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#21 開拓して生まれた日本最後の市町村 ―秋田県大潟村―

はじめに

『J NOTE』第21回は、秋田県南秋田郡大潟村を取り上げます。

大潟村は、秋田県の中央部に位置する人口約3,000人の村です。基幹産業は米づくりで、米どころが多い東北地方の市町村の中でも有数の産出額を誇っています。

表1:東北地方の市町村別 米産出額ランキング
農林水産省東北農政局『令和3年 市町村別農業産出額(推計)(東北)』より抜粋。

そんな大潟村は、村域のすべてが八郎潟という湖を干拓してできた土地です。そのため、自然に形成された山や川などは村内に存在せず、また村全体が八郎潟の調節池と放水路で囲まれているという、全国的にも珍しい地勢となっています。

そこで今回の『J NOTE』では、大潟村の特徴と今後の村づくりについて見ていきたいと思います。

大潟村の特徴

①全国でも珍しい農業特化型ニュータウン

大潟村は、1964年に人口わずか14人で開村した全国でも珍しい自治体です。当初は八郎潟の干拓事業に携わる職員の家族しか住んでいなかったものの、1966年に第1次入植者として56戸の農家が入植すると、徐々に住宅地の開発や公共施設の建設が進み、最盛期には人口約3,500人を記録しました。

大潟村の大きな特徴として、住宅を1ヶ所に集約している点が挙げられます。

八郎潟の干拓事業は、国内農業の大規模化や大型機械化のモデル事業として計画されていたことから、今までの農村と一線を画した街づくりが進められていきました。そのため、航空写真で大潟村の中心部をみると、区割りや様相が近隣市町村と大きく異なっていることが一目瞭然です。(図1・図2参照)

図1:大潟村の中心部の上空写真
Google mapの画像をトリミング加工したもの。
図2:近隣の男鹿市(左図)と八郎潟町(右図)の中心部の上空写真
Google mapの画像をトリミング加工したもの。

大潟村の住宅地は、都市部の郊外にあるニュータウンのように行政機関や小中学校などを中心部に設置し、それらを取り囲むようにして整備されています。そのため、生活の利便性が非常に高い街であるといえます。ちなみに、大潟村の住宅地の住所は「北」「西」「東」「南」、行政機関や小中学校の住所は「中央」と、非常にシンプルなものとなっています。

また、大潟村の住宅地と耕作地は完全に分離する形で整備されています。そのため、広大な農地が広がる村域の一角に近代的な住宅地がポツンとあるような、少し変わった景色がみられるのが大潟村の特徴です。

②地域産業が米づくりのみ

大潟村の産業は、開村当初から農業などの第1次産業が主力となっており、村全体の就業者の約8割を占めています。元々八郎潟の干拓事業は、米づくりに特化した最先端の農村づくりを目指していたことから、現在でも米生産額は村の農業生産額の実に94%を占める形となっています。(図3参照)

図3:大潟村の農業生産額 部門別割合(2021年)
農林水産省「統計情報 秋田県大潟村」を参考に筆者が作成。

村内では畑作や畜産業なども行われていますが、干拓地であるために畑作に不向きな土壌であることや、1戸あたりの米の作付面積が大きいため専業で米づくりをする農家が多く、米以外の生産額は数%程度に留まっているのが現状です。

そこで、JA大潟村では米以外の農作物を加工した商品を販売しています。村内でとれたカボチャのパイやタルト、豆味噌などが生産されており、あぐりプラザおおがたなどで実際に販売されています。

大潟村のこれから

秋田県は全国で最も少子高齢化が進み、人口が急減している都道府県の一つです。その中で、大潟村は秋田県内でもトップクラスに出生率が高く、また人口の減少幅も他の自治体と比較するとやや小さいものとなっています。(表2)

表2:秋田県の各自治体の推計人口(2020年・2023年)
総務省「令和2年 国勢調査 人口等基本集計」
秋田県企画振興部調査統計課「秋田県の人口と世帯(2023.7.1)」を元に作成。

しかし、大潟村の人口はおよそ3年間で150人(−4.7%)減少しており、将来の人口ビジョンは決して明るいものではないといえます。

そこで、大潟村では2018年に「第2期 大潟村総合村づくり計画」を策定して、7つの基本目標を掲げた上で「住み継がれる元気な村」を実現するために様々な政策に取り組んでいます。それらの取り組みには、未開の土地を切り開いてきた開拓者精神が色濃く残っており、その精神を次世代に受け継いでいくために、常に時代の変革に立ち向かう姿勢を政策内で重要視しています。

そういった中で、産業については商工業の振興や観光振興、農産物の6次産業化などの様々な産業政策に取り組んでいます。また、村内に立地する秋田県立大学と連携を強化し、農業や環境分野などで協力や共同研究を進めています。

そして、米づくりに依存している産業構造の変革と、恒久的にこの土地で生活できるように「しなやかで力強い農業」を確立を目指して、大潟村では日々村づくり政策に取り組んでいます。

おわりに

ここまで、秋田県大潟村の特徴についてみてきました。

大潟村は開村当時から常に最新の農業モデルの確立を目指しており、住宅地や耕作地の開発、そしてこれからの農村づくりについても最先端を追い求めていることがわかりました。

関連文献

  • 赤堀弘和「大規模水田作経営の環境負荷ポテンシャルに関する研究 ―大潟村水稲作における窒素収支推移モデルの構築―」『秋田県立大学ウェブジャーナルB(研究成果部門)』第5号(秋田県立大学 地域連携・研究推進センター、2018年)

  • 薄井伯征「博物館による地域活性化への挑戦 ―秋田県大潟村における実践から」『日本ミュージアム・マネージメント学会研究紀要』第16号(日本ミュージアム・マネージメント学会、2012年)

  • 佐藤了、長濱健一郎、渡部岳陽「水田農業の次世代モデルを問う」『農業経済研究』第88号第3巻(日本農業経済学会、2016年)

  • 千葉和夫「大潟村における人と植物との関わり方の歴史 ―稲作の歩みとその特徴」『人間・植物関係学会雑誌』第18号第2巻(人間・植物関係学会、2019年)

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