊な作品だ。
マーベルが好きか?
X-MENが好きか?
映画そのものが好きか?
出演している俳優が好きか?
という前提が必要なのである。
本作を楽しむには、まず“愛”が必須なのだ。


ストーリーすらメタ

メタ言動の多いデッドプールだが、彼の存在自体もメタだ。
デッドプールと言うキャラクターの基盤には、彼を演じるライアン・レイノルズの存在がある。
ライアン・レイノルズの過去の経歴があってこそのデッドプールなのである。
過去2作ではライアンの黒歴史を自虐したり、さらにはそれをエンタメとして昇華すらしていた。

そして本作はと言うと、デッドプールだけでなくストーリーまでもがメタな構造になっている。

本作のストーリー自体は至ってシンプルで、自分の世界の消滅を防ぐためにデッドプールが奮闘する、といった内容だ。
正直、かなりあっさりとしたストーリーで中身があまりない。
世界が消滅をすると言っても、いまいち危機感がなく感情移入もあまりできなかったりもする。
そこに否定的な人は多いだろう。

しかし、さっきも言った通り本作は1作で成り立っている映画ではない。
本作の基盤には、X-MENシリーズの重み、ライアン・レイノルズの存在、ディズニーに買収された20世紀フォックス、という要素がある
その視点で観ると本作のストーリーはとても興味深い。

本作は現実的にデッドプールやX-MENの世界が消えるかどうか、という話なのだ。
ディズニーに20世紀フォックスが買収され、今後はX-MENのキャラクターたちもマーベルスタジオの元で作品化されていくだろう。
MCUの世界観でX-MENがリブートされるなんて話もあるし、恐らくされると思う。
そうなると、過去に20世紀フォックスで作られてきたX-MENは無かったことにされるのだ。
そこで立ち上がったのがデッドプール。
彼が消えゆく世界で大暴れし、それを食い止めんとする。
20世紀フォックスが作り上げたX-MENの世界は無駄なんかではないんだ!と、言わんばかりに。

なんでもありのデッドプール(ライアン・レイノルズ)と、X-MENの顔であるウルヴァリン(ヒュー・ジャックマン)がタッグを組むというのにも大きな意味がある。
この2人だからこそ、ディズニー傘下のMCUでこれができた。
本作はディズニー配給の映画でありながら、20世紀フォックス最後のX-MEN映画なのだ。

本作は20世紀フォックスのX-MENの消滅に抗った2人の漢の奮闘を描いた、ある意味ドキュメンタリーのような作品だ。


無かったことにされた作品に光を当てる

本作はサプライズの多い作品でもあった。
過去のマーベル映画のキャラクターたちが多く再登場する。
しかも当時のキャストでだ。
これは単純にサプライズというだけでなく、やはり消滅に抗うという意味合いが大きい。

ネタバレになるが、本作にはクリス・エヴァンスが出演している。
MCUではキャプテン・アメリカを演じる彼だが、本作ではファンタスティック・フォーのヒューマン・トーチを演じている。
いや、そっちかい!ってギャグ的な出演ではあるけども、20世紀フォックスのファンタスティック・フォーの存在を刻み込むための出演とも思える。

他にもブレイド(ウェズリー・スナイプス)、エレクトラ(ジェニファー・ガーナー)、X-23(ダフネ・キーン)など過去のマーベル映画から多数登場していた。
敵キャラも当時のキャストで何人か登場してたな。

今やマーベルの作品のほとんどはディズニーのものになってしまった。
それに伴いMCUの世界観で多くの作品がリブートされていくはずだ。
ファンタスティック・フォーやブレイドもリブートされるらしい。

だからこそ過去に作られたMCU以外のマーベル映画は無かったことにされていく。
そこで本作では、忘れ去られていくであろうキャラクターたちに再び光を当てたのだ。
そこには愛とリスペクトが感じられる。

X-MENシリーズやMCU以前のマーベル映画があったからこそ、今のマーベル人気があると言っても過言ではない。
ブレイドなんてマーベルコミックが世間に浸透していない時期にヒットしたし、X-MENは世にマーベルコミックの魅力を伝えた作品でもある。
これらの作品は今のマーベル映画に大きな影響を与えているし、決して忘れてはならない存在だ。
それを本作では思い出させてくれた。

そして、ガンビットに関しては本当に粋な計らいだと思う。
詳しくは調べてもらえばわかると思うが、不遇なキャラ、不遇な俳優にスポットライトを当てるなんて、とても愛に溢れているなと感じた。


歴史の上に成り立った名作

本作はX-MENシリーズや過去のマーベル映画の歴史があってこそ生まれた名作だ。
そして、20世紀フォックスがディズニーに買収されたタイミングだからこそ生まれた名作でもある。
今後、生まれることがないであろう唯一無二の作品だと思う。

ライアン・レイノルズが作り上げたデッドプールも必須だったし、長年ウルヴァリンを演じてきたヒュー・ジャックマンも必須だった。
いろんな要因が重なりあって生まれた稀有な映画ではないだろうか。

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