ウーパールーパーの秘密
ウーパールーパーが嫌いだ。
私は生き物はわりと何でも好きで触れない生きものがいない。そんな私において唯一、ウーパールーパーだけが例外だ。
ウーパールーパーは白いむにゅっとした体つきをしていて、その体は透けている。両生類に属す、とぼけた顔をした何とも憎めない感じの生き物だ。正式名称をメキシコサラマンダーという。
一見かわいいこいつが私はなぜ嫌いなのか。それはハッキリとした理由がある。
遡ること12年前。私は中学2年生だった。私にとってウーパールーパーは理科室のイメージと直結する。
理科の授業は実験をメインとしていて、授業のほとんどは理科室で行われていた。4人で1つの班をつくり、班ごとに着席する。班で使う大きな机に背もたれのない木材でできた角イス。ここまではありふれた理科室だと思う。窓際には、水槽が並べられていた。その中に、ウーパールーパーはいた。
水槽はたしか4つか5つほどあった。どの水槽も例外なく、ウーパールーパーは重なるようにしてそこにいた。おびただしいほどの数だ。ぱっと見てもよく見ても判然としないほどのウーパールーパーがいた。水槽にパンパンと表現していいほど、ぎゅうぎゅう詰めにされたウーパールーパー。水はひどく濁り、汚れていた。呼吸をするのも苦しく感じるほど過密状態の水槽。どの水槽も同じ有様で、私はその光景を見た時、ぞっとした。
はじめはウーパールーパーだとはわからなかった。何か正体不明の生き物が水槽にいっぱいいる。よくよく観察すると、その姿の特徴からウーパールーパーだとわかった。だが、先ほど貼ったようなウーパールーパーの姿とは似ても似つかない姿だった。その皮膚は血が通っているようには思えないほど、真っ白だった。どの個体も真っ白で微動だにしない。とぼけた顔でお馴染みのその顔は、まるで生きてないみたいに虚空を見つめていた。私は怖くなった。理科室に来るたび、何か後ろめたいことをしているような気持ちになった。
生きているのに、生きてないようなまるで死んだような生き物。私の中のウーパールーパーのイメージだ。まるで水槽の中で氷漬けにされ、封印されてしまったようだった。
学校から帰ると必ずTVで夕方のニュース番組を観ていた。18時台はグルメ特集だ。私はそこで最近流行っている食材の料理を観た。それはウーパールーパーだった。姿焼きといってもいいほど見た目そのままのウーパールーパーが唐揚げにされていた。昼間の光景が思い出される。真っ白な体をした死んだようなウーパールーパー。私は想像した。それを口にいれ、咀嚼し、飲み込むことをーー。気持ち悪くなり、吐き気がこみ上げた。私はその瞬間、ウーパールーパーが嫌いになっていた。
あの時から随分時は流れたが、この気持ちは変わらない。汚れた水槽に息をするのも辛いほどパンパンに押し込められたウーパールーパー。無気力な瞳。大人になってからふと“白いウーパールーパーって何の種類なんだろう”と思い、検索をかけてみた。白いウーパールーパーの正体は貧血と白カビが原因だった。何も特別な種類だったわけじゃない。飼育放棄によりウーパールーパーは姿を変えてしまった。私は落ち込んだ。長い時をかけて、自分が見過ごした罪に気づいたからだ。
ウーパールーパーを見るとぞっとする。そして少しだけ胸が痛くなる。だからウーパールーパーが嫌いだ。
▼ウーパールーパーの詳しい生態について
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