もしもあの人が生きていたらなんて言っただろうね
「お父さんがいたら驚くだろうね、こんなに技術は進化したんだよって」
無線仲間がいて、自作PCが趣味で、新し物には誰よりも素早く飛びつく父。
携帯がスマホへ変わって、新作が出るたび頭に過る。
彼が他界したのは、2003年だった。
携帯、2003年(平成15年)には何があっただろう。
"12月に発売された「505iS」シリーズでは最高画質200万画素のカメラを登載した機種も発売された。"
画素数が高くなったカメラ付き携帯、折り畳み携帯。
調べていくうちに、昔、父から口煩く言われていたこと思い出した。
「チェーンメールを転送してリンクをクリックしても、パケット代がかかるだけだからやめなさい」
パケ代がかかる。『パケ死』という言葉も身近にあった。それから携帯で趣味のサイトや掲示板を巡ることは極力控えるようにした。
だがその年、パケ放題というものが発表された。
"2003年11月より「CDMA 1x WIN」という名称でパケット通信料の定額制を導入している。"
docomoは翌年からFOMAにおいてパケ放題を始めた。意外にもKDDIの方が先だった。我が家はAUだったのでこのパケ放題が憧れだった。
ただ、もう11月には父はいなかった。
亡くなったのは4月。
技術の邁進に驚き続ける、その始まりだったのに。口酸っぱく言われたパケ代がもう定額サービスになるのだ。亡くなったその年に。
もしかしたら定額制の話題はその年の始めにあったかもしれないけれど、父は定額制を知らなかったと思う。
2004年、ようやくWINを買った。
デザインも最新感が滲み出ていて、念願のパケ放題だった。あの時も同じことを思った。
お父さんが生きていたら、なんて言っただろう。
俺もほしいなあ、とか、大丈夫なのか、とか。
ワンセグが出てきた時、携帯でテレビが見られるのかあ、と革新的で。その時もまた彼を思った。
これは真っ先に買ってそうだよなあ。
自慢げに見せてきそう。
音楽プレイヤー
携帯だけじゃなくて身近だった音楽プレイヤーもどんどん進化していったのを思い出した。
CDプレイヤーからMDプレイヤーに変わって。MDを愛用していたけれど、MP3のデータ移動になって、スティックタイプのプレイヤーになったと思ったら、iTunesが出てiPodになって。目眩くだった。
音楽はあまり聴かない父だったけれど、こんなにいっぱいのアップル製品が目に触れたらなんて言うかな。
父はWindowsが大好きだった。子供ながらに自作PCを私用にくれたことを思い出す。そのパソコンで面白フラッシュを見るのが楽しかった。YouTubeも出てくる前の楽しみだった。
スマートフォン
2007年、初代iPhoneが発表された。
まず名前、スマートフォンってなに。が第一印象で。画面タッチというボタンがないころへの不信感は、ガラケーであの感触に親しんでいたからだと思う。
この頃はもう実家を出て上京、寮生活をしていた。
友人間であまり話題にはならなかった。
だがその翌年の2008年、私の中で激震が走った。
有難いことに奨学金などを得て米国で学んでいた私は、友人がiPhoneなるものを買ったと見せてくれた。
それがもう、衝撃だった。
「これでWikipediaが見れるんだよね、やばいっしょ」
うん、やばい。これに尽きた。
論文を書くにあたり、あまり使わないようにしていたけれどそれでも見てしまうのがWikipedia。
米国でも引用や参照でこれを使用するのはお勧めされない。
だが手っ取り早いので知識として見てしまう。
論文や調べ物が多かった当時、外にいながらにしてパソコンと同じようなネットサーフィンができることに心から感動した。
「ちっさいパソコンじゃん!」
友人にそう告げたのを今でも覚えている。
貧乏だったので、日本に帰ったら絶対買ってやる、と固く心に決めていた。
そして、初めて購入したのは2010年、3GSだった。
まだSoftBankでしか販売されておらず仕方なく契約した。まさかあのJ-PhoneからのVodaphoneになっていったSoftBankに手を出すとは思いもしなかった。
慣れなかったスマホという響きが、いつの間にか一般名詞になっていった。
──あれからさらに10年。2020年になった。
「もうすぐまた新しいiPhone出るらしいよ」
これは、つい先ほど友人から言われた言葉だ。
私は今、iPhone11を使っている。買って1年経つが、まだ使い勝手がいいので買い替えはしないと思う。
「へえ。どんどん新しくなるね、すごいなあガラケーだったのに」
ガラケーかあ。そんな単語すらなかったなあ。
携帯電話だったから。あれがまだ携帯の歴史の中で初期なんて思わなかった。毎年毎年が最新だったから。
2020年になってもなお頭に過る。
もしもあの人が生きていたらなんて言っただろう。
生きていたら70歳、お爺ちゃんの歳になっている。
まだまだ興味があっただろうか。
「お父さん、ついに新しいiPhone買っちゃったよ」
なんて嬉しそうに自慢してくる父を一度でも見てみたかったなあ、なんて。